エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第5章 最強の女流剣士

第104節 嵐のドラゴン

 海の中に飛び込んだ2人は――
「あらま、なんだかと思ったら大物がいるじゃん――」
 リリアリスが言うと、アリエーラも反応した。
「まさかテンペスト・ドラゴンブリームです!? 鯛ってこんなに大きくなるんですか!?」
 鯛と言えば魔の乱域あたりで獲れるというストーム・シーブリームというのがいるが、 こいつはその巨大魚テンペスト・シーブリームをさらに上回る大きさの存在だった。 その大きさ、全長が32メートルもあるリリアリスのマダム・ダルジャンには及ばないにしても、 体長10メートルを超えるだろうそいつの存在は、漁師の間でも”ドラゴンを見た”と呼ぶに相応しいほどの貫禄があり、 まことしやかに”嵐のドラゴン”――テンペスト・ドラゴンブリームと呼ばれるようになったのである。
 すると、テンペスト・ドラゴンブリームはリリアリスめがけて体当たりを放った!
「ほほう――ずいぶんと気が立っているようね、産卵時期はどの魚もそんな感じ?」
 リリアリスは巧みに身をかわしながら得意げにそう言った。
「とりあえず、こんな怪物をこのままにしておくわけにもいかないから今のうちに仕留めとくわよ。 ねえアリ、フィリスと連携してもらえる?」
「いいですけど――リリアさんは?」
「私はあの暴れん坊にきついお仕置きをしにいくから、お願いね!」
 そう言うと、リリアリスはテンペスト・ドラゴンブリームを追って泳いでいった。

 リリアリスは鯛を追うと、改めてそこにはとてつもないサイズのドラゴンがいた。
「なかなかやってくれるじゃん、なら、これならどう?」
 リリアリスは”兵器”を取り出し、風の刃を発射させた。だがしかし――
「強いわね、当たったハズなんだけれどもこの程度じゃあびくともしないってわけか――」
 と、その時――
「うそっ!」
 ドラゴンは再びリリアリスめがけて突っ込んできた!
「マジかこいつ――、今まで相手してきたやつ全体を通してこいつが一番強い気がするわね――」
 リリアリスは何とかかわしたが、リリアリスをまとっている空気の膜は食いちぎられていた。
「あんなんじゃあ魔法使っても同じかしらね。だったら――あれしかないか――」
 そう言いながらリリアリスはドラゴンに背を向け、船のほうへと泳いでいった。だが――
「そうよね、逃がしてくれるハズはないわよね、知ってる。」
 ドラゴンは退いているリリアリスに向かって再び突撃!  それに対してリリアリスは得意げに攻撃をかわしていた。
「まったく! だから慌てないの!」
 リリアリスはドラゴンの猛攻を再びよけるとそう言いつつ船の近くまでやってきた。
「さてと、この辺りでいいかしらね、アリ。」

 一方でフィリスは――
「えっ、今のはアリの声!?」
 どこからともなく声が聞こえてきたようである。
「お願いですフィリスさん、水産ユニットの中にある装置を動かしてください、 海の中にとんでもない大物がいるんです――」
 そう言われたフィリス、他の3人にそれを説明すると、3人にフィッシャリーズ・ユニットへと案内された。 そして、フィリスはそれらしい装置があるところへ行くと――
「もしかして、これ?」
 フィリスは”船底キャッチャー”と書かれたレバーを指さしながらそう言った。 大物を捕まえるとして、それらしいものを使うとするのならそれしか考えられなかったのである。
 そして、フィリスは勢いよくレバーを作動させた! すると、同じ部屋の中にある大きなアームが動き始め――
「えっ、あんな大きなアーム――」
 それと同時にユニットの床が大きく開くと、その近くにあった箱のようなものから網が出てきた。 そして、アームは網と一緒に船底のほうへ――
「そんな! 船の下に何がいるっていうの!?」
 フロレンティーナはその様を見て驚いていた。他の3人も驚いていた。

