6人が輸送船から降りると、リリアリスはスマートフォンを見ていた。
「準備完了みたいね、そうと決まったらさっさとディスタード軍を追い払うことにしよっか。」
すると、リリアリスはスマートフォンを操作していた。
「追い払うって、あれだけの艦隊をどうやって追い払うんだ?」
ティレックスはそう訊くと、リリアリスはいつになくマジメな顔をしたまま海を見ていた。
「いいから見てて――」
例の一室にて、アリエーラたちはリリアリスからの合図が来たことを確認していた。
「……とうとうこの時が来てしまいましたね。
ですが、こうなっては致し方ありませんか――」
アリエーラはどことなく辛そうな面持ちで言った。
「何が始まるのかしら――」
先んじてシステム・ルームに戻っていたフロレンティーナが固唾をのんで見守っていた。
「こういう連中は一度痛い目を見なきゃわからないのかもしれないし、仕方がないのかも――」
ラトラがそう言うとヒュウガはため息をついていた。
「てか、あいつらそもそも一度や二度とかそういうレベルの話じゃあないんだけれどもな。
だから最悪死ぬまでわからない可能性もあるぞ――」
死ぬまで――もちろん、こういうシステムを作った裏についてはそういう背景もあった。
とにかく、そんな連中には土足で足を踏み入れてほしくないのである。
「そうですね――ですが、願わくばこれでクラウディアスを侵略しようとするのをやめてもらえるというのなら――
みなさん、やりましょう!」
アリエーラは決断すると、ヒュウガは赤い非常スイッチのようなものを彼女の目の前に差し出した。
「これで”天の裁き”が降される、あとはあんたの気持ち次第だ――」
アリエーラはラミキュリアに改めて状態について確認した。
「承知いたしました。
座標セット確認、座標上には敵艦の姿はありません。
誤差極小補正完了済、エネルギー充填32%完了済、対ショック・対閃光シールド展開済、
各種フィールド・システム共にクリアにリリアさん側の準備もすべて完了、いつでも発射できる状態です――」
それを聞いたアリエーラ、2度深呼吸をすると覚悟を決めた。
「わかりました、では、参ります――すべてはクラウディアスのために――」
アリエーラは非常スイッチを力強く推した!
「来たわ! みんな見て!」
リリアリスは東の海の方向を指さすと、6人はその様を見届けていた。
「なんだ!? 魔力場が乱れる!?」
スレアはすぐに感じ取った。
「おいおい、まさか――」
ティレックス、ユーシェリア、スレア、フラウディアは海の向こうで何やらとんでもないものが来る予感がしていた。
「これから私たちがしようとしていること、ちゃんとその目に焼き付けておくのよ。
そして、こんなことは二度としない、二度とさせないようにするの、みんなにもきちんと覚えておいてほしいのよ。」
すると、とあるクラウディアスの接続水域において、天から一筋の光が降りてきたのである。
そして、その光の筋を中心に円柱状に光が発生すると――
「さあ、来るわよみんな――」
中心の光の筋から突然強烈な光が発生し、次の瞬間――先ほどの円柱の範囲内のところに激しい光が降り注いだ!
「あっ、あれはまさか、”天の裁き”か!?」
スレアは驚いていた。それに対してティレックスも反応した。
「”天の裁き”――エンブリア創世神話に伝わる、
地上にあるありとあらゆるものに裁きを降す神の力ってやつか――」
そう、クラウディアス・フィールド・システムの力を利用し、リリアリスはそれを再現させたのである。
まさしく兵器そのものであるが、やはり使用に抵抗を感じているあたり、使わずに済めばよかったのかもしれない。
だが、相手はあのディスタード本土軍、クラウディアスをいつも脅かす連中である以上は背に腹は代えられない。
そして座標上には誰もいないということからもわかる通り、今回のはまさに脅しである。
クラウディアスを攻め入ればこうなる、そういうことを知ら締めさせるために使用したのである。
「さて、次、第2波行くわよ――」
リリアリスは沈んだ顔をしながらそう言うと他の5人は驚いた、第2ってもう1回打つのか!?
