一方、フロレンティーナはシェルシェルと一緒に話をしていた。
「フローラさんって、確かにお母様の言うように、ただのラミア族じゃないですね。
やっぱり、プリズム族の力も持っているようです――」
フロレンティーナは言った。
「うん、みたいね。
自分のことなのに、なんだかよくわからなくなってきたわ、
魔族由来の妖魔ラミア族のハズなのに精霊族由来の妖魔プリズム族とか、
しかも”ネームレス”っぽいところがあるけど、他の”ネームレス”とはまるで一致しない性質があるだとか。
あの常闇のディブラウドも討っているし、取り巻きもろともやっつけられちゃっているしさ――」
それに対してシェルシェルが言った。
「”ネームレス”――確かに、どことなく、リリア姉様やアリエーラ姉様に近いものを感じますね」
「あら? あなたのお母様も、じゃないかしら?
訊いたわよ、”白薔薇のララーナ”っていうんですって?
またずいぶんと素敵な二つ名をもつお母様じゃない?」
しかし、シェルシェルは照れながら言う。
「お母様ってば、そういう話を全然しないもんだから、私、全く知りませんでした――」
そして、フロレンティーナは言う。
「あんたたち母娘ってちょっと変わっているわよね、プリズム族ってそういうものなの?
それとも精霊族がそうなのかわからないけれども、親子っていうよりも姉と妹みたいな感じがするわよね。
まあ、精霊族といえば寿命が長いからそう見えてくるのも必然かもしれないけれども」
それに対してシェルシェルは考えながら言った。
「はあ、そう言われてみれば、あんまり考えたことがないです。
でも確かに、私たちってプリズム族の中でもちょっと特殊な関係なので、そのせいかもしれません。
私はお母様から言われて番人となり、そのお母様はこの里の長です。
お母様が長であるために特殊というのはありますが、
そもそもお母様はプリズム・ロードを志している方なので、
その人が長というのもプリズム族としては異例のことだそうです」
この母娘についてはそもそもイレギュラーな要素が多かったようだ。
「ごめん、なんか、私が思っていた話とはまるで違う方向に行って変な話になってしまったみたいね」
フロレンティーナは悪びれながらそう言うと、シェルシェルは首を横に振りながら言った。
「そんな、謝るほどのことじゃあないですよ。
私なんてプリズム族として半人前ですし、世の中には私の知らないことがまだまだたくさんありますから、
フロレンティーナさんといろいろとお話しできれば嬉しいです!」
それに対してフロレンティーナは頭を押さえながら言った。
「まあ……言っても、私にもまだまだ知らない世界はたくさんあるんだけれどもね――」
フィリスとプリシラは一緒に話をしていた。
「なんていうかな、あんたって久しぶりな感じがするわね――」
フィリスがそういうと、プリシラは答えた。
「フィリスさん、お久しぶりですね。
ただ、どこで知り合ったのかって言われるとちょっと自信ないですが――」
それについては彼女ら”ネームレス”に共通していることだが、この2人についても例外のないことだった。
「私とあんたとリリアとアリがそれぞれで会ったことがあるというのなら、
つまりは4人が一緒だったってことかな?」
プリシラはフィリスに顔を見合わせながら答えた。
「確かに、そうなのかもしれません。だけど、何か少し違うような――」
とはいえ、その頃の記憶がないので何とも言えない感じだった。
「あんたもプリズム族なの?」
フィリスはそう訊くと、プリシラは答えた。
「どうなんでしょう、そうかもしれないし、そうでないかもしれない――」
そのあたりの記憶から怪しいのだろうか。
「ところでフィリスさんは? プリズム族ではないんですよね?」
プリシラはフィリスに訊き返してきた。
「多分違う、でいいと思う。私も結局記憶がないせいでそのあたりが曖昧なのよね――」
フィリスは頭を押さえながらそう言った。
アリエーラはぐっすりと眠り込んでいるリリアリスを抱えたまま話をしていた。
「私、以前のことがはっきりしていない中でも、ちゃんとはっきりとした記憶もあるんですよ。
たとえば……小学校で男の子たちにからかわれた時のこととかですね。リリアさんは覚えていますか?」
だが、リリアリスはぐっすりと眠り込んだままだった。アリエーラは話を続けた。
「私、からかわれて泣いちゃいましたね。
そしたらリリアさんが怒って私の前に立ち、男の子たちを1人ずつ殴ったり蹴ったりして泣かせていました。
あの時、ちょっと嬉しかったんですよ。」
寝ているハズのリリアリスだが、その時の表情はなんだか嬉しそうな顔をしているように見えた。
「私にはリリアさんがいる、リリアさんがいつも守ってくれる。
だけど――リリアさんのことは誰が守るんだろう……
それを考え始めたのは少し大きくなって、中学生ぐらいのことかな――」
アリエーラは考えながらそう言った。さらに続けた。
「いつも一緒にいて楽しいし、やることも話すことも楽しいことばかり。
だけど、リリアさんったら、いつもいつも無茶なことしてばっかり――私、とっても心配です。」
アリエーラは暗い表情でそう言うと、表情を改めながらさらに続けた。
「だから――たまには私にも頼ってください、いつも守られているばかりじゃあ不安です、
私だってリリアさんの力になりたいですし、私にだってやれることは多いハズです。
ですから、リリアさん――」
アリエーラの表情は楽しげだった、ぐっすりと眠っているリリアリスに彼女の声は聞こえているのだろうか。