2人は互いに距離を取り合うと構えていた。
「妖魔の力は使わないのだな?」
ディブラウドは訊くとフロレンティーナは得意げに答えた。
「そんなのもったいないじゃない、あんたみたいなのに使うまでもないわ。」
彼女は剣を両手で構えた。
「たかだかただただ男を色香で惑わすだけの女でしかなかったお前が、この私にかなうと思うか?
――いや、それでもあのゾレアムとブロストを、
どういうカラクリかはわからんが打ち破ったのは確かだ、だからその強さは認めよう。
だが――だからといってこの私を敗れると思うのは大間違いだ、身の程を知ってほしいものだな」
フロレンティーナはそれに対して、どこかのお姉さんばりに得意げな態度で言い返した。
「あら、それはどうかしら? 言っとくけど、敵の強さは見くびらない方がよくってよ?
ディブラウド、あなたは武人さんでしょ? そういうふうに言われてきたんじゃなかったのかしら?」
ディブラウドは不敵に笑いながら答えた。
「ふっ、私としたことが、お前にそんなことを言われるとは――確かにその通りだ。
だが、それでもこの状況がある程度物語っていると思うのだが?」
「能ある鷹は爪を隠すっていうでしょ? 第一、私はあんな雑魚が相手だったおかげで全然本気を出せていないのよ」
ん? なんだ、このよくわからない妙な緊張感は――クラフォードはフロレンティーナのそのセリフを聞いて意識を取り戻した。
「なるほど、今までのはまだ本気ではない、と。
いいだろう、そういうことならお前の本気を見せてみるがいい。
そしたら私も少しは本気でお前の相手をしてやる――」
ディブラウドは少しマジメな面持ちでそう言った。
するとその時――あたりは小刻みに揺れた、2人が発揮する強烈なオーラにより、地響きが発生したのである。
「ふん、私の能力についていこうというのだな、どういうカラクリだか知らんが面白い――
上で伸びている鬼人剣やそこで伸びている万人狩りよりは楽しめそうだぞ!」
ティレックスやスレアには触れられなかった。それに対してフロレンティーナは反抗気味に言った。
「私がアンタの能力についていってるんじゃなくて、アンタが私の能力に必死に食らいついてきているだけでしょ?
バカも休み休みにしときなさいよね?」
そう言った時の気迫、クラフォードはまた再びかの人物を思わせるかのようなとてつもない圧迫感を味わった――
「こっ、これはまずい!」
クラフォードは自らに慌てて回復魔法を使い、なんとか立ち上がると、
ユーシェリアとフラウディア、そして部屋の真ん中に伸びたままのスレアを抱えてその場所から慌てて部屋から飛び出した!
「えっ?」
「クラフォード……さん!?」
「えっ――おっ、おい! 一体、何がどうしたんだ!?」
ユーシェリアとフラウディアは突然驚き、そして状況が飲み込めずにいたスレアも気が付きながら驚き、
そう訊くと、クラフォードは言った。
「あの女――フロレンティーナさんから感じたのはまさにあの女のそれと同じものだ。
あの女の強さの根源はただ戦士としての過程を踏んできたそれとはわけが違う、
だからその辺の強者じゃああの女の真の恐ろしさを感じることは難しい。
俺は……あの女の相手を何度かしていたから最近では辛うじて感じることはあるが、
それでも、あのよくわからん独特の雰囲気――油断すると待ち構えているのは死でしかない。
そう、あいつは――ディブラウドは間違いなく、確実にあの女に消される!」
と、その時だった、フロレンティーナは自らが吸収していた電撃を剣にまとい、
ディブラウドに襲い掛かると、周囲は激しい閃光に包まれた!
「くっ、なんだこの力は! これほどの力を隠し持っていたというのか!」
ディブラウドはその力のすさまじさを味わいつつ、何とか攻撃に対して受け身を取っていた。
「なっ、なんだあの力は!」
先に部屋の外に避難していたレイビスは驚いていると、クラフォードは彼に近づいてきて言った。
「これからとんでもないことが起きるという前兆、こんなもんは序の口だ。
俺自身も彼女の力を見誤っていた、まさかこんなことになるとは――」
ディブラウドはフロレンティーナの力を一身にして受け止めていた。
「確かにお前はどういうわけか強い、
それは認めてやるが、どうやらあと一歩この私に及ばなかったようだな!」
そう言いながらディブラウドは剣を振りかぶると、フロレンティーナに切りかかった!
だが――
「終わった、それはまさに自殺行為そのものだな――」
クラフォードは頭を抱えながらそう言った。
「自殺行為? 何故だ!?」
レイビスはそう訊いてきたが、それは結果が物語っていた。
「うっ、まさかそんな!」
そう、ディブラウドの剣が相手にしているのはリリアリス特製のアリエーラの剣、
つまり――ディブラウドは黒い剣を振り下ろすと、剣はその刃にかなうはずもなく、
大きな音を立てながら黒の刃は地面に叩き落されたのだった――
「……なんだ、ただの風物詩か。俺の剣でも散々見た光景だな。
それにしてもフローラさん、他人の剣なのによくもまあ使いこなしているよ、
それもあの、まさかのキチガイ・ソードだっていうのに――」
スレアはようやく状況を察しながらそんなことを言っていた。
一方で、フラウディアはフロレンティーナの強さに感動し、ユーシェリアも喜んでいた。
「すごい! フローラ姉様、実はあんなに強かったなんて!」
「わーい! フローラ姉様! そんなやつなんかに負けないでー!」
そうこうしているうちに後ろから増援がやってきた。
「みんな大丈夫!?」
それはリリアリスたちだった、ようやく到着したのである。
「あ、リリアさん! 見て! フローラ姉様ってあんなに強かったんだよ!」
リリアリスは言われるがままにその状況を見守ることにした。
すると、フロレンティーナは雷の剣をひっこめ――
「あれ? どうしたんだ? そのままやっちまえばいいのに――」
クラフォードは不思議に思っていると、リリアリスが説明した。
「全力でやるつもりなんじゃないの?
そもそも何故雷を使っていたのかわからないけれども、彼女の適正で最も得意な属性は――」
フロレンティーナは持っている剣を右腕にまとっていた水で覆いつくした。
そう、フロレンティーナの得意な属性は水――ではない。
そして、剣を覆っていた水は突然様相を変え、そのフォルムはトゲトゲしい様相へと姿を変えていった。
さらにそのままフロレンティーナの幻影が剣を舞いながらディブラウドの身をテンポよく切り刻むと、彼の周囲からじわじわと凍り付くしていった!
「うっ、こんな、こんなことが起ころうとは――」
そして、辺り一面が白銀の世界となると、最後に自らの剣を振るい、
白銀の世界を吹き飛ばす一撃を与えると同時にディブラウドの身も同時に宙へと放り込んだ!
「ぐはっ――」
そしてディブラウドの身が墜落すると、ディブラウドは既に息絶えていた。
「さよなら、私の元カレ。これでもう思い残すことはないわ――」