フロレンティーナが注意を促しながら言った。
「とりあえず、町に入るわよ――」
帝国首都の町の入り口までやってきた一行、特に何がいるわけでもなく、町の中へと入っていった。
町の入り口には石でできた頑丈な橋がかけられており、それを渡り切ると町の中である。
「ここから入るのはずいぶんと久しぶりね――」
フロレンティーナがそういうとフラウディアも頷きながら言った。
「この島にはいつもだったら海から出入りしますからね。
そもそも、この島がこんな島だったなんて、私、実は初めて知りました――」
そういったところは流石は元帝国軍のエリートである。
「とりあえず、こっちには何それとなく入れるけれども、問題は”上層”にはどうやって行くかよね――」
フロレンティーナがそう言いながら指をさすと、
そこには帝国の兵士たちがしっかりと見張っている区画があった、あの先が”上層”に向かうエリアだそうだ。
「むしろ、こんな大所帯で何事かって感じだよな。ならば、こうしたらどうだ?
とりあえず、俺たちシェトランドは手はず通り町の中で事を起こすことにするわけだが、
待機場所は別にその”上層”でなくていいだろ? で、ついでだからお前らエクスフォスもここに残れ」
と、イールアーズが言うと、2人は驚いていた。それに対してイールアーズは答えた。
「お前ら、以前俺らに負けたまんまで恰好が付かんだろ、
だから今度はお前らがどこまでやれるのか、ひとつ勝負と行こうじゃないか?
それともなんだ、もう怖気図いたのか?」
なっ――2人はムキになって言い返そうとすると、ディスティアが優しく諭した。
「まあまあ、あれはイールなりの優しさだ。
不器用なやつだから、一緒に戦ってくれないかって素直に言えないんだ。
だからここはひとつ、私に免じて一緒に戦ってくれないか?」
すると、イールアーズがムキになって言う。
「んなわけあるか!
なんで足手まといのエクスフォスと一緒に戦う必要があるんだよ!」
さっき言っていることとそう言っていることとがかみ合わない。
まさに照れ隠しであることを2人は悟り、ひそかに笑っていた。それに対してイールアーズは――
「くそっ、ったく、だいたいこの程度のこと、そもそも俺一人で充分だっての」
捨て台詞を吐いていた。
というわけで、イールアーズの言った通りに進めることにした一行、
エクスフォス2人とシェトランド2人の4人をその場において、残りのメンバーは”上層”へ向かうために何やら考えていた。
「ど、どうやって向かうのですか?」
ティレックスは少しビビりながらフロレンティーナに訊くと、彼女は答えた。
「一つしかないわね、とりあえず2人とも、こっちに来て――」
クラフォードとティレックスは彼女に促されるままに事を運んでいた。
「大丈夫でしょうか――」
レイリアは心配そうに言うと、フラウディアが言った。
「多分、大丈夫だと思います! 帝国軍のエリート感を出していけばいいんですよ!」
帝国軍のエリート感……そう言われたレイリアは何やら心当たりがあるらしくその場で深呼吸、気合を入れていた。
「分かったわ、そういうことならやってみるわね――」
「そうそう! レイリアさん、その意気です!」
しかし、レイリアとしては一つだけ気がかりな点があった。
「あなたたちこそ、本当に大丈夫なのでしょうか?」
それに対し、男2人との打ち合わせを済ませてきたフロレンティーナがやってきて言った。
「こいつらの欠点は、末端に情報を流すのが遅いことよ。ま、規模が大きすぎるという弊害そのものね。
それに、ベイダ・シスターズぐらいは流石にみんな知っているけれども、詳細や具体的なことについては極秘中の極秘だから、
4人死んでいることも多分わかっていないでしょう」
ベイダ・シスターズが4人死んでいる?
2人死んで2人裏切った、それなのに4人死んでいるとは?
レイリアがそう訊くと、フラウディアは答えた。
「ベイダ・シスターズ結成時の人数は6人です。あとの2人は純粋な女性です。
もっとも、その2人は本土軍カーストで言えば下の下で、
マジェーラとエリューネルなんかは彼女ら2人をいつも見下していましたからね。
だけど――私も、フローラ姉さんも、いつも仲良くしていましたね――」
フロレンティーナが悲しそうに言った。
「その2人が亡くなっても、誰もそれを認識していなかったのよ。
そもそも、最初から4人しかいなかったんじゃないか、とかね。
最初は本土軍カーストで言えば下の下の2人だからかなって思ったけれども、
私がゲイスティールを殺したときもそうで、配下の誰もがそいつが死んだことをまったく把握してなかった。
その時に思ったわ、ここはそういう場所、誰かが死んだからって、誰も気にしちゃくれないのよ。
そう、たとえ私が死んでも――気にしてくれるのはフラウディアだけ――」
それに対してフラウディアも言った。
「うん! 私はフローラお姉様のことは絶対に気にします!
だからお姉様、絶対に死なないでくださいね!」
「あなたもよ、フラウディア。
あんたのことは私が気にしているんだし、何より今はクラウディアスに愛しの旦那様がいるんだから、
あんたが死んだら彼に顔向けできなくなっちゃうでしょ?」
そう言われたフラウディアは照れながら嬉しそうにしていた。
そんな2人を見ながら、レイリアはただニコニコと微笑んでいた、
どこかの女神様みたいだ、あえてどの女神様とは言わないが。