エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第5章 最強の女流剣士

第131節 レガシー

 その場はヴァドスに任せると、スレアたちは急いで港のほうまでやってきた。 そこにはガレア軍のボートに乗っているラトラとレミーネアの姿があった。
「やあスレア! お疲れ!」
 レミーネアが言うとスレアは頷いた。 スレアはラトラに例の引き出しに入っていた物体を渡しながら言った。
「これって何だ?」
 そう言われたラトラは渡されたそれをまじまじと観察していた。
「なんだろう? 何かの部品かな? カードのようにも見えるね」
 言われてみればそんな気がした、それもそのハズ、
「見てよここの部分。 よくわからないけれども端子のようなものが付いているよ、 もしかしたらメモリーカードの一種かもしれないね」
 それはスレアたちも気が付いていた、だから電子部品的なものと判断したのだけれども、 よくよく見ると、端子の部分は一つの細い面にしかないことに気が付かされたのである。 メモリーカードと言われたらスレアでなくても思いつくものがあるはずだ、例えば――
「メモリーカードといったら……USBとかSDとかそういうのだろ? これはどっちでもないように思うんだが」
 と、スレアに言われたラトラもそれ以上分からなかった。 そこへフラウディアが何かに気が付いた。
「あのー、もしかしてなんですけれども、ラトラさんが今使っている端末にそれのスロットってありません?」
 そう言われたラトラはそれを何度も確認すると、確かにそれらしいスロットがあることを確認した。
「まさか、このスロットがこんなカードのものだなんて思ってもみなかったな――」
「なんだよ、コンピューター専門っぽいツラしているクセに。 せめて自分が使っているブツぐらいきちんと把握しといたらどうだ?」
 イールアーズは皮肉を発したが、アーシェリスが言った。
「俺は別にコンピューター専門ってわけじゃないけど、 自分が使っているブツぐらいきちんと把握してないで申し訳ないな」
 さらに――
「すまん、俺もだ」
「悪いな、実は俺もだ、本当にすまん」
「私もごめんなさい」
「私もね」
 と、フェリオース、スレア、フラウディア、そしてレミーネアも続けてそう言った。 その光景にイールアーズは呆気に取られていた。そこへスレアがフォローを入れる形で話した。
「というより、この手の世界はきちんとそれを把握して使っている人間のほうが少数だな。 そもそも、こういうものは文房具としての側面が強く、 きちんと全部把握していなくても必要最低限のものさえ把握していれば十分というものでもある。 それに、本来はクラディアスのこの手のエンジニア担当であるハズのラトラが知ってなきゃおかしいということでもない、 というのも、この分野は特に技術のアップデートが早く、 自分が知っているはずの技術がいつの間にか過去の産物ってのもザラだったりする、 逆に言えば過去の産物を知らないやつが平気でいてもおかしくはないんだよな。 だからイール、勘弁してくれるか?」
 そんな世界があるのか、イールアーズは驚いていた。

 ラトラはヒュウガと連絡を取り合っていた。
「カードのようなもの? インタフェースは? 分かんないって――え? 端末側で認識したのか――」
 ヒュウガは端末をいじりながら電話越しにラトラと話をしていた。 そこでヒュウガは何か閃いてラトラに言った。
「サイズはどんな? ……なるほど、そいつは多分CFカードだぞ」
 CFカードって? ラトラは疑問に思っていた。
「Compact Flash……って言ってもわかんねえよな、まあいい。 端末で認識して特にウイルスの類が仕掛けられていたとか……そんな手法は使われないか――いや、こっちの話だ。 じゃあ、データを取り出したら早速こっちに送ってくれよ、頼むぞ」
 そう言いながらヒュウガは電話を切ると、ウィーニアたちに話をしだした。
「まーたずいぶんとレガシーな媒体に保存しとくもんだな本土軍も――いや、本土軍とは限らんか。 それより、ラトラからデータが転送されてくるから直ぐに調べてくれるか?」
 ヒュウガは言うとユーシェリアは元気よく「はーい♪」と答えた。
「CFカード? 古いの?」
 ウィーニアがそう訊くとヒュウガは答えた。
「ユーシェリアあたりが生まれた頃によく使われていた媒体みたいだな。 データを保存する用途としては古いもので、今でも一部の機材の保存媒体用途としてたまに見かける事はあるぐらいだ。 だからもしかしたら、これからもまだ見かける機会があるかもしれないな」
「へえ、SDカードと比べてどのぐらい大きいの?」
「あんたらが今食べているチョコビスケットぐらいの大きさは普通にあるな」
 そう言われてユーシェリアがCFカードというワードを検索していた。 ヒットしたサイトはルーティスのその類のページだった。 そこへユーシェリアは記載されているサイズを見て、自分が食べているチョコビスケットと比べていた。
「42.8mm×36.4mm×3.3mm……ほんとだぁ! ほぼチョコビスケットだぁ!」

 集会場ですることをこなしてきた第1チームはそのまま秘密工場内部へと潜入、ある程度戦いは収束していた。 第1チームのメンバーは管理コンソールのある部屋へと侵入し、現地でデータを奪うことにしたのである。
 そこへヒュウガは――
「スタンドアロンな端末が2個あるな、デスクトップタイプなのにケーブルなしとかあからさまだな」
 恐らく、ネットワークを介していない孤立した端末が2台あることを確認した。 そこへウィーニアが――
「それなりのデータが隠されているんでしょうね」
 と言いつつその端末の前に座ると、早速操作を始めていた。
「その割にログインパスワードは共通しているんだよね、本当にセキュリティ対策になっているのかな」
 ユーシェリアももう一つの端末の前に座りつつそう言うとヒュウガは答えた。
「どうせスタンドアロンだし、現地にいなければ中身を確認しようがない、 だからそれ以上は気にしないんじゃないか?」
 ユーシェリアは頷くと、さらに質問をぶつけてきた。
「でもさ、スタンドアロンなのにどうしたらデータのやり取りができるのかな?  データをやり取りするときだけLANケーブルをつなげるとか? それともデータのやり取りってしないのかな?」
 ヒュウガは近くにある机の引き出しを開け、中身にあるものをいくらか出した。
「メモリーカードだ。USBもあるし、さっき話題に出たチョコビスケットもある」
「なるほど、つまりはメモリーカードを介して情報を交換していたってわけね」
 ウィーニアは納得した。 ユーシェリアも納得しつつ、CFカードというものを眺めていた、ごく普通の電子媒体である。
「ふーん、思ったより普通のカードなんだね」
 ヒュウガは頷いた。
「期待値を上げるほどのものではないのは確かだな、 俺もこれのインタフェースを持つ機材なんかわざわざ作らないし」