朝食の席はやはりフラウディアとフェラルとがきちんと話をしたためか、
前日の夕食の時に比べてさらに楽しいものとなっていた。
その後、フェラルはとある場所へと一行を案内した。
その時のフェラルの服装はまさに王国騎士を思わせるような勇ましい帷子だった。
そして、彼女に案内された場所は――
「稽古場?」
リリアリスは訊いた、そこはあからさまに剣の稽古場のような広い場所で、
家の外にも通じており、木や鉄の人形なども置いてあった。
「私が幼い頃や騎士に成り立ての頃はここで剣の修行をしたものです。
私の父親もまた名うての剣の使い手でしたので、この場所で家族そろって時間を共にしたものです。
そして、騎士を辞めてからは私の剣の腕を求めてやってくる方々で賑わっていました。
ですが、今は――私が健康のために汗を流す程度でしか使用されていません、ずいぶんと寂しくなってしまったものですね――」
と、フェラルはなんだか嬉しそうに言った、それもそのハズ、彼女はさらに話を続けて言うと、
「だけど――今回この私を求めてわざわざやって来ていただいたわけですから、
やはりここを案内しないわけにはいかないでしょうね。
そのおかげでこの場所も久しぶりにかつての賑わいを取り戻せたようです、あなた方に感謝しなければなりませんね――」
と、彼女はやはり楽しそうに言った。それに対してリリアリスが訊いた。
「その帷子はディスタード王国騎士のものですか?」
フェラルは頷き、やはり楽しそうに答えた。
「この帷子は私がディスタード王国の永世騎士の証として今は亡き陛下から賜ったものです。
もちろん、私は辞める際に騎士の座を返上し、この帷子もお返ししたのですが、
私が騎士を辞めてからもOGという形で携わることになりましてね――」
そのため永世騎士としての座を頂き、この帷子もこのまま彼女の下にあるのだそうだ。
「騎士を辞めてからもたまに袖を通すことはありましたが、
王国が滅び、ここには誰も来なくなってからというものの、その機会もなくなってしまいました。
この帷子に袖を通すのは何十年ぶりでしょうか、今でもまだ袖を通すことができるだなんてとても嬉しいですね――」
フェラルは反りの入ったサーベルのような木刀を握りしめながら言った。
「誰か私の朝の日課となっているトレーニングの相手をしていただけませんか?」
その時の彼女の気迫は普通の女性から感じるそれとは異なっており、ただならぬオーラを醸し出していた。
リリアリスは周囲の女性陣を見ると、誰の表情を見てもリリアリスが出るべきというような雰囲気が伝わってきた。
その空気を呼んだリリアリスはどこからともなくその場に出現させた木刀”KOJIRO”を出すと、
それを握りながら得意げにかつ、ていねいに言った。
「白銀の貴公子様のお相手ができるだなんて光栄ですね。
それでは、お手柔らかにお願いいたしますね。」
各々が剣を構えた時の気迫は各々から並々ならぬオーラが!
最初に攻撃を繰り出してきたのはフェラルだった。
白銀の貴公子時代に培った剣術を繰り出し、リリアリスを翻弄していく!
「すごい――これが白銀の貴公子の腕――」
リリアリスはフェラルのその能力に圧倒されていた、だが――
「リリアリスさん、あなたの腕はこんなものではないハズ、手加減は要りませんよ?」
リリアリスの腕を見抜いていたようだった、そうまで言われたら仕方がないか、
それこそフラウディアの腕を考えると、フェラルの腕はリリアリスとしてもなんだか見逃せないものがあった。
「それでは遠慮なくそうさせていただきますね!」
するとリリアリス、”KOJIRO”をしまい、木刀”MasamuneBlade”を新たにその場で出した。
その木刀の長さは”KOJIRO”を上回る長さだった。
しかも、その際のリリアリスの剣撃たるや、非常に重いものを感じたフェラルだった。
「流石ですね、あなたは騎士ではなさそうですがそれ以上の何かを感じます、ですから――」
フェラルも武器を変えて挑んできた。
反りの入ったサーベルから直刀型の剣のような木刀を取り出した。
お互いに果敢に技を繰り出すも、お互いの技をきちんと決めまいとして一歩も譲らず、戦いは続いた。
「それにしてもすごいわね、フラウディアのおばあちゃんって今でも十分通用するような腕前よね!
だからなんで現役を退いたのかな? 単に出産のせい?」
ユーシェリアがそう訊くとフラウディアが答えた。
「それもあるけれども、実際のところディスタード王国の衰退が原因みたいですね。
おばあちゃんは女王陛下からはとてもよく慕われていて、側近として指名されたほどだったそうです」
それはフェラルが女性であるからこその事、
当時の女王陛下は白銀の貴公子が実は女性であることを見抜いていたようだ。
「そんなある日のこと、女王陛下はおばあちゃんに縁談の話を持ちかけ、
子供を身ごもってからは騎士を辞めて将来の子のために尽くすよう命じたそうです」
ここまではある程度聞いた通りだが問題はその後だった、ディスタード王国の衰退である。
それにより、フェラルが王国騎士を辞めてから10年後にディスタード王国は4年ほど続いたクーデターにより滅亡。
以後、同王国はディスタード帝国として君臨し、元王国のものは帝国軍によって蹂躙されたのだという。
なお、女王陛下についてはフェラルが辞めてから3年後に病気で既に他界していたという。
王国滅亡までの間は衰退に伴って何かと不幸続きだったディスタード王国だが、
それにフェラルが巻き込まれないようにという女王陛下の計らいだったようだ。
もちろん、フェラルとしてはそれでも王家に努めるのが騎士の務めだと言ったのだが、
フェラルのことを心底信頼していた女王としてはそれを許さなかったのだという。
そう、大事なものは権力などではなく、未来なのだということである。