改めてだが、ここからはフラウディアの道案内。
彼女は道を外れると、みんなはそれについて行く。
そこはまさに森の中の小道であり、どことなくクラウディアスのメルヘンチックさを思わせる光景――
フラウディアにクラウディアスという地を知らせることとなる動機になった光景なのかもしれない、
現に、これはクラウディアスの地を参考にして作られたのだという、
まるでフェラントからクラウディアスに通じる道のようだといえばまさにその通り、
そこにいた誰しもがクラウディアスのその道を思い出していた。
そして、そんなメルヘンな小道を抜けると光が――
そこには大海原を見渡せる見事な絶景が広がっていた。
右手には大自然豊かな森林に覆われ、その手前にエスハイネの立派な邸宅が佇んでいた。
エスハイネの丘から眼下には森林帯があり、その奥にはクラウディアス大陸が真ん中に望める大海原が広がっていた。
「わあー! 何ここー! すごい素敵ー!」
ユーシェリアは楽しそうに言うとフロレンティーナも楽しそうに言った。
「ここがエスハイネの丘!? あんたこんないいところで育ったの!? すごい素敵な場所じゃない!」
エスハイネの丘というのは元々エスハイネ家が所有していた土地であることに由来する。
そして、この地は断崖絶壁の上でクラウディアスの見える海が一望できる場所としてもこの界隈では有名だった。
だが、そんな2人を他所に、リリアリス、アリエーラ、フィリスは別の感情を抱いていた。
「どうしたんです、お姉様たち――」
フラウディアは心配そうに3人に訊いた。
「なんでしょうか――どことなく懐かしい感じのする場所ですね――」
「本当に、なんだかすごく懐かしい感じのする場所ね、どうしてかしら、
私、ここに来たことがある気がする、それもずっと長い時間、ずいぶん昔からずっと――」
「私もです、それもリリアさん、あなたと一緒にずっと――」
2人の感想ががユーシェリアたちが想像していたものとは違っていることに驚いた。
そして、フィリスの感想も似たようなものだった。
「私もこの場所を知っている気がするわね。だけど、どこだったっけ?
それに――知っている場所とはどこか違う気が――」
そう言われると、リリアリスも気が付いた。
「確かに、似ているけれども見える風景はだいぶ違う気がするわね。
私の知っている場所だと、もっと標高の高い場所だった気がする。
それこそ、眼下には低い山々が見えるような感じだったかもしれない――」
アリエーラも追随していた。
「左は広い平原が見え、右には雪の降りしきる雪原――だったような気がしたのですが――」
そう言うとアリエーラは我に返り、焦っていた。
「あっ、いえ! 別に、この場所が気に入らないとか、そういうつもりではありませんから!
ここもとっても素敵な場所ですよ! こんなに広い海が見える場所に家があるなんて、すごくいいじゃあないですか!」
リリアリスとフィリスも追随した。
「そうそう! 見えるものが違ってもそれはそれ! 海が見える家っていうのもいいわよね!」
「そうね! しかも真ん中には夢の王国クラウディアスなんて、
フラウディアが憧れるのもなんとなくわかる気がするし――」
それに対してフラウディアはクスクスと笑っていた。
「そんなこと、別に気にしていませんよ。
むしろ、私もお姉様方の記憶にあるその光景も見てみたくなっちゃいました!」
そんなことを言っていると、エスハイネ邸から誰かがやってきた。
それはやや高級感のあるような服装に身をまとった優しい物腰の女性だった。
「あらあら、お客さんですか?」
すると、フラウディアはその人物に対して慌てて顔を隠した。
声の主に対し、リリアリスは慌て気味に答えた。
「あ、これはごめんなさい、この場所はあまりにいい眺めだと聞いたものですから、つい来てしまいました、
本当にすみません、私たちはこれで帰りますので――」
そう言うと女性は気さくに答えた。
「構いませんよ、ここからの眺めは最高です、私の自慢の景色ですからね。
それにしてもお客様だなんて久しぶりですねぇ――、
昔はもっと大勢の方がいらっしゃったのに、今ではすっかり御覧の有様ですよ――」
すると、リリアリスはその女性からとてつもない気迫を感じ取った、この人まさか――
「もしかして、あなたが白銀の貴公子・フェラル=エスハイネ?」
それに対して女性はにっこりとしながら答えた。
「白銀の貴公子だなんてなんだか懐かしいわね、そう呼ばれなくなってから何年経つことでしょう。
あなたみたいな若い女性にまで私のことが知られているだなんて、とても嬉しいわね――」
シャナンが語っていた通り、かつてフェラル=エスハイネは白銀の貴公子と呼ばれ、
その地位をほしいままにしていた腕の立つ使い手であった。
彼女の存在はまさに通り名を持つ者の走りであったが、こうして存命である点ではまさに生きる伝説と呼ぶに相応しく思える。
「じゃ、じゃあ、私たちはこれで――」
フロレンティーナは慌ててそう言うがフェラルは呼び止めた。
「お待ちくださいな、見たところ、あなた方はヘルメイズの者ではありませんね?
帝国兵というわけでもなさそうですので――なんともまあ不思議な旅人さん達ですこと、
せっかくですから一緒にお話でも致しませんか?
もちろん、楽しいお話があれば大歓迎ですよ、家族もいない寂しい年寄りのお相手をしていただけるのなら嬉しいですね」
フェラルはそう言いながら6人を家のほうへと促していた。
もちろん、フラウディアとしてはどうしようか迷っていたが断るわけにもいかず入ることに決めると、
5人も続いて家にお邪魔することに決めた。
エスハイネ邸は古いがなかなかおしゃれな館だった。
森の小道の入口から既に私有地なのだが、館の前の入り口の門を抜けると立派な玄関があった。
そして中に入ると、そこには古き良き時代の高級木材仕様の家の作りで、アンティークの調度品が並ぶ景観が。
すると、リリアリスとアリエーラとフィリス、そしてフラウディアはおもむろに靴を脱いで上がろうとした。それに対し――
「あら、玄関の作りを見て土足厳禁を判断頂けるなんてなかなか珍しい方々ですね、
脱いだ靴はそこの下駄箱に入れていただければ幸いです」
と、フェラルがすぐさま反応した。
エンブリアで土足厳禁の文化は非常に珍しいほうらしく、知らない人はそのまま土足で入ろうとすることも多いようだ。
それに対してフラウディアはともかく、リリアリスとアリエーラとフィリスはうっかりしていたらしく、
はっと気が付かされた。
「あらホント、どうして靴を脱ごうと思ったのかしら? 不思議ね――」
「そ、そうですね、不思議ですね――」
「えっ? あれ? 確かにどうしてだろ……」
こんなことでも何かあるのか、何人かは3人の様子を見てそう思っていた。
ただ、確かにガレアやクラウディアスでは一部土足厳禁な場所が多いのだが、
その理由はリリアリスまたはリファリウスやアリエーラの一存によるものなので、この3名の影響があるようだ。
特にクラウディアスのこの3人の寝室については完全に土足禁止の部屋である。
つまり、この3人については土足厳禁の意識があるということだ。