あれから時間が経ち、リオメイラ地下牢の一室にて、状況が変化していた。
「お前は夢魔妖女フラウディア!」
その部屋にはとある女性が幽閉されていた、彼女は――
「第53代リオメイラ女王メライナ様! 助けに参りました、早くここからお出になってください!」
フラウディアがそう促すとメライナは不思議そうに訊いた。
「ディスタード帝国の回し者のお前がどういうつもりだ?」
スレアが言った。
「陛下! 話は後です! それより今はとにかくここから出ることを考えましょう!」
彼に対してメライナは驚いていた。
「まさかスタイアル!?」
スレアは答えた。
「俺はそのスタイアルの息子です。
夢魔妖女フラウディアの前で男を信じるのは難しいかもしれませんが、
でも、彼女が帝国の手のものとして考えるのなら選択権はないと思ってください。
しかし、彼女をフラウディア=エスハイネとして信じていただけるのであれば、一緒にここから脱出しましょう!」
スレアの発言はなかなか賢いものだった、確かにリオメイラが帝国の手の内にある以上は選択肢が与えられないも同然か。
「わかりましたスタイアル、あなたが言うのなら信じましょう。
息子ということは、あなたがスレア=スタイアルなのですね?」
そこへフラウディアが急かすように促すと、メライナはそもそもこれがどういう状況なのか訊いた。
「一体、何がどうなっているというの?
リオメイラはディスタードによって征服されているのではないの?」
フラウディアはリオメイラの状況と、そして今起きていることを説明した。
「何ですって!? クラウディアスが動き出したというの!?」
「はい、女王陛下。私はクラウディアス側に立つことにしました。
そして今はクラウディアス軍を中心に周辺各国がディスタード本土軍を包囲している状況です」
「それだけではありません、ディスタード帝国内部にも本土軍を攻撃するガレアというところがあり、
彼らは我々クラウディアスにも協力的です。陛下がここに幽閉されている間に情勢がだいぶ変わっているんですよ」
彼女にとってはキツネにつままれたような話にしか聞こえないのだが、
この状況下では2人の言うことを信じるしかなかった。
「だとして――どうしてこの戦いにシェトランド人が参加を!?」
シェトランド人のイールアーズがどうして参戦しているのか、それだけはなかなか説明の難しいことだった。
そう、リオメイラではいよいよ行動が実行されたのである。
そのまま2人はメライナを――スレアがメライナを横抱き……所謂お姫様抱っこをしつつ、
フラウディアが先行して城の内部を探りながら進んでいると、
フラウディアはスレアを促し、誘導していた。
「ここか?」
スレアはフラウディアに促されたままとある一室に入ると、
その部屋にあるベッドの上にメライナを降ろした。
「俺は部屋の前を見張っているから、準備ができたら声をかけてくれ」
フラウディアは頷いた。
スレアが部屋の外に出るとフラウディアは双剣をそれぞれの手でくるくると回して納刀し、メライナに言った。
「さあ女王陛下、時間がありません。早く御着替えに――」
メライナは言った。
「ふふっ、不思議ですね、どういうわけかあなたのことを直ぐに信用できるようになってしまいました、
今のあなたがあるのも、やはり彼の存在のおかげですか?」
彼のおかげって!? フラウディアは顔を真っ赤にしていた。
「とても素敵な方ではありませんか? いいですね、まさに相思相愛って感じがして。
私もあなた方のような恋愛ができれば人生変わっていたかもしれませんわね――」
それを聞いたフラウディアの心境は少し複雑だった。
「陛下はやはり――政略結婚ですか?」
「ええ、そうです。ですが私の夫は既に亡くなっています。
子供には恵まれましたが、残念ながらその子も既に他界しています――」
メライナは話を切り替えた。
「今はどうでもいい話ですね。
とにかく、私はそういう運命を辿ることになりましたが、
あなた方はお互いに幸せになるといいですね!」
フラウディアは元気よく「はい!」と答えた。
フラウディアはメライナの身体の傷などの手当を行った後、
着替えを手伝うと、メライナは動きやすい服装へと姿を変えていた。
「すみませんね、他所の女性に着替えを手伝わせるだなんて――」
「そんな、私のほうこそ女王陛下の身の回りの世話みたいなことをさせていただけるなんて――」
