あの後、男性陣と女性陣とで別れて話をしていた。
無論、レイリアとディアナは女性陣である。
そして、カスミはレイリアにべったりとくっついたまま眠り込んでいた。
「すっごい、よくできているわねこの変装術。
こんな性別が迷子になるような能力ってすごいわね!
言っても、レイリアもディア様も変身前とそんなに差がないような気がするけどさ――」
「本当にお2人ともお綺麗です! いいなあ、こんな女性になってみたいなぁ――」
フロレンティーナとフラウディアがそれぞれ言うと、レイリアとディアナは答えた。
「あら、2人ともお上手ですね。
そんなこと気にされなくたって、フラウディアさんは十分に素敵な女性ですよ。
それにフローラさんだって、少し前に妖獣ラミアを熱演したばかりではないですか、
そもそもお2人とも、変装術なんか使わなくたって十分美人ですから!」
「ふふっ、お2人に褒めていただけるなんて嬉しいです! でも、私なんて所詮はただの変装ですから――」
フラウディアは全力で否定した。
「そんなことないですよ!
たとえ変装でも、素がお綺麗だから素敵な人になれるんだと思います!
レイリアさんもディアナさんも私なんかよりも全然――」
それに対してレイリアは即反応した。
「何を言っているんですか、あなたには素敵な旦那様がいるではないですか?
それだけでもあなたは十分魅力的な女性であることを物語っているわけですから、
そんなに自分を卑下しなくてもいいと思いますよ?」
そういわれたフラウディア、少し考えなおし、態度を改めて言った。
「確かにそうですね、私にはスレアさんがいます、彼のためにも自分を貫こうと思います、
でも、そんな大事なことを気が付かせてくれるお姉様こそ、
やっぱりとっても素敵な人だなって思います! やっぱりお姉様は私のあこがれの女性です!」
そう言われたレイリアは照れた様子で答えた。
「あら、そうですか?
でしたら、フラウディアさんのハードルをもう少し上げちゃおうかな……?」
どこかで聞いたことがあるセリフだった。
そして、フロレンティーナはディアナに対して言った。
「それにしても、あなたも本当に素敵ね。やっぱり、彼女さんの影響もあるのかしら?」
「ええ、まあ、エレイアの影響は結構受けていますね。
ここをこうした方がいいとか、ああした方がいい、とか。
最初はなんだか小難しいことだと考えていたりしていたけれども、
今じゃあすっかり慣れたというか、板についたというか、とりあえずそんな感じですね。
そして、なんだかんだでエレイアのお姉さんみたいな感じね――」
フロレンティーナはにっこりとしながら言った。
「うふふっ、素敵な彼氏さんね、エレイアが羨ましいわ――」
そう言われたディアナはにっこりとしていた。
対して男性陣、女性陣がさらに話を盛り上げている中で話を始めていた。
「あのさ、なんでリファリウスとディルフォードのやつは女性陣として話をしているんだ?
てか、ディルフォードのやつはいつからああなったんだ?」
クラフォードがそう言うとイールアーズが言った。
「……あんなの、俺が知っているディルフォードじゃない。
少し前にうちらのいざこざがあって、その後にケンダルスで修行して賢者になったっていう話は知っているが、
あんなふうになったなんて俺も初めて知った、一体、やつに何があったんだ?」
「ちらっと聞こえてきた話だと、エレイアさんってのがキーになっているようだが?」
スレアがそう訊くとイールアーズは答えた。
「確かに、エレイアも俺たちと同じシェトランド人で、
シェトランドの里長の一人であるワイズリアの一人娘でもある。
ディルに聞いた話だが、エレイアは元々許嫁という関係だったそうだな。
でも、それでどうしてディルフォードが女装することになったのかについてはさっぱりわからんな」
「女装というより、あれはまさしくディアナっていうほぼ女だな。
しかも心なしか、どことなくアリエーラさんに似てなくもないような気がする。
だから、何も知らずにあれをディアナっていう女性だって言われたら、
疑う気すら起こりえないだろうし、万人斬りだと言われても理解に苦しむと思う」
クラフォードが考えながらそう言うとスレアは頷きながら言った。
