リジアル島はリオメイラ島とはちがい、背の低い草原の広がる島だった。
ただ、上陸地点から奥のほうには大きな山があり、そのふもとに本土軍の兵器の秘密工場があるらしい。
そして、ヒュウガが促した先には村があった。
「リジアルは元々は未開の島ではなく、
古い時代にあったっていう帝国の植民地だったらしい、例のウォンター帝国かもしれないな。
それはともかく、リジアル民の生活自体はあの通り、
町が原形をとどめている具合だから至って平穏のようだ」
それが不思議だったが、それについてはフロレンティーナが答えた。
「この島は自給自足の島として成り立っているからね。
当然、ディスタード帝国軍の入植の際に衝突があったハズだけど、
ディスタード帝国にかなうはずもなく、素直に投降したっていうことがあったみたいね」
リジアルについてはリオメイラとも似たような状況があった。
そう、帝国軍が侵食してはいるが、植民地として支配しているわけではなかったのである。
それはどういうことだろう、ティレックスはフロレンティーナに訊いた。
「リオメイラもそうなんだけれども、リソースが足りない島なのよ。
リオメイラは資源が乏しいけれども交易が盛ん、人も多いけれども、
帝国軍が支配しているとなるとそれも途切れてしまって帝国軍にとっては利益にはならない。
反対にリジアルは鉱物資源は豊富なんだけれども、人口自体は少ないから労働力を確保できない島という問題を抱えているわね。
しかも御覧の通り、ディスタードからは距離的にも結構離れていて物資の輸送には随分とコストがかかってしまう――
これ以上のことをしたらいろいろと不利な側面ばかりが浮き彫りになってしまうからこれがディスタードとしては精一杯のことなのよ」
帝国軍としては拠点を作るほどのリソースがないから、つまりその分だけお金がかかる。
となると、マジメに植民地として支配権を獲得しようとするうえでは他所の国から攻撃された場合に防御不足のせいで困る。
そのため、リジアル島も裏でこっそりとこの島を使用しているに過ぎないというのが実情のようだ。
「だけど、秘密工場として大規模なことをしていれば、いずれかは本土軍の植民地になるんじゃあ――」
ティレックスはそう指摘するが、フロレンティーナは首を振った。
「それはなさそうね。
最初はそう言う話もあったようだけれども、事なかれ主義なのか、
特に差し支えなければこのままの状態でいいのではっていうところのようね、
お金がかかるのは同じことだしさ」
特にこの海域は正に空白地帯、簡単に言えばイナカの島だらけなのである。
未開の地が多いというエンブリアの世界情勢、リジアルなどは認知度が低い地域のため、
事を荒立てて目立つと攻撃の的になりやすいが、そうでなければいたって平和だからこそ、現状の状態こそが善ということらしい。
そんな中、フィリスとアリエーラの姿が見えなかったことにティレックスは気が付いた。
「あれ? あの2人は?」
ヒュウガが答えた。
「話をしている間に先に行ってしまったようだな、
まあ、あの女がいつもの通りいないことを考えると――つまりはそう言うことだな」
それにはティレックスもユーシェリアも状況が何となく見えてきたようである。
村は素朴な農村という感じであった。
導線として轍による道があり、轍沿いに建物等があった。
その轍の終点には大きくて立派なお屋敷のような建物があり、
そこは村の集会所みたいな場所だった。
一行はその中へと入ると、既に先客がいた。
「クラフォード?」
ティレックスはそう訊くとクラフォードは反応した。
「よう、久しぶりだな。
イールにも会ったって聞いたが――あいつは相変わらずだろ?」
ティレックスは少し意地悪そうに答えた。
「そうだな、あいつは相変わらずだな。
できれば自分と戦いと妹以外のことにも気にしてほしいもんだ――」
クラフォードは笑っていた。
「はははっ、やっぱりそんなもんか――」
そこへヒュウガも笑いながら話に参加すると、クラフォードは集会所の中へと促した。
そこは素朴な農村には似つかわしくないようなコンピュータの量が設置されていた。
「なっ、なんだここは!?」
ティレックスたちは驚いているが、そこにはリリアリスが先にやってきていた。
彼女の隣にはアリエーラとフィリスもいた。
「遅かったじゃん、何してたのよ。」
突っ込みたいことは山ほどあるが、例によっていつものことなのでティレックスは例によって諦めていた。
そこへフロレンティーナが気になったので訊いた。
「この設備の様子からすると――昨日今日設置したものでもなさそうね」
リリアリスは答えた。
「ここはリジアルの人たちのご好意で場所を借りているのよ。
目的はリジアル民にとっても重要なディスタード帝国の本土軍の撃退のため。
リジアルに本土軍の秘密工場があるんじゃないかって話が出てから独自調査を始めたのよね、
それからよ、調査してリジアル民と根強い交渉を続けた結果、この状態が実現したのよ。
まさにここはディスタード軍を撃退するための拠点ということね。」
するとその場所で端末に向き合っていた女性が声を上げた。
「ん? できたの?」
リリアリスが訊くと彼女が示したモニタを見ていた。
「なるほどね、リジアルからマーリッドへの経路はアルディアスの南から――案外普通の航路ね。
ナメたマネしてくれんじゃんか――」
そしてその女性はリリアリスに訊いた、誰の声だろう……ティレックスはその声に少しだけ心当たりがあった、
その人物を確認すると――
「それでどうします? 妨害します?
その場合は当然ヒュウガさんにも手伝ってもらいますけれども――」
ヒュウガが答えた。
「手伝いというより、そいつはむしろ俺の出番だな。
それはいいから、アンタはそろそろそっちの作業を始めてくんないか?」
ヒュウガはそう言うと、クラフォードが彼女の前に美味しそうなスイーツを置いた。
「そういや忘れていたんだが、差し入れだ」
すると――
「あっ、これこれ♪ これが食べたかったのよ♪」
彼女は楽しそうだった。その様子を見ながらティレックスは訊いた。
「もしかしてウィーニアさん? それにクラフォードといい、もしかしてこの作戦――」
リリアリスが答えた。
「そうよ、リジアルの作戦についてはティルア軍による全面的な協力の下に成立しているってわけよ。
グレート・グランドもディスタード帝国とは仲が悪いのは同じだからね、
だからここで連中の息の根を止めるために力を合わせることにしたのよ。」
クラフォードは立て続けに答えた。
「そういうこった。今回は俺の個人行動ではなくてティルア軍が動いている。
バルティオスより全面協力の下で動いているからな、だからイールも来てたろ?
そういうことだ」
そう言えばそうだった。そう、それだけ今回は大掛かりなプロジェクトとして動いているのである。
「では、やりまーす♪」
スイーツを口に含んでご機嫌なウィーニアはそう言うと、
そのまま端末のキーボードへと手を乗せ、作業を始めた――
「ティレックス! ほらほら、ウィーニア姉様の神業が見れるよ!」
ユーシェリアがそう言ってティレックスを促した。
ん、神業? そういえば――ティレックスは思い出したことがあった、それは――
ウィーニアはそのまま作業を継続、彼女の流れるような操作――そして圧巻だったその端末さばき。
ティレックスは直ぐに分かった、ユーシェリアをも上回るタイピング神とは、
ティルアに所属している彼女、ウィーニアのことなのだろうと。