稽古場を離れると、各々は汗を流すためにシャワーを使用し、軽い恰好でリビングへと落ち着いた。
リビングには既に昼食の準備がしてあり、各々ご飯を食べ始めていた。
「今日のトレーニングは楽しいトレーニングでしたね。
でも、あなた方はまだまだお若いですからこの程度では足りないことでしょう――」
アリエーラが答えた。
「そんな、それを言ったらフェラルさんだってまだまだお若いでしょうに――」
フェラルは嬉しそうに口に手を当てながら答えた。
「そんなことありませんわ。
だって、私にはもう孫がいますからね、相応に歳は取っていますよ。
もちろん、動けと言われたら、種族的にもまだまだ現役で動けるような歳ではありますが――」
すると、厨房から出てきたリリアリスがトレイに食べ物を乗せてリビングへとやってきた。
その後ろから使用人たちもトレイに食べ物を乗せながらやってきた。
「はい、お待たせ!
流石に名家のキッチンというだけあって広いわね、せっかくだからデザートも作ってきちゃった。
後で食べられるから楽しみにしておいてね。」
トレイに乗っている食べ物はアクアパッツァとバターソテーだった。
それらに使用されているのはもちろん――
「あれ? もしかしてこれ、先日捕まえた嵐のドラゴンです?」
ユーシェリアはそう訊くとリリアリスは答えた。
「アタリ。
あんなにデカイ魔物、食べきるのも大変だからおすそ分けってことでちょっと解体してきたのよ。
それでも全然残っちゃっているけれども、あとはクラウディアスに持ち帰れば十分よねきっと。」
それにはフェラルも目を輝かせながら言った。
「まあ! なんて美味しそうなんでしょう!
嵐のドラゴンということはテンペスト・ドラゴンブリームです? そんな巨大魚までよく捕まえましたね!
嵐のドラゴンは肉厚で、とても食べ応えのあるものなんですよ。
王国時代は捕獲が成功した場合は王家への献上品にもなっており、
私も一度は口にしたことがあるのですが、まさか生きている間にまた食べられる機会があるだなんて、とても嬉しいですね!」
それに対してフィリスは思った、リリアリスがいる限りはいくらでも食べられるんじゃないかな、と。ですよね。
リリアリスが捕まえて作った鯛料理に舌鼓を打ち、デザートタイムへと突入、
女性陣はみな満足していた。
「それにしても戦いや武器に、それにあのような料理まで作れるなんて、なかなか多彩な方ですね!」
フェラルはそう言うとリリアリスは答えた。
「多分、私は戦いの道に身を投じていなければそのまま技術者の道を歩んでいたかもしれないですね。」
戦いの道に身を投じていなければそのまま技術者の道を――
その話を聞いた何人かはそれを聞いたことで何かしら思うことがあったようだ。
フェラルは首をかしげていた。
「技術者ですか?」
フラウディアはリリアリスのことをある程度説明した。
薬や刀鍛冶、クラウディアスを守るための政策から兵器と船の開発から操作まで――
「そうなんですか! すごいですね! マルチな才能の持ち主なんですね!」
「別にそんな、ただこだわりが強いだけですよ、それで結構みんなも巻き込んじゃているし――」
謙遜するリリアリスだが、フェラルは前向きだった。
「でも、その技術をもって平和運用するために努力されているというのはいいことではないですか?」
技術開発の裏には必ず戦争がつきものである。
しかし、リリアリスの場合はそのあたりもきちんと考えて開発している当たり徹底しているところがある、
というよりも他所ではまねできないほどの技術者ということでもある。
他所ではまねできないほどの難解な作りなのは開発品ではなく、作り手であるリリアリス当人の思考回路なのだ。
「作ったからには自分できちんと責任をもって使えるようなものでなければ本末転倒ね、
それは力を持つことと一緒で、自分でも使えないようなものは作るべきではないわ。」
だからリリアリスは危なっかしい”兵器”なんていうのを使っているのだろうか、
フィリスとフロレンティーナはそう思った。
「もちろん、別の人が責任を持ってくれるっていうのなら話は別だけれども、
その場合は今度、その人のことを考えて作らないといけなくなるわね。」
そう言われるとアリエーラが反応した。彼女の持つ廉価版”兵器”は当然、彼女の作だからである。
「私のことを思ってくださっているからこの武器なんですね!」
それに対してはリリアリスも流石に照れた。
「ま、まあ、そう言うことになるわね、でも、そんなんでよかったのかな?」
ユーシェリアが楽しそうに言った。
「私も満足しているよ! お父さんのナイフを使って新しい剣にしてくれて、すごく嬉しいです!」
なんと、既存の武器を改造して新しいものを作れるのか、フェラルは舌を巻いていた。
「すごいですね――でしたらお願いがございますが、かなえていただけるでしょうか?」