エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第6章 連合軍の作戦

第184節 狙い

 システム・D”Destroyer”、 それはまさしく、ディスタード帝国本土軍お得意のエンチャント技術の人体転用による産物だった。
「システム・D”Destroyer”は戦闘能力を追及するがあまり、 自我が崩壊した、ただの生ける戦闘マシンです。 元々は人間でもなかった存在なのですが――こんな生物を生み出すなんて――」
 フラウディアは力なくそう言うと、フロレンティーナが言った。
「それにこいつは力の制御が利かなくなっている失敗作、故に未完成ということになっているんだけれども―― あいつら、本当に動かすなんて――せめて、私たちの手でこいつらを止めて見せるわ!」
 そう言いながらフロレンティーナとフラウディアが前に立ちはだかると、フロレンティーナはレイリアに言った。
「となると、システム・T”Terminator”のほうも早く止めないと大変なことになりそうね。 ここは私たち2人に任せて、あなたたち2人はそっちのほうをお願いできるかしら!?」
 それに対し、レイリアは少し真剣な顔をしながら頷きつつ、ティレックスを連れてさらに奥へと突き進んでいった。
「な、なんか大変なことになってきたな、エンチャント技術の人体転用――あの2人、本当に大丈夫かな?  てか、そもそも俺たちも大丈夫だろうか? この奥にシステム・T”Terminator”というのがいるみたいだが――」
 ティレックスは困惑していた。

 そして、2人はさらに道を突き進むと、そこには天使のような姿をしたモニュメントが――
「うん? それ、動いてないか?」
 ティレックスはそのモニュメントが動いていることに気が付いた、 すると、その天使像は2人の前へとやってきた、2足歩行式の不気味な人形のようだった。
「これもエンチャント技術転用しているのか? なわけないか、どう見ても機械――」
 しかし、レイリアは首を横に振りながら言った。
「外皮こそ機械のようですが、中身は先ほどのシステム・D”Destroyer”と同様の生命体の様ですね。 こちらは機械との融合によってさらに能力を高めているようです。」
 マジかよ――ティレックスは呆気に取られていた。

 そんな中、クラウディアスの援軍が到着し、帝国本土の下層のほうを制圧しつつあった。
「お疲れさん、流石にあらかた片付いているな」
 援軍に来たスレアがそういうと、ディスティアも話を始めた。
「御覧の通りですよ。 ほとんどイールとエクスフォスの2人でやってくれるものですから、私はゆっくりできて楽なもんですよ」
「なんだよ、あんたはマジメにやらないのか?」
「やりたいのは山々なんですが、あの3人で仕事の取り合いをしていまして、 そんな中ダメ押し気味に私が入ったところでさほど影響が変わらないので私は後始末をしているのです。 ただ、あの3人、仕事をやってくれることに関しては申し分ないのですが、 指揮する人がいなければてんでダメで、勝手なことばかりするんですよ。 だから私が後方支援気味に彼らに指示を出しているような状況ですね」
 それを聞いたスレアは頭を抱えながら言った。
「なるほど、そのあたりは相変わらずというか……。 最初に聞いた時はそんなメンバーで大丈夫かと思ったけれども、 あんたが導いているのなら大丈夫そうだな」
 すると、遠目からイールアーズの怒号が聞こえてきた。
「おい! ディルフォード! 次はどこをやればいいんだ!?  また余計なところ攻撃したら怒るだろお前!」
 それに続いてエクスフォスの2人は――
「イールアーズ! 全部オメーが悪いんだろ! いい加減にしろ!」
「まったくだ! 少しはテメーで考えろ!」
「あん? なんだとテメーら!」
 それに対してディスティアは何それとなく返答した。
「そうですね、でしたらクラウディアスの援軍が到着したようですので、いよいよ上層へ向かう道を――」
 すると、3人は足早に例のゲートのほうへと向かって行った。その様を見ながらスレアは訊いた。
「よくもまああんな猛獣みたいなメンバーを丸められるな、あんた」
 ディスティアは答えた。
「まあ、イールにしても、彼を取り巻く環境にしても、昔から大体あんな感じでしたからね、流石にもう慣れました。 言っても、指示さえ出せばやることだけは確実ですので、 こちらからすることはただ指示を与えるだけという簡単なお仕事でしかないのですよ。 ただ、あんなふうに熱くなると周囲の状況が見えなくなるのが玉に瑕ですが――」
 それに対してスレアは言った。
「周囲の状況が見えなくなる――それが後にイールが”鬼人の剣”と呼ばれるに至った理由というわけだな」
 ディスティアは頷きながら言った。
「まあ、そういうことですね。 もっとも、当時”鬼人の剣”と呼ばれるに至った周囲の状況が見えなくなる理由については別の要因があったわけですが」
「妹か?」
「そういうことですね」

 クラウディアス援軍が到着し、態勢を整えると、一団は一気に上層を制圧しにかかった。
「そういえば、レイリアさんやクラフォードたちは? ティレックスと元本土軍組もいないようだが?」
 スレアはそう訊くとディスティアは答えた。
「さあ、こちらもスレアさんが把握している以上の情報は持っていませんよ。 既に軍本部内にいることは確実なようですが、それ以上のことはこちらにも知らされていません」
 さらにスレアはディスティアに訊いた。
「ずっと今まで引っかかっているんだが、あのレイリアさんって何者なんだ?  キラルディアの人ってのはともかく、何故この作戦に組まれているんだ?」
「確かに、気になりますね。 それになんとなくですが、どことなく、常人離れしたような空気を思わせるようなところもあります。 それこそ、俗にいう”ネームレス”さんと同じような雰囲気です、まさかとは思いますが――」
「レイリアさんが”ネームレス”? なんだかまた妙なところで”ネームレス”というのが出てくるもんだな。 ということはつまり、彼女は”ネームレス”だから作戦に組まれていることになるわけか。 ”ネームレス”の実力は確かだから、ほとんど力にものを言わせた作戦みたいな感じだな」
 それに対してディスティアはニヤッとしながら言った。
「あーあ、とうとう言ってしまいましたね、かくいう私もそう思っていましたことがありましたが。 だけど、それはこの作戦を遂行する上でのものでしかありません。 実際、この作戦を立てているのも”ネームレス”の方ですが、 作戦の立て方も、そのための根回しも、すべてひっくるめてかなりの切れ者のように感じます。 これは単に”ネームレス”だからということでは片づけられない能力と思いますね――」
 スレアも話を始めた。
「確かに、言われてみればそうだな。 なんというか、兵法に長けた参謀が立てた作戦というよりも、 複雑なロジックを組み立てたうえで成り立っている作戦のような感じだな。 現に作戦を立てたやつは面倒なところまで考えながらモノ作るのが得意なやつだから、 そういうのが作戦にも反映されているのかもしれないな。 それに――その作戦には大体作戦を考えた当の本人も作戦に組まれているっていうのも特徴なんだよな」
 ディスティアは頷いた。
「そうなんですよね。ですが、今回は作戦を考えた当の本人がどこにもいません、一体何をしているのでしょう?」
 するとその時、2人の頭に電流が走った。
「えっ!? 作戦を考えた当の本人ってまさか!?」
「おいおいおい、待てよ、もしかして――」
「いえ、まさかですよね? でも、もしそうだとして、”あの人”の狙いは一体何なのでしょう?」
「さあな。まあ、いつものことなら狙いなんて多分ないかもしれないぞ、”あの人”のことだからな」
 2人はなんだか妙な胸騒ぎがしていた。