エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第6章 連合軍の作戦

第175節 本物の強者

 翌日――
「いよいよ包囲網が決行される日が来たってワケか。 本土軍への直接攻撃と、ユーラルの解放――どちらも難儀なことだが、 同時にやろうってずいぶんと大それた計画だよな」
 クラフォードは寝泊まりしていた部屋の窓から外を眺めながらそう言うと、ディスティアが答えた。
「まあ、クラウディアスの特別執行官様がやるというのなら間違いなくやるつもりでしょう。 あの人たちが考えることですから、行動力も実行力も私らの思い描くスケールを軽く超越しています。 以前にあったというルーティスの解放にクラウディアスの強固な防衛作戦、 マウナ軍との戦いでのアルディアス軍への助勢の結果、戦争終結――普通では無理なことを確実にこなしています」
 それにイールアーズが付け加えた。
「考え方自体はどちらかというと”甘ちゃん”と言われても仕方がない、”程度の低い発想”に他ならないが、 残念ながら、それを覆せるような行動ができなかった連中がいなかったというのがリファリウスの強みだったようだな。 ”程度の低い発想”とはいえ、実際に考えていること・こなしていることは数手先を読んでの”超高度な程度の低い発想”だが」
 イールアーズはさらに話を続けた。
「それこそ、ガレアは”ルーティスの解放”と”ルシルメアとの和解”っていう実績を基礎に、 いろんな実績を着実に積み上げていった結果があり、クラウディアス特別執行官様の動きにより、 ディスタード本土軍のみならず、周辺諸国まで揺るがしつつあることについては間違いなくなってきているだろう」
 ディスティアは頷きながら言った。
「確かに、北のエダルニウスという連中にも何らかの動きがあるような噂はちらっと聞くし、 南はデランダル国にアガレウス軍ってのが進軍し、こちらの様子を探っているらしいって話も出てきているようだ。 世界はまた戦争に突入するのだろうか、勘弁してもらいたいところだ」
 イールアーズは頷きながら言った。
「普通の傭兵としては喜ぶべきところなんだろうが、いい加減にしてほしいもんだな。 まあ、戦争にそんな言葉が通用するわけないのは百も承知なんだが」
 クラフォードは言った。
「その気持ちはわかるな。 第一、おたくらはシェトランド人で、 元々はシェトランドのために戦っているだけであって傭兵の真似事をしたいわけではない。 俺もただの自衛団でしかないから、戦争のために活かされる道具というわけではないんだよな。 だけど、それでも戦争したいやつがいる限りは俺たちは剣を握り続けなければならない、 いっそのこと、逃げてしまえば楽なのかもしれないが、この世界にはどこにも逃げ場がないからな」
 すると、イールアーズは考えながら言った。
「俺も昔はそう考えたことがあったな。 妹と一緒に何を心配することもなく、何に恐れる必要のない世界で暮らせればどれほど幸せなんだろうなってな。 まあ、できもしないことを考えるのをやめたから今の俺がいるわけだが」
 ディスティアも話をし始めた。
「確かに、私も逃げ場がないからずっと剣を振り続けることを辞めなかったのだ。 しかし――それでも自分の未熟さを痛感したものだ。 だから今は、今の私はここでこうしている、 ここで私の未熟さに対してフォローしてくれたリファリウスさんとリリアリスさんのために動くことにしたのだ」
 クラフォードがそれに対して話した。
「あいつらはとんでもないコンビだよな、まったく。本当に、よくやるよ。 俺らみたく、どうにもならないから剣を握っているというだけではないんだよな。 なんていうか、それこそさっきイールが言ったように”超高度な程度の低い発想”、 言い換えれば、理想論を確実に貫き通すことができる権利を得た”本物の強者”だからなのかもしれないな――」
 ディスティアは考えながら言った。
「なるほど、”本物の強者”――あの2人から感じるものはそれですか。 確かに、理想論を貫き通せるのは”本物の強者”しかおりませんね。 理想論だからこそ、多くは彼らのことを軽く見てしまう。 しかし彼らは”本物の強者”だから、真に恐ろしい敵と認識すべきだったというわけですか。 かくいう私も、彼らから感じたものは最初こそ軽んじていましたが、 そのうち”敵に回してはいけない”という恐怖を抱くようになっていたことは記憶に新しいです。 まあ、実際にはそれをまったく感じさせない人柄であるのが彼らの人気の秘訣なのかもしれませんがね――」
 イールアーズは言葉を詰まらせながら言った。
「今になって気が付いたんだが、いつもアーセラスってのがやつのことを”チャラ男”って言っているのを思い出した。 女共においては、やつはそんなやつではないって言っていたか。まさに”能ある鷹は爪を隠す”ってわけだな」
 クラフォードは頷いた。
「となると、そもそも”ネームレス”っていう連中が一体何者なのかが気になってくるところだな――」