エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第5章 最強の女流剣士

第118節 リオメイラ解放計画

 5人は城塞に守られている町のほうへは近づかず、外れの森の中へと侵入した、そこには洞窟が――
「地下道の入り口? ただの天然の洞窟にしか見えないが――」
 イールアーズがそう言った。 確かに、見た目ではごろごろとした岩場の中に洞穴があるだけという何の変哲もないただの天然の洞窟にしか見えないが――
「私がディスタード軍の刺客としてやってきたとき、 そして、リオメイラの任が解かれて脱出した際もこの洞窟から出入りしていました。 当時のこの場所を知ったのもまた夢魔妖女フラウディアとしての力を使用したからで、 ディスタードの中では恐らく私にしか知りえない情報だと思います。 ここはあの時から一切変わってないですね」
 と、フラウディアは言った。 かつてのフラウディアの行動は秘密裏に行われるものだったため、 リオメイラへの出入りについては表立ってできるものではなかったのだそうだ。 そう言った理由から彼女は秘密裏にリオメイラへと侵入できる経路を探っていたわけだが、 任務から解放された時も同様にリオメイラの交易に影響を与えたくないことからできるだけ秘密裏に行動をしていたのだという。
 そこへイールアーズは訊いた。
「それなんだがひとつだけ腑に落ちないことがあってな。 秘密裏とか交易に影響を与えたくないとか、 そう言う割には夢魔妖女フラウディアがリオメイラの新女王として成り立っているって話は結構知れてるじゃねえか。 それはどう捉えるよ?」
 フラウディアはしっかりと答えた。
「ですが、それがディスタード本土軍の刺客であるということには誰もが気づいておりませんでした。 無論、当時は新しい女王の統治体制が気に入らずに交易をやめてしまった国もありましたが、 それでも、ほとんどの国が交易をやめずにいる状況を鑑みて、結局いずれの国も関係を戻しています。 それに、私がディスタードの刺客だったということは私がリオメイラを去ってから発覚した話ですので既に後の祭り、 やはり以前と変わらずに運営がなされていると聞いていますね」
 さらにスレアが付け加えつつ、イールアーズに言った。
「言ってしまえば、フラウディアは帝国の刺客として向けられたものの、 リオメイラの内部ではちゃんとしっかりとしていたってわけだな。 あのディスタード帝国の刺客っていうことだと滅んだ国も数知れないが、 先入観だけで物事を決めることはできないってことだな?」
 それに対してイールアーズは少し悪びれた様子で答えた。
「わかった、悪かったってば。でも一つ訊いていいか?」
 イールアーズは態度を改めて言った。
「今のリオメイラは夢魔妖女フラウディアさんの下僕とやらがいるんだろ?  表から入れないものなのか?」
 フラウディアは答えた。
「私はもう本土軍から完全に決別した身です、 それこそ、昨今の本土軍によるクラウディアス襲撃における私の行動が彼らに決別することを知らしめる結果となったことでしょう。 そして、リオメイラには私の下僕というものは既にいないと思います、 リオメイラを出る直前に彼らから妖魔の力を既に断ち切っていますので――」
 ふーん、そうか……イールアーズはそう言うと、アーシェリスは急かすように言った。
「なんでもいいんだが、そろそろ入らないか?  荒野のど真ん中にいること自体すごい目立つのもあるし、 だからと言って森の中でも――ディスタード帝国軍自体が既にこの洞窟の存在を把握しているかもしれない、 となると同じところで留まっているのはすごい危険だと思う、違うだろうか?」
 イールアーズは頷いた。
「確かにお前の言う通りだな。というわけでさっさと入りたいところだが、異論はないな?」
 全員は頷くと洞窟の中へと進入した。

