エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第5章 最強の女流剣士

第102節 エスハイネの丘へ

 フラウディアの提案により、リリアリスはエスハイネの丘があるヘルメイズへと行くこととなった。 ディスタードのヘルメイズについてはガレアとは友好関係にあり、ガレア軍の立ち入りもフリーということから、 まずはガレア軍と合流するのが先決だった。つまり、道は遠いがディスタードのガレアに一旦戻る必要があった。
 いや、それよりも近い道がある、ルシルメアからそのまま陸路でヘルメイズまで辿るルートである。 その場合、フェラントかグラエスタの港からルシルメア行きの便を探し、 ルシルメア南港からガレア軍の伝手をたどってなんとかヘルメイズまで行くルートである。
 だが、今回はそれよりもさらに近い道を辿ることにした。
「今回は私の船で直接ヘルメイズに乗り込みましょう。 大丈夫、話はすぐに通せるから、ちょっと面倒だけどね――」
 まあ、面倒は面倒なのだろう、そう思ったがなんだか特別な理由がありそうだ。
 そして、今回の旅のメンバーはリリアリスとフラウディアはもちろん、 アリエーラ、ユーシェリア、そしてフロレンティーナである。
「たまにクラウディアスの外に行くのもいいですね。今回は女性陣だけなんですね。」
 アリエーラが言うとリリアリスは頷いた。
「そう、女だけ。女だけの旅ってのもいいでしょ? って、以前もこんなことがあった気が。 あれ、そういえばアリったら、あれ以来ずっとクラウディアスに入りびたりなんだっけ?」
「はい、クラウディアスは楽しいので、そこいることについては申し分ありませんが、完全に居候ですね、 時々外に出ることもあったりはしましたが――」
 アリエーラは苦笑いしていた。
 そんなこんなでフェラントの港にやってくると、そこに一人の女性が周囲を見渡しながら立っていた。
「あれ? どうしたの?」
 リリアリスが話しかけるとその女性は振り返って答えた。
「あれ、リリアじゃん! それにアリと――なんだか見ない顔もいるね、どうしたのみんなでおそろいで?」
 その女性は立て続けに言った。
「ただのセラフィック・ランドからの帰り道よ、さして収穫はなかったけれども、 言ってしまえば収穫が何もなかったことが収穫そのものかな――」
 そっか、何もないのか――リリアリスとアリエーラはそれぞれ悩んでいた。
「私らはこれからヘルメイズってところに行くのよ、せっかくなら一緒にどう?」
 リリアリスがそう言うと、女性はその言葉に乗った。
「リリアとアリが一緒なんて楽しそうだから、行こっかな?」
 彼女はフィリス、金髪だがところどころ真紅の色の髪の色をしているのが特徴である。 さらに性格はお転婆で男勝りなところがあるリリアリスよりもさらに男勝りなのが特徴であり、 この通り、リリアリスやアリエーラとは仲が良く、特にリリアリスとはうま馬が合うようだ。

 リリアリスは一行を港のドッグへと招き入れると、 その足で一足先に自分の船のタラップを降ろすため船へと飛び乗った。 そして、アリエーラが他の女性陣に先に乗るように促すと自分は最後に乗った。 それに気が付いたリリアリスはタラップを収納すると、そのまま船を出港させた。 しかし、リリアリスはそのまま何か作業しており、船の操舵はアリエーラが行っていた。
「はいよー、シルバー、ですね!」
「はいよー、シルバー、お願いね、アリ。」
 それを見ていたフィリスは言った。
「へえ、アリも船の操縦ができるんだ」
 アリエーラはにっこりと笑顔で答えた。
「取舵いっぱい!」
 フェラントを出港した後、アリエーラは取舵をとると船はそのまま左方向へと進んだ。 クラウディアス大陸の東側に回り込み、そのままルシルメア大陸東部のヘルメイズ領を目指すようである。

 今度は船の舵を何故かフィリスが握っていた。 舵も計器類も昔の豪華客船にありそうなアンティーク調の装いで、 それこそ船の舵は樫の木でできているようだった。 この辺りもリリアリスのこだわりなのだろう、 ”マダム・ダルジャン”、貴婦人の名を冠する船なだけあって、そのあたりは徹底していると言える。
 ちなみに、エンブリアにおいても基本的に船舶免許がなければ船を操舵することはできないが、 旅先で操舵手が亡くなるなどということが珍しくなかったエンブリアにおいては免許なしの操作もやむなしということで、 普段でも免許もち同伴で特例で操舵が認められているのである。 といっても、船を動かすということは大体免許もち同伴にしかならないのだが。
 フィリスは計器類等を眺めながら言った。
「なーんか小難しいつまみやらがいろいろとついているけれども、この船の操作って簡単だね」
 リリアリスは作業を続けながら答えた。
「一番右のつまみが”Semi-Auto”になっているでしょ?  最近の船はある程度はだいたいそうなっていて、かゆいところは全部勝手にやってくれるのよ。 何から何まで全自動の場合は”Full-Auto”、1から全部自分でやりたい場合はプロ仕様の”Manual”――とまあ、 そういった船の作りになっているのよ。」
 フィリスは苦笑いした。
「そういう作りにこだわる点は船も例外じゃあないのね。 さて、そろそろ安定航路に差し掛かるところだから”Full-Auto”にしてもいいんじゃないかな?」
 彼女がそう言うとアリエーラはそっと手を出した。 フィリスは頷くと、そのつまみを”Full-Auto”にセットした。
「これでよしってワケか。で、このまましばらくしたらヘルメイズってところに着くの?」
 リリアリスは答えた。
「Full-Autoじゃあ辿りけないわね。 話だと上陸地点付近は有名な岩礁地帯らしく、Auto Modeの機能で突き抜けるのは難しそうね。」
 フィリスは驚きながら言った。
「えっ、じゃあ、そこはManualで行かないとダメってこと?」
「そうよ、私の腕の見せ所ってワケね。」
 と、リリアリスは得意げに言うが、そういえばリリアリスは何をやっているのだろうか、 フィリスはずっと気になっていたので訊いた。 出港時はコンテナ・ユニットに行ったり来たり、その次は操舵室ユニットの片隅、 今はタラップの収納装置付近で船から少し身を乗り出して何かしていた。
「コンテナの整理と、今はタラップにアタッチメントをセットしているところね。 コンテナにはクラウディアスに設置したフィールド・システムを積んでいたから、結構ごちゃごちゃしていたわね。」
 リリアリスはさらに続けた。
「で、今はタラップの改良中。 さっき向こう側にもアタッチメントを取り付けたんだけど、 両サイドに取り付けないといけないからやってる最中よ。」
 アリエーラは操舵室ユニットの片隅のほうに目をやった。 そこには端末が置いてあり、何やら画面が動いていた。
「これもそうですか?」
 アリエーラはそう訊いた。
「だいたいそんなとこ。 実際には船のシステムをアップデートしている最中で、今回のタラップの改良も対象よ。」
 フィリスは再び苦笑いしていた。
「まったく、なんでもやるし、なんでもこだわってるのね――」
「そうね、まったく、我ながら面倒くさい性格よ。」
 リリアリスは得意げに答えた。 しかし、そういう面倒くさい性格の人がいるからこそ技術が進歩しているのも確かである。