あまりに堂々と、かつこっそり通過できたことについて、フラウディアとフロレンティーナの2人は何とも言えない状況だった。
そんな2人を他所に、レイリアは楽しそうに鼻歌を歌いながら階段を上り、そして上層を散策していた。
「fm~~~fm~~~fm~fm~fm~fm~fm~fm~fm~fm~fm~~~~~♪」
「そのメロディラインって――」
フロレンティーナは気が付いた。
「羽を失っちゃあ世界最速の男になれないからな。
また夢を見させてもらうぜ。ファルコンよ。ですね!」
「やっぱり! 今度は俺達の夢を。」
「えっ、なんですかソレ――」
「今度教えてあげるから!」
フラウディアの疑問を他所に、レイリアたちはとある区画へとやってきた。
「さて、下層からの貨物控えはこちらですか?」
レイリアがそう言うと、フロレンティーナは慌てながら促した。
「えっ、ああ、そうそう、こっちよこっち――」
すると、そこには大きなコンテナが運ばれている光景が。
「あれじゃないですよね?」
レイリアがそういうと、フロレンティーナが答えた。
「あれからそれなりに時間経っているからもうすでに上に来ているハズよ。
それに、もう少し小型のコンテナだったハズ――」
そう言いながらフロレンティーナはコンテナだらけの場所を進んでいると、目的のコンテナの前へと急いでいった。
「これよこれ!」
そう言いながら、レイリアとフラウディアを促した。
「では、さっそく開けますか――」
レイリアがそういうと、フラウディアは周囲を警戒し、誰も来ないことを確認していた。
そして、レイリアとフロレンティーナは力を合わせてコンテナを力いっぱい開けた。すると――
「ふぁっ、息苦しかった――」
ティレックスが中から出て来るや否や、そんなことを言っていた。
「全くだ、ついでに埃臭くてかなわん。
にしてもなんだか時間がかかっていたようだが、何かあったのか?」
そして、ティレックスに続いてクラフォードが現れるとそう訊いてきた。
「いえいえ、ただあなた方仲間を求めて歩いていただけです――」
レイリアがそういうと、クラフォードは呆気に取られ「はぁ!?」と言い返していた。
「こっちの話よ。いつまでもこんなにいると怪しまれるから早いところ場所を変えましょ」
フロレンティーナはそう促し、5人はその場をすぐさま立ち去った。
「まあいい。とにかく、夢を作り出せばいいんだな」
クラフォードはいきなりそんなことを言い出したのでティレックスは驚いた。
レイリアとフロレンティーナのノリに触発されたのか。
「あんたまで何言ってんだ?」
「これまでの生い立ちのせいかもしれんが、お前には余裕というのを感じないから、
もう少し遊んでみることを覚えてみるのもいいかもしれないと思うな」
「ちぇっ、またかよ――」
ティレックスは愚痴をこぼしていた。
5人はそのまま人気の少ない路地へと進み、話をしていた。
上層の町並みは下層とあまり変わらず、どちらも広々とはしているが、
武骨な鉄の塊があちこちにあり、殺伐とした雰囲気の中に何とも言えない異様な光景が広がっていた。
5人が身を潜めたのも、そんな武骨な鉄の塊の脇にある、恐らく兵器を積むのに使うであろう木でできたコンテナの脇である。
その木のコンテナも風雨にさらされ、劣化がかなり激しくなっていた。
「なーんか、どの店入っても監視されそうで怖いな」
クラフォードがそういうとフラウディアは頷いた。
「店だけでなく、私たちの宿舎も恐らく危険と思います。
私たちの宿舎は特別な区画にありまして、本土軍でも上位の者しか入れません。
そういう場所ですので、こうなっている以上は――」
それに対してレイリアが言った。
「ベイダ・シスターズが解体し、裏切り者が発生したっていう情報が全体にいきわたるのも時間の問題ということですね。
情報の伝達は緩やかではありますが、私たちの身に危険が及ぶのもそう遠くはない未来ですか。
さしづめ、今はその過渡期と言ったところでしょうか?」
「じゃあ、あんまりのんびりしていられないな」
ティレックスは考えながらそう言った。