再び例の一室にて――沈黙が流れている中でラミキュリアは冷静に作業をしつつ話をした。
「解析が完了しました。敵艦隊の損傷はないとされています。
同時に、敵艦隊の数隻がクラウディアスより離れて行っている状況が見えますが、全部ではありませんね――」
とはいえ、それに対して何人かは安堵の表情を浮かべていた。
「にしても、32%の出力であの威力か、100%は絶対に使ったらいけないレベルだな――」
「それに今回は海上なのでまだよかった――と言うには語弊がありますが、
それでもあれを地上でやっていたら間違いなく世界が滅んでいるレベルです、間違ってもそれだけはしたくないですね――」
ヒュウガとアリエーラはそれぞれそう言っていた。それだけに非常に恐ろしい兵器であることは確実だった。
「一応、アップデートで使用できないように使用を封印する用意もすでに準備してある、
もともとこういうことをするために作りたかったわけでもないからな――」
ヒュウガはそう説明した、あくまでディスタードに対する抑止力のためだけに作ったものである、
破壊力があるのは当然だが攻撃用に使うわけではない。
そして……アリエーラは頷いた。
「さて、立て続けに第2波の準備に取り掛かりましょう、
第1波だけでは敵も単なる脅しだと思って甘く見てしまう可能性がありますからね――」
ラミキュリアは頷いた。
「承知いたしました。それでは座標を再設定します。GLRビット検索中――」
そんな中、リリアリスはスマートフォンで何かを操作していた、それは――
「リリアさん、さっきの輸送船が動いているんだけど、確か誰もいないハズだよな?」
リリアリスは頷いた。
「そうよ、いないわよ。
あの輸送船はゲートでちょっとした波を発生させて動かしているだけだからね。」
そうなんだ、ティレックスはそう思った。
「よしよし、ちょうど残っているディスタード艦の中央当たりまで行ったようね、カワイソウだけど――まあいっか。」
何が起こるのだろうか、5人は固唾をのんで見守っていた。
「さてと、エネルギー出力は52%、座標はちゃんとGLRにセットしてあるわね――」
GLRといえば、まさか――
「God Lightning Rod……」
ティレックスは嫌な予感がしていた。
「アリが決断したぐらいだから今度は私が裁きを降す番ね。」
すると、リリアリスはその場にスマートフォンを置いた。
画面には赤いスイッチのようなものがあった、つまり――
「……みんな、何も言わないで見ていて頂戴ね――」
リリアリスはそう言うと5人は覚悟していた。そして――リリアリスはスイッチを静かに押した。
すると、先ほどと同じようにあの輸送船の上にあるGLRビット上に光が現れると、
今度は”天の裁き”がその輸送船の船体を貫き、それと同時に大爆発した!
「うおっ! マジかよっ!」
ティレックスをはじめ、その場にいた全員は海側からやってくる強風――いや、爆風にさらされていた。
「流石ね、こっちはゲートによる対ショック・対閃光シールドで守られているハズなのに――
これだけのパワーがあふれてくるってことは外はもっと大変なことになっているかもしれないわ――」
もはや想像を絶するエネルギーがディスタード本土軍を襲っている状況なのだろう、5人はそう察した。
「これは二度と使うべき力ではないな――」
スレアは天の裁きを見ながらそう言った。
「ですが――それを使わせたディスタード軍も相当ひどいことを行っている事実――正直、何とも言えませんね――」
「まあ、そうだよね、これに懲りてディスタード軍も諦めてくれるといいんだけどね――」
フラウディアとユーシェリアはそれぞれそう言った。
「それもそうなんだけれども――僕としてはこんなものが作れるリリアさんのほうがすごいと思うよ――」
「確かに――あんたの頭、一体どうなっているんだ?」
ラシルとティレックスはそれぞれ不思議そうにそう言うと、当の本人は――
「ま、因果応報だと思って諦めてもらうしかないね――」
海を見ながらそう言った。
今回の裁きに対しては流石にビビったのか、本土軍の艦隊は一隻残らず撤収していった。