会議は着々と進み、そして、ティレックスがガチガチに震えながらもしっかりと発言している様を見て、
女性陣は密かに応援している反面、男性陣はやはり内心大いに笑い転げていた。
一方で、グレート・グランドの面々は服装やこれまでのイメージとは打って変わって発言内容はかなりしっかりとしたものだった。
まさに人は見かけによらないとはこのことである。
「ご発言頂いた方、ありがとうございます。
それでは、ディスタード本土軍を包囲するための指針としてどのようにしていくかについて、
各国で協力をし、本土軍には物資を流通するルートを断つこと、
そして、本土軍にはこれまで以上に牽制を続けていく方針とすること、
最終的には本土軍に徹底的な改革を求めること、
これらの内容に対して賛同いただける方は拍手をお願いいたします!」
レイリアはそう言うと、会場中は拍手が巻き起こった。すると彼女は――
「賛成多数のようですので、この件については承認とさせていただきます!
ここまでで何かございますか? ない場合は一旦休憩をはさみたいと思いますが――」
そう言った。そんな会議の状況について、フェリオースが何やら違和感を覚えていた。
「どうしたんだフェリオース?」
スレアそう言うと、フェリオースは答えた。
「各国の首脳陣の会議だからなのかわからないけれども、
いつも堂々と発言しているハズのやつが今回やたらと大人しい気がしてな――」
それに対してアーシェリスは頷いていた。
「そういえば確かに、リヴァストもアールもどっちも大人しいよな、
それこそ、リヴァストは全く発言していないようにも思える。
まあ、替え玉ってことを考えれば、リヴァストは間違いなさそうな気もするが――」
そして、スレアが付け加えながら言った。
「アールもってことになると、やっぱりいつもとは違うよな、確かに。
アールも冒頭でガレアの方針を宣言したぐらいで――」
それに対し、ラシルが言った。
「あのさ、もしかして実はどちらも替え玉って可能性はないよな?」
いや、そんなまさか――男性陣は苦笑いしながらそう思っていた。
そんなことをしているうちに周囲がいきなり立ち上がってどこかへ行く様を見つつ、男たちは非常にびっくりしていた。
「なっ、なんだ!?」
アーシェリスはびっくりしながらそう言うと、ラシルが答えた。
「そう言えば一旦休憩するって言ってたっけ」
そう言われると男たちは思い出した。
混雑していたためか、フェリオースは1人、他の男たちとははぐれてしまった。
「くっそ、人が多いな。
まあいいや、最悪、時間になったらさっきのところに戻ればいいだけのことだしな――」
フェリオースはそう考えながら周囲を見渡すと、ティレックスを発見した。
「おっ、アルディアスのティレックスがいるじゃないか、さっきの演説、とっても素晴らしかったぞ――」
フェリオースは意地悪くそう言うと、ティレックスはため息をつきながら「殴るぞ」といった。
それに対してフェリオースは慌てたように「ウソウソ!」と答えた。
「まったく、本当に勘弁してもらいたいな。
まさか、俺があの場で発言することになるなんて――思いもよらなかったな」
ティレックスはビビりながらそう言うと、フェリオースは言った。
「まるまるカンペ通りに読み上げていただけだったな。
でも、確かに、俺もあの場はパスだ、まるっきり他人事になるが、俺があの任を受けなくてよかったって感じだ」
ティレックスも二度と引き受けたくないと言い切ったが、フェリオースは言った。
「でもお前さ、ルダトーラ・トルーパースの団長になったんだろ? 避けては通れないんじゃないのか?」
それがティレックスとしては辛いところだった。
今度は反対にティレックスからフェリオースに訊いた。
「エネアルドはどうしたんだ? 来てないのか?」
フェリオースは答えた。
「エネアルドは”エクスフォス・ガラディウシス”の件で滅茶苦茶になっているからな、
今は一旦落ち着きを取り戻しているが、今回の呼びかけについては”それどころじゃない”ということでルシルメアに話をしているハズだ。
でも、まったく協調しないわけではないという意思表示として、今回は俺とアーシェリスが見学という形で参加して、
各国と足並みをそろえていく路線でいくというのがエネアルド政府の方針らしい」
ティレックスは頷きながら言った。
