それにしても――フロレンティーナはリリアリスを見て思うことがあった。
「あのさ、リリアっていつも魔法剣による遠隔攻撃かスカイ・アタッカーなりのジャンプ攻撃ばっかりやってるところを見るけれども、
他の技能はどうなの? リリアが強すぎるがあまり、敵がいつも簡単にやられちゃって、
いまいち彼女の実力がどれほどのものなのか全然把握できていないんだけれども、実際のところはどーなの?」
アリエーラは答えた。
「正直なところ、私もあんまり見たことはありません。
いつもあいまいな記憶から探し出すだけで申し訳ないのですが、
彼女の格闘による戦い方はウィング・マスター・クラスによる格闘術を基礎に、
おっしゃるように魔法剣士クラスとスカイ・アタッカー・クラスとしての技術だと思っています。
ですが――」
ですが――アリエーラも知らないリリアリスの能力が隠されているようだった。
「確かに言われてみれば――リリアお姉様、私の相手をしてくれた時もウィング・マスター、
魔法剣士、スカイ・アタッカーと、どのクラスの技でもない手段で相手をしてくれていたような気がする――」
フラウディアが言うとフィリスも思い当たる節があった。
「いろいろと抱えているリリアのことだから別に気にも止めてなかったけれども、
言われてみればどのクラスにも当てはまらないパターンで戦いを繰り出していることも多いね、
あれって何なのかな?」
”ネームレス”の中でも一番謎の多いリリアリスだが、それだけにいろいろとあるようだ。
するとリリアリス、フェラルから一気に距離を取って今度はその場で剣を納めて構えると深呼吸をした、これは――
「! いけません!」
フェラルはその構えにとっさに気が付くと、全力で防御の姿勢をとった! と、その時――
「くっ、やはり、私の見立て通り、あなたはかなりお強い方ですね――」
リリアリスはフェラルの背後へと瞬時に移動していた!
フェラルはその場で剣を手放すと、自分のお腹をおさえながらその場で崩れてしまった――
それに対してリリアリスはすかさずお得意の風属性の回復魔法”ヒール・ウィンド”でフェラルの傷を癒していた。
「すみません、少し本気を出しすぎてしまいましたね。
ですが、私の技を見抜けるだなんて――この世界、どこに行ってもあなた以外の他にはいませんでした――」
フェラルは答えた。
「わざわざ回復までしていただいて、温かくて優しい魔法ですね――しかも回復系ではそれなりに高度な風魔法系ですか……。
そんなあなたほどの方に私の腕を大きく評価していただけるとは光栄です。
それにしても――歳は安易に取りたくはないものですね、こんなにも簡単にあなたとの勝負がついちゃうなんて。
もっとも、それでもこの私ではあなたの腕にかなうことはありませんが――」
と、非常に謙遜した態度を貫き通していた。しかしそれは謙遜などではなく、本当にそうだったようだ。
「そんな、リリア姉様が私のおばあちゃんに勝ってしまうだなんて――」
フラウディアはその光景を目の当たりにし、驚いていた。
それに対してフェラルは言った。
「フラウディア、この方――恐らくそこのアリエーラさんもフィリスさんもそうですが、
この私の腕では太刀打ちできない方たちであることでしょう。
そもそも今の戦いでも私は彼女に手加減されています、本気を出していただけないのはすごく残念なのですが、
それでも元武人としては大変いいものを見させていただきました。
ウィング・マスターに魔法剣、スカイ・アタッカーとソード・マスター……
いいえ、あらゆる武芸の才を備えた”ブレイド・マスター”の才能まで持っているなんて――」
リリアリスの能力はまた別のクラスによる技術だった。
ブレイド・マスターはあらゆる武器による格闘術に長けているクラスと言われている。
そのため、どの武器でも汎用的に扱える技量が重視され、
そしてそれぞれの武器の特性を生かした技が使える技量をも修得しているのがこのクラスである。
ゆえに特定の武器にかかわらず、如何なる武器に対する対抗策を兼ね備えているのも特徴である。
だからなのか、リリアリスは複数の武器の特性を持っている”兵器”を作り出したという訳である。
