それから翌日以降、リリアリスはスレアのために全面的にバックアップすることにした。
「なんで俺のこの状態を解決する方法がフラウディアさんへの愛の告白なんだよ?」
リリアリスはスレアを会議室に呼び出すと、その様な話を始めていた。
「だって、フラウディアのことが大好きなんでしょ? だったらいいじゃないのよ?」
「でも、相手にとっては迷惑でしかないかもしれない、そう言ったじゃないか?」
「は? 迷惑? 何を言ってんのよ、あんたがちゃんと正面からフラウディアに向き合えば、
彼女だってちゃんと応えてくれるはずでしょ? それとも――自信がないのかしら?」
そっ、それは――いつもラシルを揶揄っている自分としては、
今になってラシルの気持ちがなんだかわかるような気がした、ラシルのそれと全く同じ状況なのかは別にして。
「第一、俺のこれはフラウディアさんの誘惑魔法のせいなんだろ? それがなければ――」
「それがなければ――本当にフラウディアを振り切れる自信があるっていうのかしら?」
それを言われたら――スレアは自信がなかった、
それこそ、本心で好きだからこそ、彼女の誘惑魔法を取り込んでしまっている状況が続いている可能性すらありうるのだから。
そう、相性にも依存するということはまさにそういうことだ。
「わかったよ、俺も男だ、逃げも隠れもしない。
誘惑魔法のせいかもしれないとはいえ、彼女が好きなのは事実だ。
だからそれは誘惑魔法のせいではなく、俺自身の問題として処理したい。
だけど――俺、こういうのにはすこぶる弱いんだよな。だから、その――」
「ふふっ、その点については心配無用よ。
あんたの愛しのフラウディアちゃんを振り向かせるため、
このおねーさんがあんたのためにとっておきのテクを教えてあげるわ。
そうね、あの子はサプライズにはすこぶる弱い子だから――
とにかく、女子の心をつかむことから教えてあげるから安心しなさい。」
リリアリスは得意げにそう言った。
スレアらしからぬ発言はリリアリスの入れ知恵だったということである。
そして、”アルディアス・ニアリー”ゲートの近くにある塔の上にて、
海は夕日に照らされ、光輝いていた頃――
「では、スレアさんの意中の女性ってどんな人なんです?」
「多分、どんな人か当てるのは難しいかもしれないが、そうだな――」
どんな人なんだろう、知りたかったフラウディアはスレアに迫った。
「わかった、そこまで言うのならどんな人なのか教えてやろう。
その人はな――今、俺の隣にいる女性だ」
フラウディアはとても驚いた。
「えっ、私!?」
スレアは内心とてもドキドキしているがなんとか平静を装い、何食わぬ顔で言った。
「よくわかったな、そうなんだ、
実は――俺が一番好きな女性はフラウディア=エスハイネという人だ――」
そう言われたフラウディアは顔を真っ赤にしていた。
そして、それと同時にスレアはフラウディアのほうへと向き直って言った。
「悪い、今までのはちょっと反則的な流れだったな。
だけど、過ぎたことはもうどうでもいい。
とにかく、俺から伝えたいことはもう一つあるから聞いてくれるか?」
スレアは態度を改めるとフラウディアに頭を下げ、右手を差し出しながら言った。
「俺と付き合ってくれ!」
リリアリスがスレアを呼び出してフラウディアに対する心のうちの話をしている一方で、
アリエーラも同じネグリジェとカーディガン姿で、寝室にてすっかり寝支度を済ませていた。
そこへ誰かがやってくる気配がしたので、部屋の扉を開けた。
「さあ、どうぞ!」
入ってきたのは同じくネグリジェとカーディガン姿のフラウディアだった。
「こんな時間にすみません――」
それに対してアリエーラは「お気になさらず♪」と楽しそうに言いながら部屋の中へと促した。
「あれ? リリア姉様は?」
「ええ、ちょっと用があるというので今はいませんよ、ごめんなさいね――」
フラウディアは首を横に振っていた。
「いえ、私としてはリリアお姉様であろうとアリエーラお姉様だろうと同じです、
お2人とも、とても優しくしてくださいますし、心から信頼していますから――」
そう言われたアリエーラは少し照れた表情で答えた。
「そう思っていただけているなんて嬉しいですね!」
そして、フラウディアはベッドの傍らに座ると、アリエーラは彼女にお茶を差し出した。
「あっ、ありがとうございます!」
アリエーラはにこにことしていた。彼女もお茶を一口含むと、話を切り出した。
「それで、どうされたのですか?」
だが、フラウディアはモジモジとしたままなかなか話を切り出さない。
その様子に、アリエーラはただただにこにこと見守っているだけである――
この人のことだから、やっぱり見透かされている!?
そう思ったフラウディア、意を決して話した。
「わっ、私、本当はスレアさんのことが――」
フラウディアは顔を真っ赤にしていた。それに対してアリエーラはただ頷いているだけだった。
「ご存じの通り、私はスレアさんに誘惑魔法なんてかけてしまいましたけど、スレアさんは――」
アリエーラは言った。
「スレアさん、フラウディアさんのこと認めてくださいましたし、抱っこまでしてくださいましたからね――」
フラウディアは顔を真っ赤にしながらアリエーラの話を訊いていた。
「それで……自分なんかがスレアさんと釣り合うのか心配しておられると――」
確かに、自分は元々女性ではないのだし、それに夢魔妖女として恐れられ、そして穢れた存在でもある。
そう言うこともあって、今回アリエーラに話をした経緯も自分は身を引く覚悟であることを告げたフラウディアだった。
だが……それはそれでフラウディアもつらかった、だから誰かに自分の気持ちを知ってもらいたかったことを話したのだった。
「でも、元々女じゃないことなんて、スレアさんなら気にしないんじゃないでしょうか?
だって、”夢魔妖女フラウディア”のことを知っているぐらいでしたからね、
ディスタート本土軍のエリートっていうことならそれぐらい、彼なら理解しているハズです。
それに、”夢魔妖女フラウディア”を知っているぐらいですから――フラウディアさんがたとえどんなことをしてきた人だろうと、
これからのあなたを信じるつもりで言ったことなんじゃないかと思いますよ?
だったら――その気持ちを大切にしてみるのもいいんじゃないですかね?」
そっ、そうかな――フラウディアは悩んでいた。
「もちろん、それでどうしたいかはフラウディアさん次第ですけれどもね。
なんでしたらスレアさんに直接伝えないまでも、何それとなくフラウディアさんのことを話してみましょうか?」
そっ、それは! フラウディアは顔を真っ赤にしていた。
「うふふっ、冗談です♪
でも、一応、どんな女性が好きなのか聞いてみるぐらいならいいかもしれませんね――」
それは――フラウディアとしても気になるところだった。