「エクスフォスの魔王事件な、確かに、あのせいでエネアルドは結構痛い目にあったんだっけな。
クラウディアスの会議に出席できるような状況でもなければ人もいないって状態なのか――」
とはいえ、今はある程度までは立て直せている状況なのだそうだ。
しかし、今回のクラウディアスのサミットについては参加を断念せざるを得なかったのだという。
「それはそうと、例のリオメイラって国も来てないようだな」
フェリオースがそういうとティレックスが答えた。
「流石にムリだろ、本土軍に滅茶苦茶にされたんだからな。
正式ではないけれども、ある意味本土軍の植民地のような状態だから、最悪本土軍に情報がリークしてしまう」
それに対してフェリオースは頷きながら言った。
「だからクラウディアス連合軍側とリオメイラ国の女王との間でリオメイラは参加見送りを決定した。
流石はアルディアスのティレックス、抑えているところは抑えているな」
ティレックスは舌打ちしながら言った。
「だからやめろって言ってるだろ。んだよ、知ってんじゃないか――」
「当たり前だ、クラウディアス連合軍側とはいうが、実際にこの話を調整したのはルシルメアだからな、
一応ルシルメアの使者の一員である俺らとしては知ってて当然ってわけだ」
さらにティレックスは言った。
「そういえば気になったんだけど、どうしてリファリウスが2人いるんだ?」
それについてフェリオースも同意見だった。
「それが分かんないんだよな。
どちらかが替え玉だというのはわかっているんだが、会議の様子を見ていると、
どちらもリファリウスっぽくないような気がするんだよな――」
そう言うと、その場にクラフォードが通りかかるや否や、何故か愚痴をこぼしていた。
「ったく、やってられっかっての。
こんな真昼間からいきなりノンダクレやがってあのオヤジ共――」
それを心配したティレックスが訊いた。
「どうしたんだ? ノンダクレって、リオーンとバフィンスのことか?」
クラフォードはさらに愚痴っていた。
「しかもワイズリアの野郎まで一緒だった。ったく、勘弁してくれよ――」
それに対し、ティレックスもフェリオースも呆れていた、相変わらずというか、何というか――
そしてクラフォードは2人がしている話題に参加した。
「確かにリファリウス2人の件は俺もちょっと気になっていた。
で、俺としては2人とも替え玉説に賛成だな」
えっ、どういうことだろうか、2人はクラフォードに訊いた。
「お前らの言うように発言には消極的っていう理由もあるが、
まずはリヴァスト、しきりにララーナさんと何やら話をしていた感じだ。
何を言っているのかはわからんが、リヴァストのしぐさもどこかしら女性っぽいところが見えた気がする」
クラフォードははっきりと観察していたらしい、そういったあたりは流石といったところか。
「2人もいるのは変だからな、どういうことなのか気になっただけだ」
クラフォードはそう続けた、そんなことを気にする余裕があるのか――余裕のなかったティレックスはクラフォードに驚いていた。
「俺の予想としてはリヴァストは間違いなくシェルシェルだな。
で、一方のアールのほうだが、あっちは流石にわからなかった。
だからこっちが本人の可能性もあるけれども、雰囲気的になーんか引っかかるんだよな――」
ララーナとやたら親し気で、リヴァストのしぐさやらなにやらの事情を踏まえると、
彼女の娘であるシェルシェルがそれである可能性があるようだ。
対し、アールのほうは――なんとなく本人ではなさそうな感じというはっきりとした理由ではなかった。
そしてクラフォードは話を続けた。
「で、変装術ってことを考えると、正体はフロレンティーナさんっていう可能性が出てくるワケだ。
それこそ、会議場には彼女の姿が見当たらないからな、もしかしたら彼女かもしれないと俺は睨んでいる」
しかし、そうなると、一つの問題が浮上する。
「俺もそう思うんだけれども、そうなると、どうしてわざわざ両方替え玉にしないといけないんだ?
別に片方本人でもいいと思うんだが、ヤツが参加したくない理由でもあるのか?」
と、フェリオースは言った。確かに、それだとリファリウスは参加したくないということになりそうである。
だが、それについてはクラフォードも気にしていたことだった。
「それなんだよな、なんで会議に出たくなかったのだろうか、
出ればいいというか、あいつはむしろ出るべきだというか――」