無論、あらゆる武器を作り出す彼女としてはあらゆる武器の使い方に精通するという点がプラスに作用しているということは言うまでもない。
しかし、その”兵器”を作ったタイミングはブレイド・マスターを志したタイミングよりも前の話であり、
そのことはリリアリスもきちんと覚えていた、”兵器”を開発した時のことをある程度覚えているぐらいだから間違いないのだろう。
なお、リリアリスがブレイド・マスターを志したのにはとある理由があった。
その理由の目的についてはわからなかったが、彼女には別に目指していたものがあったのである、それは――
「私にはとある師匠がいてね、その人とはとっても仲が良かったのも覚えているよ。
残念ながら具体的にどういう人だったのかはきちんと覚えていないんだけれども、
それでも、とても厳しくてとても優しい、面倒見がいい、ある意味”お姉様”という人に近い存在の人だったことは覚えてる。
私、その人に憧れて”フォース・マスター”を志そうと考えたのよ、それがブレイド・マスターをやろうとしたきっかけなのよね。」
そのクラスは知っているものであれば誰もが認める伝説のクラスだった。
”フォース・マスター”とはあらゆる能力を以て、あらゆるあだ成す存在を大いなる力で浄化するという、まさに至高の存在であった。
そして、それがリリアリスの師であるとは――確かに、リリアリスの異様と言えるような強さの裏付けともいえるようだ。
「フォース・マスターをやるのにブレイド・マスター?」
フィリスはそう訊くとリリアリスは答えた。
「ブレイド・マスターをやって、まずは基本的な格闘術をすべて学べって言われた気がする。
それで、ようやく私はフォース・マスターの卵になったってワケ。」
つまり、すでにフォース・マスターの階段を上り始めているというのである。
「ということはつまり、フォース・マスターの極意が使えるというのですね!?」
フェラルは興奮しながら訊くが、リリアリスは得意げに「見たいです?」と言った。
その返答は当然のごとく、楽しそうな感じで当然の返答が返ってくると、リリアリスはそれに応えた。
「最初に謝っておくけれども、人形1つ潰しちゃうのはごめんなさいね。」
リリアリスはそう言うと、鉄製の人形めがけて木刀で構えた。
そして目を瞑って意識を集中すると、リリアリスの身体から強烈なオーラが木刀に集中した。
目を見開くと――
「砕けろ!」
リリアリスはそう叫びながら鉄製の人形めがけてオーラを発射、
鉄製の人形に強い衝撃波が浴びせられ、そのパワーに耐えられなくなった人形は木っ端微塵となり、
原形をとどめなくなってしまった――
それに対してフェラルは嬉しそうに言った。
「今のはフォース・マスターの初歩の極意の”ギガ・ショック・ブースト”ですね!」
リリアリスは深呼吸をしてから答えた。
「ええ、そう。
あと私が使えるのは、ここでやったら家が壊れるどころか森が大火事になる”テラティック・ダスト”と、
極意で使用するフォースの性質を変容させる”ディファレンス・フォース”ぐらいかな?」
フェラルは目をキラキラさせた楽しそうな表情だった。
その表情にリリアリスは――
「なーるほど、血は争えないってワケね――」
と、得意げに言った。お孫さんは苦笑いしてごまかしていた。
フィリスはリリアリスに訊いた。
「そこまでやれて”フォース・マスターの代名詞”っていう例の伝説の極意ってのはまだ使えないのね?」
リリアリスは頭を掻きながら答えた。
「流石に”フォース・テラ・ブレイク”は今の私の手には負えないわね。
言うてフォース・マスターの卵なんかが安易に使えるようなものじゃあないから、
私だってまだまだ修行中の身ってワケよ。」
ここまでの使い手であるリリアリスですらまだまだということとなると――それは相当骨が折れそうな極意であることは容易に想像が付きそうである。
「もっとも、しばらくサボっているのもあるし、修行にしてもそのカリキュラムがどうだったのか――全然思い出せないからやりようがないのがネックなんだけど。」
やはり伝説のクラスというだけあってか、修行法が不明というのが挙げられる。
いや、だったらどうやって体得したんだよと小一時間。