エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第5章 最強の女流剣士

第151節 胎動

 ヘルメイズのエスハイネ邸で迎えた早朝、そこにはリリアリスとフロレンティーナが互いに乱れ稽古をしている光景があった。 その様子をアリエーラが温かく見守っていた。
「フローラ! 行くわよっ!」
 リリアリスは超強力な魔法剣によるコンビネーション技を発動した! それに対してフロレンティーナは――
「まだまだこれからよ!」
 その力に全力で対抗していた。

 それから数分後、リリアリスとフロレンティーナは草の上にそれぞれ仰向けに寝そべり、その身を地面に委ねていた。 アリエーラはその後ろでお淑やかに座っていた。
「ほんと、フローラって面白いぐらいに強くなるわね、そのうち私なんか超えちゃったりして?」
 しかしフロレンティーナは首を横に振って言った。
「ううん、それはなさそうね。 確かにリリアやアリに稽古をつけてもらってからというものの、 自分でもびっくりするぐらい強くなっていることは感じているけれども、 最近は伸び悩んでいるような感じがするのよ、なんていうか、頭打ちって言えばいいのかしら?」
 それに対してアリエーラが言った。
「もしかしたら、フローラさんの本来の強さに収束しようとしているのかもしれません。 うまくは言えませんが、それこそフローラさんはやっぱり”ネームレス”なのかもしれないです。 以前の記憶があるというのは私たちからすればイレギュラーかもしれませんが、 そもそも、”ネームレス”という存在自体、あまりわかっていないわけですから、 フローラさんさえ良ければ、私たちと一緒に自分自身が何者なのか探しに行きましょうよ!」
 フロレンティーナは少し驚いたような感じで言った。
「へえ、意外にも自分探しをしているのね。 特にリリア、あんたは自分は自分って言いそうな感じだからそれはなさそうだと思ったのに――」
 リリアリスは答えた。
「確かにフローラの言う通り、私は私……それ以上でもそれ以下でもないからそんなことしたって意味はない―― それ自身は間違いないけれどもね。 だけど――それで話を終わらすのはちょっと違うと思ってね。」
 リリアリスが前にも言っていたように、自身もアリエーラも謎の多い女だった。 それこそあまりにも謎が多すぎて、それはそれで腑に落ちないところがあるという。
「だから、これは謎のままにしておくにはもったいないかなと思ってさ、 自分探しというのをしてみればそれはそれで面白いかもしれないなって思ったワケよ。」
 リリアリスはそう説明すると、フロレンティーナは話に乗ってきた。
「”ネームレス”として目的を見失ったまま生きていくぐらいだったら、 自分の謎を探すためにハリのある人生を歩むことにしたってワケか。 確かに、なんだか面白そうな話ねソレ。 せっかくだから、お言葉に甘えて寄せてもらってもいいかしら?」
 それに対して2人は快く返事をし、フロレンティーナを温かく迎え入れた。
「確かに能力は収束しているような気はするけれども、胸はどんどん大きくなってきているわよね。 気が付いたらラミキュリア超えちゃってるもん。」
「あらリリア、わかるものなの?」
「わかるよ、だってフロレンティーナに着せてる服、実は私のに合わせた服だしね。」
 リリアリスのはラミキュリアのより大きいため、つまりはそういうことである。
「ですよね! 心なしか、なんだかとってもスタイルが良くなってきているように感じますし――あ、前が悪いとかそういう意味ではありませんよ?」
 身体が何やら変化している、実際、フロレンティーナは思い過ごしだと思っていたが、 2人もなんとなくそう思っている当たり、ただの思い過ごしではないと思い始めていた。

 フロレンティーナは意識を取り戻した――
「うっ、ここは――」
 フロレンティーナは周囲を見渡すと、 両隣にはフラウディアとユーシェリアが自分と一緒に倒れたまま涙を流しながら自分の手をつないでいた。
 そして、遠目には1人の男がもう1人の男をいたぶっている姿が。
「あれは――ドズアーノ? それにクラフォード――」
 フロレンティーナは小さな声でそう言うと、ユーシェリアとフラウディアはフロレンティーナにくっついて話をし始めた。
「もうダメだよ、あいつには勝てない、逃げ出すことも敵わないんだよ――」
「だからせめて、せめて私たちは一緒にいようかと思って――」
 ユーシェリアとフラウディアは沈んだ声でそう言った。フロレンティーナはその状況を改めて理解することとなった。
「そっか、私たちの運命は――」
 フロレンティーナがそう言うと、ユーシェリアとフラウディアはさらにフロレンティーナにくっつき、 それぞれ腕にしっかりとしがみついてきた。しかし――
「痛っ! えっ、何!?」
 フロレンティーナは左腕にしがみついているユーシェリアのほうから痛みを感じ、それと同時に――
「ひゃっ! えっ、何!?」
 フラウディアはフロレンティーナの右腕から何やら違和感を感じていた。
 フロレンティーナは起き上がると、2人も起き上がった。そこへユーシェリアが――
「あっ、ごめんなさい、そういえばアリエーラ姉様の剣を持っていたんだった、 抜き身のままだったから、ごめんなさい――」
 そう言いつつユーシェリアは申し訳なさそうにその剣を差し出していた。 そのためか、フロレンティーナの左腕からは流血が。 すると、フロレンティーナは優しく言った。
「ううん、いいのよユーシィちゃん。そっか、アリの剣を持っていたのね――」
 一方で、右腕は――
「そう言えば2人には言ってなかったわね。 私の右腕はちょっと特別な感じになっててね、だからそのせいかな?」
 フロレンティーナは右腕を2人に見せるように差し出すと、彼女の右腕の患部だった箇所には水の膜が覆われていた。 彼女はそのままその腕を左腕の流血しているところに手を当てていた、回復魔法か。
 ふと、フロレンティーナは何か思うところがあったようで、鋭い眼差しでその腕を見つめていた。そして――
「ユーシィちゃん! その剣を貸して!」
 えっ、お姉様の剣!?  ユーシェリアは一瞬戸惑った、扱いが特殊なアリエーラの剣だからとは思ったのだが、 それでもこの際、その剣を彼女に委ねることにした。
 そして――
「――私にも、やれるわよね?」
 フロレンティーナはその剣の刀身をじっと見つめていた。 刀身を見ていると、刀身に映り込んだ自分の姿はリリアリス、はたまたアリエーラのようにも見えてきて、 その姿は自分に向かって微笑んでいるように見えた。
 そして彼女は立ち上がり、目の前にいる強敵を相手に剣を構えると、 その時に発した音に気が付いたディブラウドは彼女のほうへと向き直ってこう言った。
「なんだ、まだやるつもりか」
 それに対してフロレンティーナは剣先を相手に向けながら堂々と言い放った。
「ドズアーノ――いえ、ディブラウド! 今度は私が相手、覚悟しなさい!」
 フロレンティーナのその様相にディブラウドは少々驚き気味だった。
「フロレンティーナ、何のつもりだ……」