ティレックスはリリアリスに言われて集会所の裏手にある空き地へと赴いた。
すると、そこには見覚えのある人物が3名――
「まさかフェラル様のようなお方にこうして相まみえることがあるなんて――」
「フェラル様だなんて辞めてくださいな。
それを言ったら、あなたは”万人斬り”として一世を風靡した事のあるディルフォード様ではありませんか?」
「そんな、私の名前を……。
しかし、その名前はもう捨てました、私は過去と決別することに決めたのです。
無論、それでもその名前は私に一生ついて回ることも覚悟しています。
ですが、それでも私は今後の行動を改めて生きていくことにしたのです」
「そんなこと――あなたは傭兵として各地に派遣されただけではありませんか?」
「確かにそうなんですが、そのせいで大事なものを忘れていましてね、
だから私は、大事なもののためにも、そして私のために尽力してくださった方に報いるためにも、
生き方を変えることにしたのですよ」
そう言われたフェラル、ディルフォードもといディスティアの過去に余程のことがあったのだろうと思った。
また、その場にいたエレイアがなんだか嬉しそうにしていた。
そこへティレックスがやって来るとエレイアが気が付いた。
「あっ、ティレックスさんですよね?」
ティレックスは頷いた。
「ここにフェラルさんたちがいるって聞いて。
フェラルさんって”白銀の貴公子”だってイールが言っていたけど、そんなにすごい人だったのか」
ディスティアが少しがっかりしたような感じ言った。
「残念ながら、私も彼女が活躍していた当時のことはほとんど知りません。
ただ、先人たちによれば余程の腕を持つ人物だったと言うことは訊いています。
それこそ、世が世ならティレックスさんだって”白銀の貴公子”という名前を知っていたレベルだったのかもわかりませんね」
それぐらいの人なのか――ティレックスはそう思った。しかし、フェラルは謙遜していた。
「だけど――流石はシェトランドさんですね、私のことを知っておいでだなんて光栄ですね――」
それに対してディスティアはすかさず言った。
「いえいえ、あなたのようなお方にこの私の名を知られていることこそむしろ光栄ですね!
それこそ”白銀の貴公子”と言ったらまさに伝説の存在そのものですから!」
フェラルは再び謙遜していた。
「あなた方にしてみれば私なんかより”百戦錬磨のフォディアス”のほうが伝説を名乗るのに相応しいのではありませんか?」
”百戦錬磨のフォディアス”、百戦錬磨という通り名を持つとおりの偉大な人物であり、
それこそエンブリアにおける通り名持ちの初期の頃に活躍した人物でもあった。
そして何を隠そう――ティレックスはディスティアに訊いた。
「あんたもクラフォードもそうだけど、やっぱり名前の由来は”百戦錬磨のフォディアス”なんだろ?」
大活躍したスポーツ選手がいると、その当時の親は子供にその選手の名前をつけたがるということはよくある話だが、
エンブリアにおいてもそれはよくある話だった。
そう、クラフォードもディルフォードも名前の由来は世の中の”フォード”を増やした存在である、
”フォディアス”という名のセラフィック・ランドのハンターなのだという。
「フォディアスについては確かに伝説のハンターとして名が知れ渡っている有名な存在ですが、
その実はっきりしたことはあまりわかっていないので、何とも言えないですね――」
ディスティアは考えながらそう答えた。
「あら、じゃあ――そんな方を差し置いて私なんかでよろしいのかしら?」
フェラルは調子よく言うが、ティレックスが話に割って入った。
「話の途中で悪いんだけれども、そもそも3人で何やっているんですか?」
フェラルが楽しそうに答えた。
「ええ、御覧の通りただの世間話ですよ。それに面白い方ともお話できますからね――」
ディスティアも楽しそうに言った。
「まさかフェラル様とこうしてお話ができるなんて夢のようですね!
本当に、リリアさんは相変わらずすごい人ですね、すごいというか不思議というか、
こんな偉大な方を連れてくるだなんて――」
言われてみれば確かに不思議だった、どうしてフェラルさんが、そのような大人物がここにいるのだろうか、
ティレックスは気になっていた。それにはフェラルが気さくに答えた。
「楽しそうだったからですよ。
老兵は死なず、ただ消え去るのみという言葉もありますが、
だけど――久しぶりに違う空気を感じてみるのもいいかと思いましてね、
リリアさんに感化されて飛び出してみたくなったのですよ、彼女、とても楽しい方ですね!」
リリアリスは楽しい人――ますますリリアリスは不思議な人物だなとティレックスは思った。
しかし、フェラルが老兵というのは如何なものだろうか、ティレックスはそう思った、人は見た目によらないとは彼女のこと、
彼女は精霊族だからと言われると、相応に長生きしているのだろうと考えることができるが。
ティレックスが3人を連れて建物の中に入るとユーシェリアがウィーニアの隣で作業の手伝いをしていた。
「そういえば作業って言うけれど、具体的に何やってんだ?」
ユーシェリアが答えた。
「ただのデータ入力だよ。
ガレアは特に資料のデータ化が進んでいるんだけれども、
それでも今までの情報量が多いからなかなか完全移行ができてなくてね。
私の仕事なんかは主にソレがメイン。
今やっているようにいろんなシステムにもデータ入力とか頼まれているけれども、
気が付いたらみんなにタイピング神だって言われていてね――」
さらにウィーニアも言った。
「ホント、ユーシィちゃんの腕にはびっくりしたなぁ。
私もみんなからタイピング神って言われていい気になっていたけれども、負けてらんないや」
さらに2人は話を続けた。
「私の目標はウィーニアお姉様です!
タイピングだけでなく、ウィーニアさんみたいな美人のお姉さんになることです!」
「まあ、ユーシィちゃんってば♪
だったらユーシィちゃんのハードルをあげていかないとダメだなぁ~♪」
そのセリフはどこかで聞いた覚えがあった数名の男性陣。今更なのであえて訊くほどでもないが。
「ねえ、クラフォードはどう思う?」
「好きにすればいいんじゃないか」
クラフォードは冷めたリアクションをすると、同じく作業中のリリアリスがすかさず得意げに反応した。
「そう照れなくたって、ちゃんと返答してあげたらどうよ。」
しかし、クラフォードは何も言わずにその場を去った。
「あーあ、そうやってシカト決め込んじゃうんだ、つれないノ♪」
「つれないノ♪」
リリアリスとウィーニアは可愛げにそれぞれそう言うと、
クラフォードはティレックスの腕を引き、隅っこで話をしていた。
「なあ、どうして女共ってああなんだろうか――」
「奇遇だな、実は俺もそれがずっと気になっていたところだ。
それこそ、あの手の話を容易く捌ける男を一人知っているんだが、それも不思議でならないんだ」
「奇遇だな、俺の知人にもそんな男が一人いるぞ。
とにかく、俺が思うに女という生き物は俺ら男とは別の生き物だってことだ、例外のその男も含めてな」
例外のその男も含めて……そいつが誰かは2人の間で同じ人物を指していることは2人の間で一致しているのだが、
具体的にそれが誰なのかは見当が付きそうなものなのでこの際言うまい。