リジアルでの情報分析や機材の撤去などは後からリジアルに到着した後続部隊に任せ、
リリアリスたちはマダム・ダルジャンに乗り込むと次の目的へと移行することとなった。
「次の目的は主に4つ、1つはラヴィス島への攻撃だけど、
これはティレックス、あんたがどうしたいか決めなさい。」
ティレックスは耳を疑った。
「なんで俺!?」
「あんたルダトーラ・トルーパーズの長でしょ、
アルディアスの領土だからまずはあんたたちに判断をゆだねるのが筋ってもんでしょ。
もちろん、手を貸さないという意味じゃないけど場所が場所だから、
話は一旦アルディアスに通しておかないと示しがつかないでしょ?」
言われてみれば確かにその通りだった、俺、意外と責任重大なポジションだったんだっけ……ティレックスは一旦反省していた。
とにかく、ティレックスはこの話を一旦ルダトーラに報告するために、船尾側へと行った。
「おたくの大将、まだまだ自覚が足りてないみたいだな」
クラフォードは腕を組みつつそう言うと、ユーシェリアは照れた様子で答えた。
「みなさん、すみませんねぇ――」
しかし、クラフォードはニヤッとしつつ答えた。
「いいや、俺も昔は似たようなもんだった、今でもそうだな。
だからってわけじゃないけど、そのうちモノになるんじゃないか?」
ユーシェリアは頷いた。
「ありがとう! クラフォードさん!」
彼女はそう言いつつ、ティレックスについていった。
その様子にリリアリスもまた得意げな態度でじっと見守っていた。
リリアリスは話を続けた。
「2つ目は本土軍がクラウディアスへの攻撃を開始したことによる対処ね――」
そう、クラウディアスから受け取った連絡はその件である。
以前の”天の裁き”による攻撃を避けるべく、連中はアルディアスの領海内から事を起こしているというものである。
「今じゃ本土軍が完全にマーリッド諸島を陣取っていて、アルディアス軍には手に負えない状況となっているみたいね。
とりあえず、ヘルメイズ軍に協力を依頼しているけれども、状況は思わしくないみたいね――」
それに対してアリエーラが言った。
「クラウディアスへは私が戻ります! ですから、リリアさんはティレックスさんと一緒にラヴィスに!」
リリアリスは首を横に振った。
「それがどうやらガレアのほうもピンチらしいのよ、
今のところは問題なさそうだけれども、半日前あたりから本土軍の船がガレア近海に出没するようになったらしいのよ。
ここでまた本土軍の攻撃を許したらマズそうだから、3つ目の目的としてはガレアに戻って、
しっかりと抑えておかないといけないわね。」
クラフォードが指摘した。
「いや、だったらそれこそリファリウスの出番だろ? 天下のアール将軍様とやらはどうしたんだ?」
そこにヒュウガがフォローを入れた。
「アルディアス、ガレア、クラウディアス、とくればもう一か所、
本土軍としては気にしておきたい場所がもう一か所あるな」
クラフォードは閃いた。
「ルシルメアか! 確かに、ガレアともクラウディアスとも交流のあるルシルメアを抑えてしまえばって本土軍も考えるってわけか――」
リリアリスは頷いた。
「ルシルメアに根回ししてまでガレアを追い詰めてクラウディアスを攻めたいという本土軍の魂胆、
つまり、ガレアやクラウディアスとルシルメアの関係性を気にしている以上、
どちらを攻撃するつもりでもルシルメアも同時に叩いておかないと返り討ちに会うと思っているのでしょ、
現に本当に侵攻し始めているって報告もあったしね。
だから、4つ目の目的であるルシルメア、最も手薄感の強いそこには私が行くわ。」
事は深刻そのものだった。
マダム・ダルジャンはルシルメア大陸の東部に接岸すると、リリアリスは船から跳び上がって上陸した。
そこへ、ディスティアとエレイアが海に飛び込むと、そのまま泳いで岸までやってきた。
その様子にリリアリスは呆気に取られていた。
「リリアさん! いくら何でも1人は無茶すぎます! 私たちにも手伝わせてください!」
「そうですよリリアさん! 1人なんてダメですよ!」
リリアリスは頭を掻いていた。
「そ、そう――じゃあ、頼めるかしら?」
そんな様子を見つつ、マダム・ダルジャンに残された者たちは唖然としていた。
「無茶苦茶なメンツだな、タラップなしで上陸するとは――」
クラフォードは頭を抱えていた、特に最初に飛び出していった女は直に上陸しているし。
「まあいい、ルシルメアはあの3人に任せることにしよう。
そしたら次はこのまま南下してアルディアスへと向かうぞ」
ヒュウガはそう言いつつマダム・ダルジャンを巧みに操縦し、ルダトーラへと向かった。
マウナ付近へ差し掛かると、そこには本土軍の軍艦がたむろしている光景が。
「サウスディスタードから南の海へは入らせないつもりか、やっぱりラヴィス島に何かあるのは間違いないって感じだな。
ダミー・トラップを展開しても、この分だと遭遇率も高くて厳しい気がする。
マウナ付近でこれってことは――向こう側も恐らくこんな感じか、ルダトーラへの上陸も厳しそうだな――」
ヒュウガは本土軍を眺めながらそう言った。
「では、どうします? そうなると、ルダトーラに行くこともできません――」
と、アリエーラは心配しているが、ヒュウガは答えた。
「ルダトーラに行くだけなら本土軍のいる場所を避けて陸路って手もあるし、
なんならガレアから海底トンネルを使っていくこともできる。
だから、このままサウスディスタードの北側から上陸してガレアに進めばいいと思う」
ユーシェリアがすぐさま反応した。
「ガレアとマウナの中央地点がよさそうですね!