「アリエーラさんな……そういえばリリアさんも言っていた気がするな、
ディスティアはなんとなくアリエーラさんに似ている気がするってな。
確かに、あの姿を見せられるとなるほどと思う――つまり、ディアナさんはアリエーラさんに寄せた姿というわけではないか。
それに、あのレイリアさんが実はリファリウスだなんて疑いもせず、
微塵にも思わなかった、見分けられる自身なんかないな。
それこそ、見るからに男らしい要素が一切ないし、今も女性陣とも普通に会話が弾んでいる感じだ。
何が楽しいのかはわからんが、正直、当人さえよければ何でもいいんじゃないのかっていう感じだ」
そう言うスレアに対してティレックスが言った。
「ディスティアがアリエーラさんに似ているような気がする……そう思ったのは俺だけじゃなかったのか。
それはともかく、スレアの場合はディアナさんというより、フラウディアさんが楽しそうにしているからだろ?」
そう言われたスレアはティレックスのほうへと向き直って言った。
「ん? ああ、そういえばまだ全然話せていなかったな。
まあ、大体把握していると思うけれども、俺とフラウディアとはつまりはそういう仲だ。
彼女は例によって例によるし、お前も知っている通り、
彼女に対して問題を起こした側ではあるわけだが、紆余曲折を経てそういうことになった。
俺に対しても彼女に対しても言いたいことはあるかもしれんが――」
それに対してティレックスは慌てながら答えた。
「いや、別に俺はそれでいいと思うよ。
それで、そういう仲を築き上げられたんだったら猶更よかったんだと思うし。
にしても、そっか、フラウディアさんが――なかなか綺麗な彼女さんでよかったじゃないか、
てか、ラシルとかと違ってあまりに堂々と言うもんだから――返っていじりにくいな――」
そう言われたスレアはニヤっとしていた。それに対してイールアーズは呆れながら言い捨てた。
「けっ、どいつもこいつも、色気づきやがって。
それにおしゃべりよりも、目先の目的を忘れないでほしいもんだ。
敵はクラウディアスの南側に回り込んでいるんだろ? そっちを気にするべきなんじゃないのか?」
それに対してクラフォードが苦言を呈した。
「それについては一理あるが――戦士には休息も必要だ、
さっきレイリアさんが言ったように、クラウディアスに着くまでまだ結構時間がある、
多少の余暇を楽しむ暇があってもいいんじゃないか?」
さらにスレアが追い打ちをかけた。
「まあまあ、自分と妹以外はどうでもいいやつにとってみれば、ただ居心地が悪いだけなんだろう。
なあティレックス、お前もそう思うだろ?」
ティレックスは遠慮がちに言った。
「えっ? それはえっと――イールには悪いけど、確かにそうかもな――」
そう言われたイールアーズは「ふん、どいつもこいつも!」といいながらその場から去ってしまった。
それに対してクラフォードが言った。
「あれ? イールのやつ、なんか思ったよりもリアクションが薄いな、
もっとキレ出すと思ったんだが、少し前にディルに言われたことが刺さっているのだろうか?」
それに対してスレアが。
「いや、多分、色気づいた兄ちゃんやらおしゃべりな女性陣だらけなメンツばかりだから、
そんな連中に言われてもっていうところなんだろうよ?」
クラフォードは首をかしげていた。
「俺はどちらにも当てはまらないんだが。
まあ、ディル・スレア・ティレックスという色気づいた兄ちゃんだらけなら、
シスコン・イールとしては環境が悪すぎか」
それに対してティレックスが意見した。
「なんで俺まで! 俺もどちらにも当てはまらないぞ!」
しかし、スレアが追い立てるように言った。
「えっ? 違うのか? いつもあのユーシィと仲がいいじゃないか? だから俺はてっきりそうだと思っていたんだが?」
さらにクラフォードも。
「あんなに仲良さそうなのにか?
もったいないな、彼女もお前に気があるみたいな感じだし、早めに告っちまったほうがいいと思うぞ。
誰もがお前らがデキていると思っているから別に照れる必要はなさそうだしな」
そう言われたティレックスは耳を疑っていた、ただの幼馴染なのに、どうしてそんな――
しかし、ティレックスとユーシェリアはそれほど仲がいいのは疑いようのない事実であった。