”天の裁きシステム”の開発については当初、
クラウディアスを防衛するための支援システムであるレーザー・キャノンのようなものを発射するための機構を流用したものでしかなかった。
そのため、出力数的にもたかが知れており、世界を灼き尽くす火と言われてもおかしくはないような代物とは到底呼べるものではなかった。
そんな中、クラウディアスを侵攻してくるディスタード本土軍の行動が嫌でも目につくリファリウスやリリアリスたち、
内部から連中の侵攻を様々に妨害するがそれでも完全とはいかず、連中は抜け道を幾重にも張り巡らせており、
クラウディアス側で何度か対処することはあってもそのクラウディアス側での負担が日増しに重なっていくことは最重要課題となっていった。
ずいぶん前のアクアレア・ゲートでの戦いといい、
それからも帝国軍は攻撃しないまでもクラウディアス近海までこっそりとやってきては偵察に来ていたりなど、
あからさまに軍事行為・敵意のある行動を繰り返し行っていた。
そんな状況にもはや我慢ならないリファリウスやリリアリス、
開発中のフィールド・システムに天の裁きシステムを搭載することを決断したのだった。
最初は本土軍を葬り去るべく、ヒュウガと共に躍起になって開発を続けていた。
ところが、ある程度までできるとそれまでのテンションとは一変し、完成時には声すらもあげることはなかった。
葛藤することはあった、なんでこんな悪魔のような兵器を作っているのだろうかと。
クラウディアスのため? いや、こんなの、そもそもただの自己満足じゃないか、
そんな満足のために国を、世界を滅ぼしかねない兵器を作るのだろうか、どうかしている――
この手のものを開発する発明者に付きまとう葛藤、リファリウスやリリアリスもやっぱり抱いていた。
しかし、だからと言って開発の手を止めたり緩めたりすることはなかった、
その分だけクラウディアスを守る力を緩めてしまうことにもなるし、作業が止まれば完成も遅れてしまう、本末転倒だ。
完成してからも大いに悩み続けるリリアリス、この兵器、使うべきか即封じるべきか。
当然、抑止力という点については非常に効果的であることは間違いない、それだけは何があっても確かである。
だが、だからと言って使用するのは危険すぎるし、存在し続けるのもいろいろな問題を生み出してしまう。
何と言っても近隣諸国に迷惑をかけることは間違いない。
クラウディアスは危ない国だ、国交を正常化したばかりのクラウディアスにとってはそう思われてしまうのは避けたいことである。
そのような中、ディスタード軍が再びクラウディアスに侵攻をしようという動きが見えることとなる。
こうなっては仕方がない、クラウディアスの重鎮たちが動くことを決断した。
そして、ディスタード軍に対して牽制するため、”天の裁き”を2発放つということで各国との調整が付いたのである。
当然、”天の裁き”なんていう神話に登場するものを用いるなんて言うのは眉唾物、無理があった。
そのため、外向きにはただの超大型レーザー・キャノンというだけの説明をしたのである。
だが――その超大型レーザー・キャノンと言っても当然たかが知れているため、
各国はなんでそれを使って帝国をけん制するためにわざわざ他国に呼びかける必要があるのだろうか、
そう思われていた節があったようだ。
しかし、結果は火を見るよりも明らかで、それこそとんでもない兵器だったことは明白である。
天の裁きを使用するにあたり葛藤を続けていたリリアリス、ずっと悩みぬいていた。
だが、そんな葛藤する彼女に対して声をかけたのは、やっぱり友だった。
「リリアさん――」
「あら、どうしたの、アリ――」
作った側の責任として手を下すことを考えていたリリアリス、その決断ができないでいたのである。
そこへアリエーラが――
「だったらこうしましょう、私が天の裁きを発射します、
リリアさんはクラウディアスのために作ってくださいました! 使うのは私の役割、それなら――」
リリアリスは訴えるように答えた。
「ダメよ! 自分で手を下すのならいい、だけど――それを自分以外が使うだなんて、
ましてやアリにはこれ以上迷惑をかけられない!」
だが、アリエーラは――
「あら? 私は別に迷惑だと思ってなんかいませんよ?
しいて言えば――いつも自分一人ですべてを抱え込んでいてずっと悩んでいるあなたの姿を見ているほうが私にとってはつらいことですね――」
彼女はにっこりと微笑んでいた。そう言われたリリアリスもさすがにかなわなかった。
しかし、使う側の負担をアリエーラ1人に押し付けるのは忍びないと思ったリリアリス、
最初の第1波は自分で打つことを志願したのだけれども、アリエーラは最初に手を下す方をどうしても譲らなかった。
「作る側がここまで葛藤しているのですから、私は使う側の責任者としての咎を背負います。
そしたら――リリアさんもついてきてくださいますよね?」
アリエーラはそうにっこりと返したのである。もはやアリエーラにはかなわなかった。
それにしてもなんて美しい友情なのだろう――
あの後、クラウディアス側としては戦後処理に追われていた。
何と言っても一番の焦点は”天の裁き問題”になりそうだが各国はそれを黙認し、
最初からそんな話などなかったことにしていたようだ。
それが何故なのかというと、
そもそもクラウディアスという国は召喚獣によって外敵を排除してきた歴史があり、それが今でも根強く残っていた。
今回も召喚獣による御業であり、外敵を排除するために力を行使しただけということでいつものこと程度でしかとらえていなかったのである。
そして、それが今回”天の裁きのようなもの”だったことについては帝国軍は罰が当たったのだろう程度にしかとらえられておらず、
神話に登場したような”天の裁き”が発生したのは召喚獣の御業かつ、
ディスタードという罰当たりが相手だったために”たまたま神話レベルのそれが発生した”ということで結論されていたようである。
そして、ほとぼりが冷めた頃にグラエスタから逃亡したレンドワールらがこっそりと帰ってくるところを見逃さなかったリリアリスたち……
抜け目のなさに定評がある女リリアリスは、そのレンドワールらを相手に早々に裁判を決行、
予定通り判例をもとに裁判を進めることになった。
レンドワールらは逃げた理由としてディスタードの放った刺客であるラミアン・ナーガがグラエスタに現れたことを訴えるが、
ディスタードはアクアレアには一部上陸しているがそれ以上は侵入を許していないことを確かめたアクアレアの議員や底辺カーストのグラエスタの議員が訴えると、
レンドワールらの訴えについては証拠能力がないと判断され、彼らの言い分は棄却された。
確かにディスタードはアクアレアから出ていない――紛れもない事実である。
そしてレンドワールらについては判例の通りクラウディアスの職務への責任の放棄にあたるとみなされ、直ちに議員資格をはく奪された。
以降、彼らに対する風当たりはこれまで以上に強くなっていくことは明白である。
だが、それはあくまでクラウディアスの下ではすべての国民は平等にあれという意思の下に成り立つことを実現させただけに過ぎない。