 一方でアリエーラは――
「あっ、あれで捕まえるつもりなんですね、それにしても大きなアームですね――」
 アリエーラはマダム・ダルジャンの船底からアームが出てくるのを眺めていた。そして、彼女にもどこからともなく声が――
「えっ、リリアさんです? どうかしましたか?」
 彼女の場合は直接声が届いたのではなく、シンクロに依るものである。
「リリアさんに雷魔法ですか? 今、どの辺です?」
 すると、アリはその場から勢いをつけて思いっきり跳び上がり、 海の上へと飛び出すとそのまま水面に着地――いや、着水した。 その様はまさに天から降り立った女神様――
「あっ、あれ、アリじゃない!?」
 海から出てきた彼女の姿を確認したフロレンティーナが反応した。
「アリエーラねーさまー! 大丈夫ですかー!」
「リリアさんは大丈夫ですかー!」
 フラウディアとユーシェリアはアリエーラに向かってそう叫ぶと、アリエーラは手を振って応えた。 そして――
「リリアさんはあの辺にいるみたいですね――」
 アリエーラは「準備はいいですか?」と、そう胸に手を当てて念じると返事が返ってきた。
「行きます! ”龍の閃き”!」
 上空から突如として激しい一筋の光が水面めがけて降り注いだ! その水面の下では――
「来たっ! アリの魔法!  これが原始精霊魔法”フェドライナ・ソーサー”と呼ばれる超高等魔法ね、私も使えるけど、アリの魔力は私のよりも――」
 リリアリスはその魔法を自らの”兵器”に吸収していた――
「さーて、これであんたもイチコロよん♪」
 リリアリスは得意げに構えていた。そして――
「さあ、これで終わりよ! かかって来なさいよ!」
 リリアリスはドラゴンを挑発すると、ドラゴンは再びリリアリスめがけて突進!  それに対してリリアリスはよけることなく――
「よし、来たわね! これでも喰らいなさい! ”プリベント・ブラスター”!」
 リリアリスは激しい雷撃球を繰り出すと、ドラゴンに激しく炸裂!  ドラゴンはその場で感電し、動くこともままならなくなったのである――
「ったく、手間かけさせんじゃないわよ!  あんたみたいなの、後でじっくり料理してやるからそのまま大人しくしてんのよ!」
 その後、ドラゴンは例のアームと網で船の中に収容されたことは言うまでもない。

 捕獲したドラゴンは水産ユニットの冷凍庫の中に身を切り分けて保存されるに至った。 とにかく、普通の包丁での解体作業は困難であり、リリアリスは例の”兵器”を以てなんとか解体作業を継続できたのである。 とんでもない大仕事であるが、”兵器”を以てなんとか解体作業できるあたり、それはそれでとんでもない人である。
 そして――
「リリア、なんか海中にたくさんあるんだけど――」
 フィリスはリリアリスを呼びながらそう言うと、リリアリスは操舵室へと向かった。
「いよいよヘルメイズ領の近くまで来たわね。」
 すると、リリアリスはおもむろに船の操舵を”Semi-Auto”に戻すと、舵に手をかけた。 フィリスが見たというのは船のモニタから岩礁が迫ってきている光景だった。
「まだまだ”悪夢の岩礁地帯(ナイトメア・バリアリーフ)”には早いけれども、ヘルメイズに近づくころには――」
 そう言ったリリアリスはなんだか考え事をしていた。 それについてはアリエーラもフィリスもなんだか思い当たる節があった。
「今度は何を思い出したのかしら?」
 フロレンティーナは3人の様子を見ながらそう言うと、リリアリスが答えた。
「いやさ、”悪夢の岩礁地帯”ってどこかーで聞いたような気が。」
 そんなものにまで思うものがあるなんて、よくわからない3人だった。

 ヘルメイズの土地、ルシルメア大陸南東部に伸びている陸繋島が見えてくると、 そこはとんでもない場所であることが分かった。
「ここが世界有数の”ルシルメア・グランド・リーフ”という場所よ。 こっちだけでなく、陸繋島の反対側のほうもこんな感じの岩礁帯が続いているワケ。 船ではとてもではないけれども近づくことができない場所ってところで有名ね」
 と、フロレンティーナが説明した。 何人かはそれを聞いたことはあったが、こうして見るのは説明した本人も含めて誰もが初めてだった。
「そんな、こんな海の状況でどうやって進むんです?」
 フラウディアがそう訊くとリリアリスは答えた。
「まずはSemi-Autoでは進めないからManualに切り替える。」
 リリアリスは船の操舵モードを切り替えた。
「そして、今回のために特別にインストールした”リーフ・セーバー・システム”と、 ”バラスト・ジャスト・モーメント・コントローラ”を起動する。 セーバー・システムは岩礁の位置を計算して、なるべく危険の少ない航路を割り出すシステム、 コントローラはまさに岩礁に接近するにあたっての対策をする機能が備わった制御装置ね。」
 例えば、岩礁に接近するにあたり、なるべくぶつからないような動作をするようにバラストのほうで制御するらしい。 仮にぶつかったとしてもその際の船へのダメージを自動的に修復することができるらしい。 実際、先ほどの巨大魚がぶつかる場合にも効果はあったようだが、あれは不意の出来事だったので今となっては後の祭りである。 当然、それぞれの装置を起動するということは、それだけ船のエネルギーを消耗するということでもあり――
 ということで、リリアリスはそのシステムとコントローラを起動させた。 そして、ルシルメアの”悪夢の岩礁地帯”へと入っていく――