 洞窟の内部もまさに天然の洞窟そのもので内部は薄暗いが、ゴツゴツした岩肌がよく見える、 但し、足元は歩きやすいようにある程度整備されていた、もしかしたら古い時代に作られた脱出路か何かかもしれない。
 そして、”スタイル・トーチ”という道具――早い話、よくある懐中電灯を使用しながら洞窟内を恐る恐る進むこと10数分、 ゴツゴツした岩肌から人工的な作りの壁へと様相を変えていった、つまりここからが地下道である。
 その中をさらに進むと崩れた壁が通路を塞いでいるところまでやってきた。
「天然の洞窟との往来を塞ごうとするために私がやったものです。 ですが、皮肉にも自分がここから出るために一度こじ開け、再び閉ざしています」
 フラウディアがそう言うとスレアは明かりを瓦礫のほうへと向けた、 そこには確かに進めそうな穴の前に瓦礫が詰まっているようだった。
「つまり、まさにこの中が町の中ということだな――」
 フェリオースはそう言うとイールアーズは剣を取り出した。
「よし、俺が開けてやろう――」
 4人は少し下がり、その場をイールアーズに任せた。 イールアーズは力任せに大剣を振りかぶると、通路を塞いでいる瓦礫を勢いよく破壊、道はつながった。
「少し派手にやりすぎただろうか? まあいい、行くぞ――」
 イールアーズはそう言いながら進むとスレアがぼそっと言った。
「……確かに、面白みのない奴だからな、たまには派手なことしたっていいよな」
 それにはエクスフォスの2人はこっそりと笑い出し、フラウディアも苦笑いしていた。
「何を笑っているんだ? さっさと行くぞ」

 地下道を進むといきなり道が3つに分岐していた、十字路に差し掛かったのである。さて、どうするか――
「どれが正解だ?」
 イールアーズはそう言うとフラウディアは考えつつ答えた。
「右は町の入口付近、中央は市街地へ通じているので城への道は左が正解です。 ですが――城内にいきなり飛び出しても警戒の目を縫って動くのは大変かもしれませんね――」
 言われてみればそれもそうである、だが、何か策があったのではなかろうか、イールアーズはそう訊き返した。
「実は、現状のリオメイラ城の状況があまりよくわかっていないのです。 ですから、少し様子を見ながら行動しなければいけませんね――」
 フラウディアはそう言うとフェリオースが言った。
「でもさ、帝国軍が駐留って言っても占領しているわけでもなし、 連中の規模としてもそんなに大がかりではないんだろ? だったら俺に妙案があるんだが――」
 フェリオースはその計画の全容を言うと4人は賛同した。
「確かに”鬼人剣・イールアーズ”ってのは割と有名だが、 本人を見ても”鬼人剣とは”というものをまだ教えてもらってない気がするからな、 だったらここでその力を見せてもらおうっていうのはまさに名案だな」
 と、スレア。それに対してイールアーズはやる気満々で答えた。
「上等だ。 元より、ずいぶん前の”借り”はここで返すことにするつもりだ、俺としてもその案には異論はない」
 と言った内容の案であるあたり、 フェリオースが以前にイールアーズに負けたことに起因するものであることはなんとなく容易に想像がつくだろう。 アーシェリスが話を続けた。
「ということは、町の中から城に正面突破するのはイールアーズで決まりだが、城は俺たちで行くのか?」
 スレアが答えた。
「いや、城内は俺とフラウディアに任せてくれ、こっちは人数が少ないほうが動きやすいしな。 むしろ、町の中で騒ぎを起こすとなると、警備はそっちのほうに集中する、 別にイールアーズが心配なわけではないんだが、こいつに万が一のことがあれば……”借り”を作らせてやりたいだろ?」
 スレアは意地悪気にそう答えた。それに対してイールアーズは楽しそうに言った。
「ふん、やれるものならやってみろ、 あの時の足手まといぶりからどれほどのものになったか――せいぜい頑張ることだ」
 あの時……そう、エクスフォスとシェトランドとの衝突の件のこと、 そのため、エクスフォスの2人もまたやる気になっていた。
「おお、上等だ、やってやろうじゃねえか。 もっとも、本当に”鬼人剣・イールアーズ”に万が一のことがあってもその時は見捨てるからな、気をつけろよな」
「俺としては”鬼人剣・イールアーズ”が人に助けられたなんて目も当てられねーだろうからな。 だから”鬼人剣・イールアーズ”を助けてやったっていうネタでも持ち帰れば面白いことになるだろうな」
 アーシェリスとフェリオースはそれぞれそう言うと、フラウディアは心配そうにスレアに訊いた。
「あの、イールさんとお二方の間に何かあったのです?」
「ああ、こう見えてもこいつらは一応因縁の間柄なんだ。 でも自尊心を刺激してやるとやる気を出してくれるところはそっくりだ」
 スレアは意地悪そうに言った。