領内の移動はこのご時世では非常に珍しい馬車だった、
クラウディアス王国と同じで旧王国時代の名残を感じさせるような移動手段だった。
御者にガッツリとムッツリの2人を並べさせ、他のメンバーは馬車内で話をしていた。
「またずいぶんと可愛い恰好をしていますね――」
アリエーラはメイローザ隊の2人の服装を見ながらそう言った。
「ふふっ、ありがとうございます、アリエーラさん!」
シルビーヌは元気よく答え、アルファイドはなんとなく照れている様子だった。
「にしても、アルファイドさんは女性の服装との折衷なんですね、これはどういう――」
アリエーラが訊くとフラウディアが答えた。
「メイローザ隊は昔、ディスタード王室の近衛兵でそもそも男女のペアで構成されていたからですよ。
ディスタード王国騎士団は女人禁制ですが、
室兵だけは別で女王陛下の側近ということで女性の方が選ばれていたという歴史があるんですよ。
その名残で見た目だけでも男女のペアに見えるようにと今でもその形になっているようです、
ずいぶんと昔の話らしいんですけれどもね――」
シルビーヌは頷いた。
「流石はお詳しいですね、フラウディアさん!
確かにメイローザ隊はずいぶん昔にあったのですが王国末期において一度は解散していました。
そして当時の王国の活気を取り戻そうとヘルメイズでは新たにメイローザを復刻させたのですが、
男3人女1人だからバランスを取るために誰が女役をやるかってなった時、
あのガッツリとムッツリだと見た目的に厳しいから見た目的にどちらとも取れそうなアルファイドが選ばれたってワケなのよ、ね!」
シルビーヌはそう言うとアルファイドが頷いた。
「ベルメイアとオルファスも手を上げたけど――僕もあんまりあの2人のそれを見るのは嫌だなぁ――」
と、何気に楽しそうな表情で毒を吐くアルファイドだった。
しかし、そんな可愛らしい表情でそんなことを言うこの男に対して萌えている女性がいた、それは――
「アルファイドって本当に可愛いな――持ち帰ってもいいかしら?」
それはまさかのリリアリスだった。
「リリア姉様――今度また、一緒にお食事をさせてください!」
アルファイドもあながちまんざらでもなかった。
「何よ、2人して仲良しなの?」
フロレンティーナが意地悪そうに言うとアルファイドは答えた。
「僕と姉様は歳が離れているんだと思います!
だけど――姉様はいい人ですし、僕のために心配もしてくれます!
だから姉様も早く自分の目的が達成されることを僕は願っています!」
リリアリスはニヤッとしつつ答えた。
「ふふっ、ありがとうね、アルファイド。そうなのよ、アルファイドはいい子なのよ。
まったく、弟にしたいぐらいだわ――」
リリアリスは楽しそうに言った。
弟にしたい男の子、リリアリスからその発言を訊いたのは誰しもが初めてだった。
それにはフロレンティーナも――
「確かに可愛い男の子ね、お姉さんちょっといたずらしたくなっちゃった♪」
楽しそうに言うとリリアリスは言った。
「でしょ! わかるでしょ! でも、いたずらしたくなったって思うだけにしときなさい。」
フロレンティーナは我に返って答えた。
「そ、それもそうね、せっかくの価値が台無しになっちゃうからね――」
どういうことだ、何人かは突っ込まずにはいられなかった。
「良かったじゃんアルファイド! 2人のお姉様に気に入られて!」
「えぇーっ!? そんな、参ったなぁ……」
アルファイドは照れていた。
「ああ、それと、本来ならカリュア様をお連れする予定だったのですが、
今はガレア軍との共同作戦に出向いておりまして――」
そう言うアルファイドに対してフロレンティーナがにっこりとしながら答えた。
「いいのよ別に、気を使ってくれてありがとうね。
私は大丈夫よ、また会えるからね」
カリュア様? ユーシェリアが訊いた。
「お母様? えっ、ヘルメイズ軍に従事しているんだ!?」
フロレンティーナは気さくに答えた。
「そうなのよ、今はヘルメイズ軍のエリートとしてやっているんですって。
私の知っているお母様はそんなんじゃあなかったからちょっと驚いちゃったんだけどね」
