それから数日後の朝、いつものテラスにて、
ヘルメイズに行く計画を立てているリリアリスの元にフロレンティーナがやってきた。
「あら、おはよう。腕は大丈夫?」
「ええ、おかげさまで。
だけど気が付いたら結構たまっちゃってて、しっかりと再発しちゃってるわね、何とかならないものかしら?
それとも定期的に自分で魔法を発射する必要がありそう?」
それについてリリアリスはフロレンティーナの腕を見ながら答えた。
「一度末期癌レベルまでになるとクセが付いちゃうのよね、
それこそ私とアリが似たようなもので、魔法使うときにいつも同じところにマナがたまるのよ、
だからそういうものだと思うしかないわね――」
それはそれで面倒だ――フロレンティーナは悩んでいた。
「そうよね、病気になるぐらいだから結構大掛かりな魔法を使う必要があるわよねえ――」
「ええ、あいにく、私はそこまで強力な魔法は使えないから困ったわね――」
リリアリスとフロレンティーナはそれぞれ悩んでいると、リリアリスは閃いた。
「必ずしも強力である必要はないけれども、効率で言えば確かにそうね。
なら、ちょっとまた付き合ってよ。」
2人は今回もまた幻界碑石のところまでやってきた。
「フローラはフラウディアの保護者って感じの顔をしているけれども、
私としては実はフローラこそが真の実力者なんじゃないかと思っているのよね。」
リリアリスはそう言うがフロレンティーナは謙遜していた。
「そんなことないって。
確かに本土軍では暗殺者として活動していたこともあるけれども、
それはあくまで女にだらしない男を暗殺する女スパイという程度のものよ。
実戦でどうこうするなんて言うのは以ての外……並の兵隊以下の能力でしかないんだからね」
それにはリリアリスも楽しそうだった。
「それはそれですごい能力よね、自分の美貌で男を手玉にとり、
その男はその後一生正気を保ったまま目を覚ますことはない的なものでしょ?
いいじゃない、私こそは女って感じでさ!」
そう言われたフロレンティーナは得意げだった。
「だけど――その腕の”エクス・マナーブル・シンドローム”なんだけれども、
実は精霊族しか発症しないハズの病気のハズなのよね――」
そう言われると確かにそんな話を聞いたことがあったフローラ。
身体機能をマナに頼るのはどの生物も大体同じだが、人間も魔族もその量は圧倒的に少ない。
だが、精霊族は大半がマナに頼っているため、時には病的な症状として過剰摂取症候群が起こってしまうことがある。
人間も魔族も過剰摂取症候群が起きることは起きるが、
元の程度が少量であり過剰摂取が起こったとしてもたかが知れていることから相対的に少ないため身体への影響は限りなく小さくて済んでしまう、
そのためまず病気という認識が成立しないレベルでしかないのである、そのハズなのだが――
「ラミア族って魔族のハズよね? だからあなたがどうしてそうなるのかなってアリと一緒にずっと考えてた。」
そう言われても――フロレンティーナは困惑していた。
「それこそ、私は純粋なラミアではないからってことでないってことかしら?」
それはそうかもしれないが、フロレンティーナは元々ディストラードであり、
いずれにせよ精霊要素がほとんどないため、それが理由として成立するのは怪しいところである。
「だからフローラってラミア族といっても特殊体なんじゃないかと思ってさ。
だからこそ最初にも言った通り、フラウディアでなくてフローラこそが真の実力者なんじゃないかと思っているのよね。」
それは――どういう理屈なのだろうか、フロレンティーナは困惑していた。
「フローラ、剣を抜いてみなさい、きっと自分が予想だにしない世界が見えてくるわよ。」
そう言われると――自分自身をちょっと試してみたくなったフロレンティーナは腰の短剣を抜きつつ、左手は逆手に構えて臨んだ。
こうして、リリアリスとの一騎打ちが幕を開けた!
勝敗については言うまでもなくリリアリスの勝利だが、
そのリリアリスはというと、どういうわけか剣を地面に突いて息を切らしていた。
「思った通り、流石としか言いようがないわ――」
一方のフロレンティーナは一言も発せずにいた、それほどリリアリスが本気になっていたということでもある。
「パワーはともかく、スピード面においてはクラフォードやイール、そしてディア様、
ましてやフラウディアはもちろんだけど、あのヒー様に席巻するほどね――」
つまり一部の”ネームレス”に近しい能力があるということである。フロレンティーナはずばり訊いた。
「改めて訊くことになるけれども、その”ネームレス”ってなんなの? 私もその”ネームレス”だというの?」
それに対してリリアリスは首を横に振って答えた。
「だとしたら以前の記憶はないハズよ? 私は気が付いたらこのエンブリアの地にいた――それ以前のことなんてわからない。」
「私はディスタードの本土領で生まれ育ち、そして本土軍の育成機関で育てられた――」
つまり、フロレンティーナはまた少し違うタイプということになる。
「謎が謎を呼ぶわね、そうなるとわからないわね。
まあ、そもそも”ネームレス”の定義なんてほとんどあってないようなものだから、
フローラも案外”ネームレス”に当てはまるかもしれないけどね。
でも――あなたっていろいろと謎が多くていいわね、謎の多い女って魅力的じゃない?
まさにあなたのことだと思うわよ。」
そう言われたフロレンティーナも得意げに返した。
「あーら、嬉しいこと言うじゃない。
でも、謎の多い魅力的な女って言ったらあなたやアリだって負けていないと思うわよ?
他の”ネームレス”に比べても段違いだと思うんだけれどもね♪」
「ふふっ、何よ、言うじゃないのよ。」
そしてその後、フロレンティーナはリリアリスを見習って魔法剣の極意から少しずつ取得していったのである、
自分ができること、自分の能力でできることを探し、そして自らの力としていったのである。
それにより右腕にたまる過剰マナの対処法についても自分の中でなんとかモノにしていくことになったのである。
そして――頭上から降り注ぐ高電圧の放電を吸収し、それを自らの力とする術も体得するに至ったのである。