エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第5章 最強の女流剣士

第121節 誤魔化し

 リジアル島――マダム・ダルジャンはその島へと接近すると、帝国本土軍の軍艦が警戒している様が見えてきた。
「そう簡単には接近させてくれないみたいね、どうするの?  やっぱりステルス・モード的なものを使うの?」
 フィリスがそう言うとリリアリスは得意げに答えた。
「いえす、まさにその通り。このまま堂々とど真ん中を横断していくわよ。」
 リリアリスは何かを操作すると、船は何か強力な魔力に覆われた、それにはアリエーラがすぐさま気が付いた。
「こんな強力な魔力……直ぐに気づかれてしまいそうですね。 ということはつまり、クラウディアスのシステムにも備わっている”ダミー・トラップ”というものですかね?」
 これほど大きなものを隠すのにはそれ相応の力を消耗する、 ヘルメイズに停泊していた時は船が停止していたから”ミスト・スクリーン”で事足りていたようだが、 ある程度の大きさで動いている物体の場合はそれだけでは隠しきれないのだそうだ。
 そこでリリアリスは”ダミー・トラップ”という機構を開発し、 クラウディアス・フィールド・システムやマダム・ダルジャンに搭載したのだという。 要するに、この船はほぼ戦艦のようなものである。
「同じような気配のする物体をあちこちにまき散らして居場所を誤魔化すことができるっていうワケか」
 リリアリスの説明に対してフィリスはそう言うと、リリアリスは端末を操作していた。
「ダミー・トラップの配置は任意に決めることもできるのよ。 今回は――連中の配置が固まっているから、全く気付かれないように本体の気配の配置だけを誤差最大にしておくだけね。」
 船の居場所さえも誤魔化せるだなんていう芸当もできるのか、何人かは舌を巻いていた。 しかし、クラウディアス・フィールド・システムも直接被弾するのを避ける目的でそれを備えていることを何人かは思い出していた。
「リリアってこだわりが強いだけって言ってたけど、それだけではないような感じよね。 そういったことをナチュラルに考えられるあたり、相当の思考回路の持ち主ね――」
 フロレンティーナはそう言うとリリアリスは答えた。
「まさにそれね。 だから先日も言ったように、私は戦いの道を志していなかったら何かしらのクリエイターとして、 モノづくりに携わるだけの身として過ごしていただけかも知れないのよ。」
 なるほど――何人かは改めてリリアリスのことを知ることとなった。

 リリアリスの目論見通り、船はそのままリジアル島へとすんなりとたどり着いた。 だが、上陸地点は森の影に隠された場所だった。
「いくら見つからないからって言っても堂々とわかりやすい場所からは上陸しないってことか?」
 ティレックスはそう訊くとリリアリスは頷いた。
「ええそうよ。とにかく降りといて、私は様子を見てくるから――」
 リリアリスはそう言うとタラップを出した後に船から跳び上がってそのまま森の中へと姿を消していった。 それに続いてフェラルも飛び出していった。
「あれが噂の白銀の貴公子――大昔活躍していたっていう割にはずいぶんと元気な人だな――」
 ティレックスは呆気に取られていた。そこへユーシェリアがやってきた。
「ねえねえティレックス! 面白いから来て来て!」
 ユーシェリアはそう言いながらティレックスの右脇をしがみつき、強引に連れて行った。
すると船のタラップ・ブリッジ・システム・ユニットはヘルメイズの時とはまた違うような変形をし、 森のほうへと真っすぐではなく、茂みを迂回するかのような感じに展開していった。 その様、まさに――
「これ、タラップだよな? 桟橋にしか見えないんだが――」
 と、ティレックスはその光景にあっけに取られていた。さらに続けた。
「さっきのフローラさんの話じゃないけど、あの人の頭はどうなっているんだろうか――」
「退屈しなさそうだからいいんじゃない?」
 フロレンティーナはにっこりとしながらそう答えた、確かにそんな気がしなくもない。

 船に乗っていたティレックスらはタラップから降りると、そこにヒュウガがやってきた。
「よう、やってきたようだな。 ところで――あの女はまたどっかに行ったようだな」
 そんなことよりもティレックスはどうしてヒュウガがここにいるのか、 どうやってここに来たのか気になったので訊いた。
「俺か? 例によって奪ったコードを皮切りに場所を特定しただけだ。 さらに本土艦といえば割とよくあるDHY802型ディスタード艦、 コードとその型の船さえ奪えば侵入することもたやすい、問題は上陸してからなんだけれどもな。 でも、今回は――内容はこれから話をしようか」
 そう言いながらヒュウガは全員を促した。