ガッツリとムッツリが引く馬車は、無事にヘルメイズ領の主要な都市であるディアティラの町へとたどり着いた。
「さてと、ようやくついたわね。
あとはここからエスハイネの丘へと向かうだけだけれども――」
リリアリスをはじめ、全員ディアティラの地を踏みしめることとなった。
「ここが本来のディスタードの地ですか――」
アリエーラが辺りを見渡すと、そこにはフェラントやグラエスタでも観たような風景が広がっていた、
まさに古き良き町並み、木々の中に閉じ込められた石畳に石造りの家々、そして奥には古き良きお城と、かつてのディスタード王国の栄光を思わせる光景だった。
そして、ディアティラの町は帝国領土内にもかかわらずそこそこに活気があり、ガレアの町以上だったことがリリアリスらを驚かせていた。
「帝国の町らしくない活気に装い、まさにディスタード王国はヘルメイズが守りたかったものそのものという感じに見えるわね。
これだからこそヘルメイズは本土軍からもマウナ軍からも煙たがられていたってワケか。」
「しかし、ガレア軍は我々を支持されていますよね?」
ガッツリ――ベルメイアがそう訊くとリリアリスが答えた。
「というより、今のディスタード帝国の体制に異を唱えている感じよ、
こんなところで言うのは障りがあるかもしれないけれどもね。
だから、このディアティラの町の状態がずっと続いてほしい気がするわね――」
リリアリスは話題を切り替えた。
「そう言うわけだからメイローザ隊、ありがとうね。
また今度お話でもしましょ、ね?」
ベルメイアは答えた。
「はい、またの機会を楽しみにしております、リリアリス様――」
「はぁ? 別にアンタに言っているわけじゃあないのよ、ねっ、シルビーヌとアルファイド♪」
「はい! リリア姉様! 楽しみにしていますね!」
「リリア姉様! またお会いしましょう!」
リリアリスが言うとシルビーヌとアルファイドはそれぞれそう答えた。
それに対してベルメイアと、話題にすら触れられなかったオルファスはしょんぼりとしていた。
彼女らはフラウディアの案内でディアティラの町を進んでいた。
「にしてもメイローザ隊? ディスタードのもう一つの良心といえる連中にあんなクセのあるやつらがいるなんてね――」
フィリスがそう言うとリリアリスは頷いた。
「そうそう、あんなにクセがあるのにディスタードの数少ない良心だから困るのよ。
まあ……いないよりは遥かにマシなんだけれども。
当然、ヘルメイズの上層部の人間にも話は通してあるし、
彼らも上層部の人間だからガレアから直接話しても十分話は通るわね。」
なるほど、そうなのか、今回の旅が実現できたのも頷ける話だった、
これがもし本土軍だったら――フラウディアとフロレンティーナは考えていた、
同じ帝国内でどうしてこうも差があるのだろうか、と。
それに自分としてはこのヘルメイズ軍に従事できたらまた別な人生だったのかもしれない、
この地で生まれ育ったフラウディアはそう思った、それはそれなのだが。
「メイローザ隊ってヘルメイズのエリート集団だって訊いたことはあるけれども、
まさかあんな連中がやっているだなんて――ちょっと面白いわね」
フロレンティーナはどことなく楽しそうに言った。
半面、ユーシェリアはベルメイアがやっぱり苦手で苦笑いしていた。
そんな中アリエーラは首をかしげており、リリアリスはそれを察してすぐさま答えた。
「えっ? ああ、そういえば前にそんな話したわね、
ヘルメイズ軍は前々からガレア軍を鼻に引っ掛けないような態度だったって。
ヘルメイズがガレアの行動を評価してくれるまでにはそんなに時間がかからなかったわ。
それこそルシルメアとの停戦協定と、ルーティスの解放によっていち早く興味を示してくれたわ。
実際、マウナ軍の解体やその後の処理についても、
その後にあった無国籍小隊との戦いにおける事後処理でも結構助けられてるわね。
ガレアにヘルメイズのスパイが数人配置され始めたのはそれからだったわね、
攻撃的諜報活動じゃあないから容認しているけどさ。」
本土軍には僻地扱いされているが意外といろいろなところで活躍しているらしいヘルメイズ軍だった。