一方で右のほうは――予想通り、何かの採掘場の入口のようなものが見えてきた。
「自然の洞窟の入り口が見えてきたな、工場内に採掘場ってのが本土軍の流行りなのだろうか」
イールアーズはそう言うとティレックスは言った。
「リジアルでもそんな感じだったな。
採取から生成、そして生産まですべて同じ工場でやることにしているんだろう、
コストを考えるんなら輸送費がカットされる分だけ効率的といえば効率的だが――」
自然の洞窟の入り口を通り過ぎると、そこから先は非常に広い空間となっており、
その隅には何かの鉱石のようなものが――
「あれはエーテル鉱床? しかも意外と純度の高いエーテル鉱床だな――」
クラフォードがそう言うとティレックスが訊いた。
「あれが”エナジー・ストーン”の原料でいいのか?
でも、俺が感じる分にはもうちょっとパワーが足りない気がしないでもないな――」
それについてはクラフォードが説明した。
「リリアさんやヒュウガによると連中が作ったエナジー・ストーンは結構時間をかけて高圧縮・高密度にしたものらしいぞ、
まだまだ想像の域を出ないから今度実験して確かめるって言ってたけどな。
だからそれが正だとして、ある程度の純度の高いエーテル鉱床であればそれを原料にしている可能性が高いということみたいだな」
「なるほど、てことはあれがその採掘ポイントである可能性が高いってことか」
イールアーズはそう言うと、何やら考えていた。
「なんだ、どうした?」
クラフォードは訊ねると、イールアーズは首を横に振った。
「なんでもない、こっちの話だ。とにかく、先を急ぐぞ」
イールでこの手の物体ということを考えると、やはり妹の心配か――
クラフォードは彼を察していた。
だが、ティレックスはエーテル鉱床をじっと眺めながら考え事をしていた。
「どうしたティレックス?」
クラフォードは訊ねた。
「いや、何でもない。
エナジー・ストーンの採掘場所としては可能性でしか言えないのが心残りでさ。
ああいうのが世に出回るとパニックにしかならないからな――」
ティレックスが言うとクラフォードは頷いた。
「そのとおりだな、言ってもそのあたりを判定するのはもちろん俺達の仕事じゃあないんだが。
とにかく、この生産工場を潰すことに専念しようぜ」
ティレックスは頷いた。
「連中が悪用できるリソースを潰すことが最善だもんな」
だが、その時――周囲から天井からカタカタという音が聞こえてきた!
「なんだ!? 何の音だ!?」
急に天井から金属の分厚いシャッターが下りてきた!
「みんな、早く突き抜けるぞ!」
クラフォードがそう言うと3人は慌ててその場を走り抜けることにした。
「イール、こっちだ!」
通路の曲がり角を曲がると、丁字路へと飛び出してきた。
元来た道はシャッターで閉ざされてしまった。
「どうやら防音シャッターのようだな、採掘工事の音を低減するための――」
クラフォードは息を切らしていた。
「ナメたマネしやがって――敵はやっぱり俺らの動きを把握しているってことか」
イールアーズはキレ気味に言った。
するとティレックスは気が付いた。
「左に見えるのは多分入口だな、結局真ん中の通路に出てきてしまったようだ」
「んだよ、つまりは最初からまっすぐ進んで行っても同じだったってことじゃねえか」
イールアーズは喧嘩腰にそう言うとティレックスがなだめるように言った。
「まあまあ、採掘場があることが確認できたんだし、それはそれで良しとしようじゃないか」
イールアーズは「フン」としか言わず、さっさと先に進んでしまった。
その様子にティレックスとクラフォードの2人はお互いに顔を見合わせ、ヤレヤレという態度で呆れていた。
「あいつ、ますます浮いた存在感が強くなってるな、シェトランド随一のな」
クラフォードはそう言うとティレックスは頷いた。
「基本的に自分と戦いと妹以外はどうでもいいやつだからな」
「わかりやすいというかなんというか――
それでも、最低限仲間のことを気にしてくれるのが救いというべきだな」
さらに先に進むと、今度はまた広い空間へと出てきた。
「今度は何だ?」
イールアーズは喧嘩腰に言うと、ティレックスは広い空間をそのまま突き進み、奥のほうへと行った。
すると――
「この奥にもう一つ、大きな部屋があるようだな。
それも結構大きい部屋だ、何かの研究施設のような場所だろう――」
目の前の大扉を見ながらそう言った。2人もティレックスの元へと進んでいった。
「いわゆる最深部というやつか、もしかしたら敵の親玉はこの中にいるのかもしれんな、気を引き締めていくぞ――」
クラフォードがそう言うとイールアーズの機嫌が良くなった。
「ようやく出番ってワケだな、ぬかるんじゃないぞ」
イールアーズの様子にティレックスは呟いた。
「敵がいるとわかれば……わかりやすいな――」
「まあまあ、いいじゃないかこの際。
いつもデカイ口叩いている鬼人の剣様の実力をこの目でしっかりと見せてもらおうぜ」
クラフォードは意地悪そうに言った。彼の態度にティレックスは唖然としていた。
「あんた、そんなやつだったのか――」
クラフォードは考えた。
「俺? ああ、実はそうなんだよな。
と言っても、これはどこかの流離いのクリエイター兼魔法剣士兼スカイ・アタッカー様の影響なんだけどな、
しかもレジスタンスのリーダー兼クラウディアスの特別執行官兼ガレアの将軍とかいろいろやってる例のヤバイ男だ」
自覚していたクラフォード、彼にそう言われると――ティレックスもその人物に影響され始めていたことを自覚していた。
「でも、お前はまだまだだな。
若干頑固で融通の利かない部分があるし、
つい先日もラヴィスをどうするかって件でルダトーラの責任者であることを忘れてリリアさんに怒られていたしな。
リーダーをやるからには自覚や統率力や分析力はもちろん、
モチベーションを維持する力や頭の柔らかさは非常に重要なんだぞ?」
うぐっ……ティレックスはそう言われて悩んでいた、完全に図星である、
自分に足りていない要素だらけだと言われているようだ……。
「り、リーダーって案外大変なんだな――」
「大変も何も、リーダーってのは聞こえがいいだけの雑用だからな、大変なのは当然だ」
「そ、そうなのか?」
「つっても、そう言ったのも例のヤバイ男なんだけどな。
そう言われてなるほどって思ったぞ」
雑用の道のりは果てしなく遠い。