ラミキュリアさんに連絡して迎えに来てもらうようにします!」
それを見ていたクラフォードとウィーニアは、ユーシェリアは優秀だなと思った。
「――アトラストも見習ってほしい気がするな」
「ほんと、あいつ、間が抜けてるから……結構的外れなことをしでかすのよね――」
「ああ、仕事減らそうとしなくていいから、せめて増やすなって感じだ」
何やら苦労の絶えないティルアの陣営を察していたティレックスだった。
ガレアへはヒュウガらガレア組やティレックスらルダトーラ組、そしてティルア組の2人も上陸すると、
残りはクラウディアスへと急ぐこととなった。
「面舵いっぱい!」
アリエーラの操縦でマダム・ダルジャン号は再び出発した。
「ダミー・トラップは今のうちに展開しておくね」
フィリスはそう言うと端末を操作してトラップを展開していた。
「クラウディアス、どうなってしまうのでしょう――」
フェラルは心配そうに言うが、フィリスが優しくフォローした。
「大丈夫、何度も退けているんだから、今回だって間違いないよ、
そのための備えだってしているんだからね」
「そうです、何度もディスタードに襲われていますが、今回だって大丈夫に決まっています!
私たちがいる限り、彼らには好きなようにはさせません!」
アリエーラはそう言った、そう言われてみればその通りでもある。
だけど、これからどうなってしまうのだろう。
ガレアに戻ったヒュウガたち、ティレックスたちとは途中で別れ、軍本部へとすぐさま戻っていた。
すると、そこにはリオメイラから戻っていたフラウディアの姿が。
「フローラ姉様!」
フロレンティーナが反応した。
「あれ? ほかの4人は?」
「ルダトーラへと向かわれました!
私はここに残ってみなさんのお手伝いをしようと思って――」
そこへラミキュリアが現れるとヒュウガが話をした。
「どうなってるんだ?」
「はい、ヒュウガさん、ガレアでは今のところ特段大きな問題は出ていません。ただ――」
ただ、なんだろうか、ヒュウガは訊いた。
「本土軍が牽制しに来ている、ということか?」
ラミキュリアが港へ来るように言った。
そこへ向かった一行、何やらとんでもない状況になっている光景を目の当たりにした。
「ちっ、想像した通りだな。
マウナもこうだったからルダトーラもこうなっているのはまず間違いない感じか。
それにしても、これじゃあどこの軍の港なのかわからないな――」
ガレアの港の先には本土軍の船が多数配置されており、物々しい状況となっていた。
「ったく、本土軍のやつら、好き勝手しやがって――」
しかし、こんなに多数の軍艦がいる以上こちらから攻撃するわけにもいかない、ヒュウガは頭を悩ませていた。
「この際、これについては好きなようにさせておけ、どうにでもできることではないからな。それより――」
そこへクラフォードが指摘した。
「だから、リファリウスはどうしたんだ? アール将軍なしで勝手に判断していいものなのか?」
ヒュウガはなにそれとなく答えた。
「いつものことだからな、別に構わないんじゃないのか?
それに、あいつならこの状況を見て次の手を考えているだろうよ。
出て来ないところから察するに、ガレアにはいないんじゃないかな?
んなことより、次の作戦を立てるぞ――」
クラフォードは呆れていた。
「おいおいおい、なんでこんな状況で肝心のやつがいないんだよ――」
それに対してヒュウガがはっきりと言い切った。
「ガレアの軍は肝心なやつがいなくてもちゃんと回るのが最大のウリなんだ。
言ってしまえばこの軍は優秀な人材が多いということの表れともいえる、
だからトップがいなくても平気なんだよな」
そう言われたラミキュリアらガレアの人たちは嬉しそうにしていた。
一方で、クラフォードのほうも、何か刺さるものがあった。
「アトラストのこと、空回りばっかりしていても、もう少し信用した方がいいかもね」
「……まあ、してないわけではないんだが、信用が少し足りてなかったようだな」
ウィーニアとクラフォードは反省していた。
「いや、そう言うつもりで言ったわけではないんだが――参ったな」
あてつけのつもりで言ったヒュウガだったが、
話題が思わぬ方向へといったことで彼自身が困惑することとなった。