エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第5章 最強の女流剣士

第100節 相思相愛

 スレアがデートまがいにクラウディアスでのフラウディアの仕事の段取りなどを教えつつ、大体行動を共にしていた。
 そして、夜中にスレアとフラウディアのそれぞれの話を訊いた翌日のこと――
「スレアさんが私のことを!?」
 リリアリスとアリエーラ、そしてフロレンティーナも呼んで、フラウディアにスレアの話をしていた。
「よかったじゃない、まさに両想いだったみたいね!」
 リリアリスは嬉しそうにそう言うけれども、フラウディアの内心は複雑だった。
「ほ、本当に私みたいなので、いいのかな――」
 やっぱり、元々女性ではないことと、かつて夢魔妖女であった自分、フラウディアはどうしても悩んでいた。
「いいんじゃない? スレアがあなたを求めているのなら、あなたもしたいようにすればいいんじゃない?  特にあのスレアがあんたの色香が大のお気に入りで放したくないっていうのなら、 もう、それはスレアとしてはあんたがいないとダメってことで、 そのうち自ら進んであんたのためならなんでもするようになるわよ?」
 フロレンティーナは説得するようにそう言うと、フラウディアは焦っていた。 実際、フラウディアは悩みを最初にフロレンティーナに打ち明けていたのだが、 彼女はフラウディアと同じ夢魔妖女組ゆえに、打ち明けられてもただ話を聞いていることしかできなかったのである。 だが、まさかこんなことになるなんて――フロレンティーナはむしろ希望を見出したのだった。
「で、でも、私の誘惑魔法がお気に入りだなんて――」
 それに対してアリエーラが言った。
「そういえばそう言うケースは私も聞いたことありますね、 普通は誘惑魔法だなんていうものですから、相手を使役するため、相手の心を強制するために使うのがほとんどです。 こういう場合、受ける側の心が反発するので効果が低いとまでは言いませんが、 それでも自然に効果が切れてしまうこともありますし、場合によっては受け付けないケースもあるそうです――」
 アリエーラはさらに続けた。
「しかし、今回のスレアさんのように術者に対して特定の感情を抱いている場合、 つまり、術者に特別好意を抱いている場合は別で、 むしろ心が抵抗するどころか完全に受け入れてしまいますので、 術者の意思とは無関係に心の中に誘惑魔法が残ってしまうことがあるみたいですね。」
 それに対してリリアリスは頷いていた。
「要は純粋に相手が好きだって言うだけの話ね。 長期的に誘惑魔法にさらされた場合もあまりの心地よさから術者に依存してしまうことがあるけれども、 今アリが言ったことがまさにそれで、たとえ短期に誘惑魔法にさらされた場合だろうと、それが彼にとっては幸せだと思えば結局効果は続く…… つまり、スレアは自ら進んでフラウディアの下僕になりたいって感じなワケよね。」
 そう言われたフラウディアはすごく照れていた。
「す、スレアさんが、私のことをそこまで――」
 フラウディアはリリアリスに念を押された。
「さ、あとはフラウディア、あなた次第よ。 改めてになるけど、元々女じゃないとか、夢魔妖女だったとか、彼にとっては二の次三の次よ。 だからそんなこと気にしないの、あなたがたとえ何者であってもあんたのことがいいって言っているワケでしょ?」
 そう言われてみればそんな気もした。
「確かに、好きな人のために身を引きたい気持ちもわからなくもないけれどもね。 でも、せっかくならスレアのこと、考えてみたくない?  正直、私もあのスレアの心変わりには驚いた、ファースト・インプレッションこそ最悪だったけれども、 戻ってきてからのあんたに対するあの変わりよう――恐らく、彼自身の中で何かしらのケジメをつけたのでしょうね、 だからこそ、これからはあんたのために力になる事にしたのよ。 で、あんたの誘惑魔法を受けたことでスレアはあんたの心根のよさを理解して、 それであんたのことが好きで好きでたまらない状態になっているのよ、きっと」
 フロレンティーナはそう言ってフラウディアを諭していた。 フラウディアは考え直し、照れた様子で言った。
「そうだね、スレアさんのこと――考えてみようかな?」
 リリアリスは頷いた。
「ふふっ、話は決まったようね。 そうと決まればあのスレアをバックアップするわね、 あいつにはその方向で行動を起こさせることにしていくよ。 それに――どうせだったらスレアに告白されたいよね?」
 それがまさか、あのスレアから本当に告白されることになろうとは―― 後になってリリアリスの力の偉大さを知ったフラウディアだった。

 スレアはフラウディアに告白の後、 フラウディアには既に自分の気持ちが伝えられていたというショックを受けたスレアだが、今更引くつもりはなかった。 しかしあの後、スレアは単身でリリアリスとアリエーラの元へとやってきた。 2人はやっぱりいつもの場所にいた。
「あのさ、あんたって本当に人が悪いよな――」
 スレアはリリアリスにそう切り出した。
「何がよ? フラウディアがあんたのことを好きだってこと? 別に言う必要ないでしょ?  彼女の気持ちがどうであれ、あんたは彼女に気持ちを伝えることが目的、 それに、告白するんだったら軽い気持ちでやるんじゃなく、 相手の気持ちを覆したいというような状況の緊張感を持っていた方が彼女だって嬉しいでしょう、そうは思わない?  それに、彼女はサプライズが大好き、とっても喜んでくれたでしょ? あんたもそんな彼女を見て嬉しかったんじゃないの?」
 正論だった……というか、またしても見透かされている――この女、やっぱり計算高い……。 それでも先に彼女の気持ちを知っていたかった気もするスレアだったがいずれにせよ、今となっては後の祭りである。
「で? デートはうまくいったの? その様子だとうまくいったようね。」
 リリアリスは嬉しそうに訊いた。
「スレアさん、フラウディアさんを幸せにしてあげてくださいね!」
 アリエーラも楽しそうに言った。
「それはまだ気が早いような――それに、デートだってまだ全然してない、ただ互いの……いや、俺の気持ちを伝えただけだ」
 そう言いながらスレアは足早にその場を去ろうとした。
「どうしたのよ、もう少しぐらい話を聞かせなさいよ。」
 リリアリスは茶化すように言うが、スレアは首を横に振った。
「悪いが無理だ、これからデートするっていう大事な約束があるんでな。 だから、また今度にしてくれないか?」
 それに対してリリアリスは楽しそうに「おお!」と言い、アリエーラは嬉しそうに「あら♪」と言った。
「そう言うことなら引き留めるわけにはいかないわね! 頑張ってらっしゃい。」
「ですね! スレアさん、フラウディアさんと楽しんできてくださいね!」
 リリアリスとアリエーラはそれぞれそう言うと、 リリアリスはおもむろに「餞別よ。」と言いながら5,000ローダを手渡した。スレアは驚いた。
「こっ、こんなに!?」
「いいから、四の五の言わずに取っときなさいよ。 お礼したければまた別の機会にでも受け付けてあげるわ。」
 そう言われたスレアはありがたそうに受け取った。
「何から何まで悪いな――」
「気にしない。だから彼女のためにいろいろとしてあげなさいよ?」