3人はそのままクラウディアス城内を歩いていると、どこかで見た覚えのある女性がその場に姿を現した。
その女性は――
「あんたは――」
クラフォードがそう言うと、彼女は答えた。
「あら、あなた方は――グレート・グランドのクラフォードさんと、アルディアスのティレックスさんですね――」
その女性は紛れもない、可愛らしいオフィスカジュアルな服装が特徴的なレイリア議長である。
その女性に対し、クラフォードが訊いた。
「あんた見かけない顔だな、クラウディアスの議員か何かか?」
それに対し、レイリアは丁寧で優雅なたたずまいで答えた。
「いいえ、違います。私はキラルディア国の外交官・レイリア=ランブリットでございますわ――」
彼女のその様相、なんだかプリズム族に通づるものがあった。まさか彼女――
と、その前に、フェリオースとティレックスは申し訳なさそうに訊いてきた。
「キラルディア? すみません、俺、全然わからなくて――」
「俺もです、無知でごめんなさい――」
そんな2人を見かねてクラフォードが答えようとすると、いち早く反応したレイリアが答えた。
「キラルディアは小さな国ですから知らないのも無理はございません。
キラルディアはユーラル大陸から南東に位置する国でございます、そう言えばお分かりいただけるでしょうか?」
ユーラル大陸と言われればわかった、詳細についてはさておき、ディスタード本土軍が侵略している大陸である。
その国の南東にそんな小さな国――そんな彼女がここにいるのも話はなんとなく見えてきたようだ。
そのため、クラフォードは話を切り出した。
「まさかあんた、ユーラルを侵略中のディスタード本土軍を排除するためにクラウディアスに手を貸すためにここにいるってことか?」
それに対してレイリアは頷きながら言った。
「おおむね、その通りでございます。実際にはクラウディアスさんがキラルディアに協力を要請しに来られたのです。
確かに、我々はユーラル大陸がディスタード本土軍が侵略されている状況にいつも肝を冷やしている状況です、
いつか、あの方々が我々の国を貶める日が来るのではないかと。
しかし、ユーラル大陸側はまだ帝国軍に屈したわけではなく、
今もなお、まだ戦力的にも拮抗している状態であると伺っています――」
であれば、ユーラル大陸を確実に征服すべく、隣国を支配するというのも手だとは思うのだが、レイリアは続けた。
「小国ながら独立した国として地位を保っているのにはそれなりのワケがあるのです。
本土軍はそれを恐れ、ユーラル大陸の進軍を選択したのでしょう――」
キラルディアはユーラル大陸の南東にあるドリストン大陸の一部にある国である。
さらに言うと、ユーラル大陸よりもドリストン大陸のほうが広く、戦力差からしてもドリストン大陸のほうが圧倒的である。
早い話、ディスタード本土軍は攻めやすい方に向かって侵略しているのである。
だが、ユーラルを手中に収めてしまえば次はドリストン大陸を、その足掛かりとしてキラルディアを落とそうと考えるのは必然のこととなり得るのである。
「で、そうなる前に、キラルディアのほうもなんとかしたいからクラウディアスの呼びかけに応じたと、そういうことですか?」
ティレックスはそう訊くと、彼女は頷いた。
「もちろん、ドリストン大陸間で事を収めてしまうという方法もあるにはあるのですが、
せっかくのクラウディアスの特別執行官様の申し出ですから、我々もあなた方と協調することにしたのです――」
クラウディアスの特別執行官様か――そう呼ばれる存在はクラウディアスに3人いるハズだが、
誰がその話題を切り出したのか聞いてみた。
もちろん、クラウディアスの決定である以上は女王陛下の決定であるのは当然だと思われるが、
キラルディアには誰がその話を持ち掛けたのだろうか。
「はい、お名前はリファリウス=シルファーヌ様という方ですね。
とてもお美しいお顔の方で、女性にはとても優しく、私も彼には大変よくしてもらいましたわ――」
そいつの女性人気はどこへ行っても相変わらずのようだ、
この話をアーシェリスが聞いていたら――それはそれでまたどうなるか想像がつきそうである。
しかし、それを聞いて――ティレックスは訊いた。
「ん? まさか、直接キラルディアに行ったのか?」
「はい、来られましたよ、ユーラルの悲惨な状況を鑑みながら、我々の国の様子を見に来られました。
最初はユーラルの現地視察だけだったそうですが、我々への協力要請へと目的を切り替えたことも伺っております――」
彼女の話を聞いて、クラフォードは腑に落ちない点があった。
「にしても――申し訳ない言い方をすると、
あんたの国ってそう簡単に協力を要請しても動じてくれないところがあるじゃないか?
実際、一度、ずいぶん前になるが、うちの国から協力を要請したこともあったみたいだが、その時は断られている。
その原因が、あんたの国は結構な難題を課して、それに応えられなければ話を切っているということだが――
それなのに、何故、クラウディアスならいいんだ?」
えっ、どういうことだろうか、ティレックスとフェリオースが訊くと、レイリアが言った。
「80年ほど前にグレート・グランドさんから協力を要請された時には確かに、
バルティス・ウォータの製造権利か、またはバルティス・ウォータの無償提供を課題にした記録がありましたね。
バルティス・ウォータは国営事業で、国の一大事業だからということですので断念されました。
ルシルメアさんからも話を持ち掛けられたことがございますが、
その時に訪れた外交の方が元戦士の方でしたからこちらで用意した闘士との一騎打ちで勝利することを課題にしましたが、
やはり断念されておりますね――」
内容的には割と無茶苦茶なものだった、
確かに、敷居の高さのみならず、外交的にいきなり達成できるものとは思えないものばかり――2人は舌を巻いていた。しかし――
「しかし、クラウディアスの特別執行官様はとても素晴らしい方です、
見事に我々の出した課題をクリアーしていただけました!
あの方の本気を見させていただけただけで感動ものです!
ですからこうして私のような外交官を立て、世界と協調することにしたのです!」
そんな難儀な課題を突き付けるキラルディアの姿勢には理由があった、
それはキラルディアが小国だからという理由によるものらしい。
それについてクラフォードが言った。
「キラルディアの国民性だな。
相手の本質を探るために相手の”本気度”を確かめるのだそうだ。
ドリストン大陸では長い間戦が絶えず行われていて、キラルディアも自分を守るためにかつては友好な国民性だったようだが、
長い戦乱の間に謀略に裏切りと散々な目にあい、今ではドリストン大陸の端に追いやられているわけだ。
それにより、キラルディア国民も無暗に相手を信用しなくなった、ということらしい」
そして、長い間、よその国を受け付けずに過ごしてきたキラルディア、
長い年月を経てドリストン大陸において一つの国として独立を果たし、現在に至るということである。
しかし、そのような中、いくつかの国が協調路線でやっていくということになると、
キラルディアとしてもそれを考えていくこととなる。
だが、かつての戦のような失敗はしたくない、そこで考えたのが、
国内でも行われているもので、相手を信頼するうえでその本質を探るために行われていること、
相手の”本気度”を確かめるために難しい課題を課すということである。
しかし、此度、クラウディアスの特別執行官・リファリウスがそれを見事にこなしたことで、
キラルディアはクラウディアスの要求をのんだということである。
ところで、リファリウスはどんな要求をのんだのだろうか、それがとても気になるところである。