それに対してメライナは言った。
「女王陛下なんてよしてください、メライナでいいですよ。
それに身の回りの世話だなんてそんなにいいものではありません。
女王なんて得てしてわがままなものです、
そんなわがままに付き合う下々の者なんて、仕事でもなければ嫌がるに決まっています。
少なくとも私はそう思いますね」
ここまではっきりとものを言う女性、フラウディアはほかに心当たりがあった。
だけどその彼女との共通点と言えば、まさしくリーダーシップを取るほどの女性であること、
それを考えるとフラウディアは妙に納得した。
そして、メライナはまた別のことを考えていた。
「あら? それとももしかして――土足に踏み込んだような言い回しをして申し訳ないのですが、
自分が本来は男だったことを気にしてそう言っているのですか?」
えっ、それは――フラウディアは焦っていた。
「ディスタード帝国本土軍の回し者で女性、
あのベイダ・ゲナの側近だなんていったらだいたい相場は決まっていますからね。
だけどクラウディアスに寝返ったことと今のあなたの立ち振る舞い、
そしてスレアさんへの思いを見るなり、あなたのそれは完全に女性のものと直感しました。
もちろんこのリオメイラを侵略してきたころからそれは感じていましたけどね」
だからメライナ自身もフラウディアがディスタードの回し者であることを認識するまでにだいぶ時間がかかり、
そもそもフラウディアがリオメイラを支配しに来た刺客であることにまず気が付かなかったという。
そしてメライナは改めてフラウディアに言った。
「クラウディアス王国騎士団女騎士・王室特務副隊長フラウディア=エスハイネ様、
リオメイラの女王であるこの私・メライナ=リオメイラ53世の護衛をどうか、どうかお願いいたします!」
メライナはフラウディアに頭を下げていると、フラウディアは焦っていた。
「そんな! 女王陛下――メライナさん! 頭をお上げください!」
メライナは頭を上げつつ、また態度を改めて言った。
「私はあなたがとても羨ましいです、
私は護衛がなければ自由に歩き回ることさえ許されません。
とはいえ、そういう星の下に生まれたのですから仕方がありませんがね」
そう言ったメライナの背中はなんだか寂しいものがあった。
すると、外のほうからノックする音が。
「おーい、そろそろいいんじゃないかー?」
スレアがそう訊くとメライナが反応した。
「あら、すっかり時間を取ってしまいましたね、あなたの彼氏様がお呼びです、先を急ぎましょう」
そんなメライナの表情はなんだか楽しそうな表情だったことをフラウディアは見逃さなかった。
「メライナさん――」
そうこうしているうちにリオメイラにはガレア軍が到着し、
リオメイラにいるディスタード本土軍を包囲、次々と投降していった。
あくまでディスタード本土軍の植民地という扱いではないため、
ガレア軍はそこを逆手にとって数で圧して正面から堂々と攻めていったのである、
攻めていったというよりは訪問という体で。
「ガレア軍のお出ましだな。さて、俺たちはどうする?」
スレアがそう言うとフラウディアは双剣を握りしめつつ言った。
「この混乱に乗じて今のリオメイラを裏から操作しているハズのドズアーノを叩きます!
彼はディスタード本土軍の刺客です、あいつを倒せばリオメイラに平穏が訪れることでしょう!」
「まさか! あのドズアーノがいるのか! そいつがリオメイラを支配しているのか!」
スレアがそう言うとフラウディアが答えた。
「ベイダ・ゲナ直属の部下で、一番頭の切れるやつです。
位階はネストレール、ゲイスティールに次ぐ存在ですが、
一癖も二癖もある人物ですね、何かワナを仕掛けているかもしれません――」
スレアは思い出しながら言った。
「ユーラル大陸侵略の最初期に関わったやつだろう!?
やつのせいでユーラルがディスタードに侵略を許す口実を作ったんだ、確かに相当頭の切れるやつらしいな。
だけどやつだって万能じゃない、懐に攻め込めばこっちのもんだろ?」
「それもそうですよね! だから私たちが来たんですよね!」
スレアとフラウディアは改めて決起していた。
「ホント、いい2人ね。リオメイラの未来を託すとしたら――
いえ、私ったら何を言っているのかしら? こんな重荷を背負わせようだなんてどうかしてるわ――」
メライナは頭を掻きながらそんなことを言っていた。