それからほどなくして、ユーラル側で動きがあったようだ。
本土軍の陣営を発見し、いよいよ攻撃に移ろうという状況まで迫っていたのである。
一方、その知らせを聞いたガレア側もディスタード本土への進軍の準備を進めていた。
そんな中、一部の男性陣は話をしていた。
「キラルディアって難儀な国なんだな、そんなことがあったのか。
とにかく、いきなり聞いたことのない国の連中が参戦しているからなんだと思ったら、そういう理由なんだな」
アーシェリスはティレックスから聞いた話に対してそうリアクションをしていた。
「お前が嫌いなリファリウスだが、あれでもキラルディアへの協力要請のために身を削っているらしい。
別に考えを改めろってわけじゃあないが……なんというか、その――」
ティレックスは何を言うべきか言葉に詰まっていたが、アーシェリスとしては言わんとしていることはわかっていた、
アーシェリスといえばリファリウスが心底嫌いで、態度的にも完全にそれが現れている。
とはいえ、当然、一定の評価はしているつもりなのだが、やはりあいつの人間性を考えると素直にそれができないでいるのが実際のところである。
だが、それとは別に、アーシェリスはその話を聞いてとある疑問がわいてきた、それは――
「で、リファリウスがクリアーしたっていう、そのキラルディアの無理難題ってどんな要求だったんだ?」
それに対してフェリオースが言った。
「そういえばどんな要求だったかは訊いてないな、なんだったんだ?」
訊かれたティレックスは首を横に振っていた。
「俺も聞いてないぞ。
だけど、確かに気になるな、多くの国が課題を断念するほどの難解なものらしいから、
リファリウスがどうやって課題をクリアーできたのか――」
アーシェリスはさらに訊いた。
「別にどの国にも同じ課題を出しているわけじゃあないんだろ?」
「レイリアさんの話じゃあそうみたいだな、
グレート・グランドにはバルティス・ウォータをよこせと、
ルシルメアには決闘に勝利することを突き付けてどちらも失敗しているらしいし――」
フェリオースは考えながらそう言った。
そのほか、ティレックスの調べではアルディアスからも大昔に何かしらの要求を出していたが、
いずれも相当ハードルの高い課題を前にしてことごとく断念している記録があったことを明かしていた。
そこへレイリアがやってきた。
彼女の後ろにはユーシェリアとクラフォード、そしてフロレンティーナとフラウディアが一緒にいた。
「あ、みなさんお揃いでしたね。それではいきますか?」
えっ、行くっていうのはどういう――ティレックスはそう訊くとフロレンティーナは答えた。
「私たちが先発隊としてディスタード本土軍の本部へと侵入することになったのよ。
もちろん裏切り者が裏切った国の土を踏みしめているところが気になるところだけれども、
そもそも裏切っていることを把握していてもそれは大体上層部の連中の話、
本部に入るところまでならそこまで神経質になるほどのものじゃないかと思ってさ。
だから、私もフラウディアもベイダ・シスターズの一員みたいな感じを装い、
あんたたちも私らの部下みたいな顔をして平然としていればいいかなと思って――」
すると、フロレンティーナは申し訳なさそうな感じで言った。
「まあ、そうなると、申し訳ないけどレイリアもベイダ・シスターズの一員みたいにしてもらう必要があるんだけど――」
それに対してレイリアが気さくに言った。
「ベイダ・シスターズということは本当は男ということですか?
でも、ベイダ・シスターズはそもそも”本物の女性の如き”の団員で構成されているわけですから、
それなら私にも務まりますよね?
それこそ、お二方と同じ妖魔の女ですから、まさにお誂え向きではないですか、
ですから、そんなことは気にされなくても大丈夫ですよ♪」
そんな楽しそうに言うレイリアに対してフラウディアとフロレンティーナは嬉しそうに「ありがとう――」と言った。
その様子に対して男性陣は少し悩んだ様子で話をしていた。
「そう、ベイダ・シスターズの一員なんだよな。
とどのつまりは元々男だったっていうことらしいが、本当なのか?」
アーシェリスがそういうとクラフォードが言った。
フロレンティーナもフラウディアも、他の男性陣の理解を超えている存在だったようだ。
「プリズム族だかラミア族だか、とにかくなんだかようわからんが、
種族補正があるからとか言われても完全に理解を超越しているからな、少なくとも俺の中では。
だからもう、この際だから最初から女だったことにしとけ、それなら辻褄が合うハズだ」
それについてティレックスが話をした。
「プリズム族は知らないけどラミア族ならある程度知ってる。
前に少しだけ話したと思うけど、俺の母親がラミア族なんだ。
他所の種族の男を寝取るために特化した種族っていうことを考えるとなんとなく想像はつく、
つまりは身体そのものがそういう種族なんだろう。
臓器を植え付けて……っていう表現は正しくないと思うけれども、
それによってそういう種族に転向したというのなら、
今の彼女らがそうなっていることに説明が付く――というよりも、むしろ理にかなっているなと思うな」
それに対してクラフォードは驚きながら言った。
「えっ、お袋さんはラミアなのか!?」
「ラミア……というよりはその血を引いているといったところか。
まあ、妹のディアナリスはそれなりに色濃く出ているから、それなりにラミアの血が濃いのは間違いないだろうな」
そんなにラミアっぽい妹なのか、クラフォードはそう聞くと、アーシェリスが答えた。
「そう言えば妹さんには会ったことがあったな、
最初はラミアの血を引いてるって言われてぞっとしたもんだけれども、
全然ラミアっぽくない印象だったっけ――」
しかし、ティレックスは言った。
「まあな、本人は妖かしの気配を抑えるように訓練したからな。
そうなる前はかなり大変で、クラスメイトの男子全員をメロメロにしてしまっているからな。
それこそラークスなんかはうつろな目をしながらディアナリスの名を四六時中呼び続けていたこともあったっけ。
そのせいでディアナリス自身がトラウマになっていて、地元の学校は完全に不登校、
だから人の少ないフェアリシアに編入というか留学したってわけだ。
そこでゆっくりと修行をし、妖かしの力をコントロールする術を学んだんだそうだ」
だが、それを聞いていた男性陣はしばらく身震いしていた。
「ま、まあ、要するにだ、ラミア族もプリズム族もそういう種族だから、
性別適合した場合も同じ特性を得るために完全な女性化をするっていうことなんだな?」
クラフォードはなんとか落ち着きを取り戻しながらそう言った。
それに対してティレックスは考えていた、
そう言えばその恩恵を受けることになったフラウディアはスレアとできていたっけ、と。
なんとなくだが、二人の行く末がなんだか気になったティレックスだった、
兄ティレックスとしては妹のディアナリスの身を心配していたため、
フラウディアにディアナリスのことを重ねていたのである。