「ではとりあえず、ギリギリまで接近しましょうか。それではみなさん、行きましょう!」
レイリアがそういうと、先に進んでいった――
「えっ、ちょっと! なんでレイリアさん――」
ティレックスは何故か先に行ってしまうレイリアの行動に対して気にしながらそう言うと、クラフォードが答えた。
「まあ、こういうシチュエーションに慣れているんだろ。
それこそ自分たちに対する厳戒令が敷かれている中なんてことを考えれば、
フラウディアさんもフローラさんも迂闊に進めないわけだ。
だったら第3者の目線からどう切り抜けていくのがいいか考えても別におかしくはないってところだろう」
そういうものなのだろうか、ティレックスはそう思っていると、4人はさっさと進んでしまっていた。
「あっ、ちょっと、待てってば――」
ティレックスは慌てて4人の後を追った。
あれから30分ほど経過した。
上層に向かった5人はなんと、軍本部内へと侵入に成功してしまった。
そして、今は会議室を一つ陣取っていた。
「なんかすんなりと侵入できたな、最初から警戒する必要はなかったんじゃないか?」
クラフォードはそう言いつつ、流石に敵の本拠地というだけあって、それは流石に言いすぎかと付け加えた。
しかし、フラウディアもフロレンティーナも違和感を覚えていたようだ。
「いえ、確かに、言われてみれば妙ですね。
いつもならもっと兵隊の数があってもおかしくないのですが、前の戦いでの影響が出ているのでしょうか――」
「影響が出ているとしても、それでも流石に兵隊の数が少ない気がするわね。
下層も上層も、本部の見張りもぜんぜんいなかったように思えるし。
もしかして――なんだか嫌な予感がするわ――」
それは思い過ごしだったらいいのだけれども、なんだか気になる感じである。
一方でレイリアはパーテーションの裏で外部に連絡していて、電話を切ると、4人の元へとやってきた。
「あっ、レイリアさん」
ティレックスがそういうと、レイリアは答えた。
「準備はすべて整ったようですので、作戦を開始することになりました。
予定通り、手始めに下層側にいるシェトランドさんとエクスフォスさんたちが行動を起こしますので、私たちはその後次第ということですね。」
それに対してティレックスは頷いたが、クラフォードは眉をひそめながら訊いた。
「その後っていうのはいいんだが、ここにこのまま潜んでいても大丈夫なのかどうか心配なところだな。
その点についてはどう思う?」
レイリアは笑顔で答えた。
「その心配には及びませんよ。
下のほうでみなさんがいろいろとかき乱してくれている状況ですから、
そうなれば、ここで少しぐらい騒ぎを起こしたところでさほど問題はないことでしょう。
ですので、私たちとしてはむしろ、敵の中枢を突く作戦をこのまま続行していくべきだと思いますね。」
そこへフロレンティーナが言った。
「でも、やっぱり本部が手薄なのが気になるところね。
好都合といえば好都合なのかもしれないけれども、
いざというときになって変な問題が起こることだけは避けたいわ――」
それに対してフラウディアは心配そうな目でフロレンティーナの顔を見ていた。
「それこそ、ガレアと本土との海峡に停泊していたあの船のことも気になりますね。
だけどまさか、あの船にこちらの兵たちが全部収容されているとか、ないですよね?」
レイリアはそう言うとクラフォードは難しい顔をしながら何か考え込んでいた。
「まあでも、そっちはとりあえず動きがないってんなら大丈夫なんじゃないかな?
気になるのは山々だけど、少なくとも、それだけは確かだと思いますけど――」
ティレックスがそういうと、レイリアはにっこりとしながら言った。
「確かに、それもそうですね、今気にしても仕方がありません。
当然、船を監視するためにガレアにも部隊がちゃんといるわけですし、そのための本土軍包囲網でもありますからね!」
「そうですよ、ガレアにはアール将軍がいるんだから、そのあたりはちゃんとやってもらわないと」
ティレックスがそう続けるとクラフォードが呟いた。
「それはあくまでアールがいればの話だけどな――」
なんだか裏がありそうだった。