フラウディアはスレアの元へと駆け寄っていった。
「スレアさん?」
「うっ……ここはどこだ――俺はどうしたんだろうか――」
スレアは頭を両手で抱えていた。そんなスレアのもとにフラウディアは優しく話しかけていた。
「すみません、スレアさんを助けるためとはいえ、
スレアさんには強めの誘惑魔法をかけてしまいました。
最初は芝居のためにリリア姉様と戦わせましたし、
その後はディスタード兵を拘束させるためにエステリトスさんに”呪縛の息吹”を使わせました――」
目の前にいるのはフラウディア――そうだ、思い出した、スレアは今の状態に気が付いた。
「フラウディアさん、本当に、本当に悪かった! この通りだ!」
スレアはその場で正座し、両手をついて頭を下げていた。それに対してフラウディアは――
「スレアさん、その件はもういいんですよ、私が夢魔妖女フラウディアであるのは事実ですから――」
彼女もその場に正座して座り込み、スレアに手を差し伸べてそう言った。
それに対してスレアは、
「そんな――だって、フラウディアさんはクラウディアスを守った人、今のこの状況が物語って――」
ということは、フラウディアが自分にさせたことは少なくとも覚えているというわけか。
スレアはそう言うと、フラウディアは首を横に振りつつも、にっこりとした笑顔で答えた。
「スレアさんは今回のことでちゃんと私のことをわかってくださいました。
ですが――私が過去にしでかしたことに対し、それでも批判する人はどうしても存在します。
かつてのスレアさんがまさにそうでしたよね?」
そ、それは――スレアは何とも言えなかった。フラウディアはさらに続けた。
「ですから、今度はその夢魔妖女フラウディアが今はどういう存在なのか、
この夢魔妖女フラウディアの姿を戒めとし、今の私として生きていこうと決めました――」
スレアは背筋を伸ばして答えた。
「フラウディアさん――そうか、やっぱり俺はフラウディアさんが生まれ変わろうとするところを邪魔してしまったのか――」
フラウディアはそういうことではないと否定しつつ何かを言おうとしたが、スレアはそのまま話を続けた。
「そう、俺はフラウディアさんが生まれ変わろうとするところを邪魔してしまったんだ、
だから、今度はその償いとしてフラウディアさんが生まれ変わろうとするのを手伝えればいいなと思うんだけど、どうだろうか――」
そんなスレアの申し出にフラウディアは驚いていた。
「フラウディアさんにあんなことを言ってしまって、本当にどうしていいかわからなくなってしまったんだ。
リリアリスさんと一緒に居て、彼女とつながりがある以上はフラウディアさんもクラウディアスに滞在することは確実、
となると、俺の存在はフラウディアさんにとっては苦しいものでしかない。
だから俺はクラウディアスに出ることにしたんだ」
スレアはさらに話を続けた。
「リオメイラ――ディスタード軍が滅ぼした国に行ってみたんだが、
そこで俺が目の当たりにしたのは、その環境でもいつもどおり生きている人々の姿だった。
そう、帝国の手によって王国は滅びたんだが、国自体は生きていたんだ。
フラウディアさんは別にそんなに悪い人間ではなかったことが分かったんだ。
そんなフラウディアさんに――俺は本当に申し訳ないことを言ってしまった。
だから――そんなフラウディアさんに償いができればと――」
すると、フラウディアはスレアを抱きしめた。
スレアはドキッとした、フラウディアの服装は18禁のピンクのセーラー服のまま――スレアは顔が真っ赤になっていた。
「スレアさん――ありがとう――」
フラウディアは涙を流しながら言うと、スレアは我に返り、フラウディアを抱きしめようとした――のだが、
やはり布の面積が少ない服装、これはどうするべきか悩んでいた。
それを察したフラウディアは顔を真っ赤にしつつ慌てて服装をルーティスのセーラー服姿へとチェンジした。
他にチェンジすべき服があるハズだがとっさのことだったのか、選ぶ服を考えていなかったようだ。
「あらあら♪ まったく、お熱いところを見せつけてくれるじゃないのよ。」
リリアリスは2人の様子に得意げに訊くと、2人は慌てて距離をとった。
ディスタード軍の輸送船から引き揚げることになったクラウディアス勢。
「フラウディアさん、行こうか」
スレアは立ち上がってフラウディアに手を差し伸べながら優しく言うと、
フラウディアは笑顔で「うん!」と言った。しかし――
「! どうしたんだ! フラウディアさん!」
フラウディアは急にその場で腰が抜けてしまい、立ち上がることができないでいた。
「ごっ、ごめんなさい、夢魔妖女だなんて久しぶりだったからすごく緊張しちゃって――
それに誘惑魔法を使うときも緊張しちゃいました――」
フラウディアは笑顔でごまかしているが下半身はガクガク震えていた。
「あらあら……そっか。
確かに、前回使った時と違って状況も状況だし、
効果もあれから随分と強力になっているハズだからそういうものかもしれないわね。
しかも相手はスレア、一応仲間になるわけだしね――」
そう言いながらリリアリスはフラウディアを連れて行くために近付こうとしたが、
それよりも先にスレアが動いた。
「そっか、俺のために無茶してくれたんだもんな……それに引き換え、何をやっているんだ俺は――。
まあいい、とりあえずしっかり捕まってくれよな――」
スレアはおもむろに、フラウディアの左脇から背中に右腕を回して上半身を支え、
左腕を両膝の下に入れて脚を支えると、フラウディアを抱き上げた。
そう、それはまさに――
「俺、お姫様抱っこなんて初めてするな。
とはいえ、しょっちゅうやっている人が近くにいるもんだからやり方だけなら知っているんだが――」
スレアとフラウディアはお互いに顔を真っ赤にしていた。
「す、スレアさん!?」
「だっ、だって、いつまでもここにいるわけにもいかないしな、だろ?」
スレアは適当に繕っているがすごく動揺していた。
「それはルーティスのセーラー服だよな? すごい似合ってんな――」
そう言ったスレアはさらに顔を真っ赤にしていた。
言われた方のフラウディアもさらに顔を真っ赤にしていた。
「とっ、とにかくさっさと行くぞ! 落ちないように気をつけろよな!」
俺は何を言っているんだと思いつつ、スレアは若干ムキになりながらもそう言うと、
フラウディアは言われたとおりにスレアに身体をぴったりと寄せ、両手をスレアの首に回して身体を安定させていた。
彼女は顔を真っ赤にしながらも嬉しそうだった。
2人はそのまま輸送船を後にしたが、その様をしっかりと見ていた残りの人は――
「若いっていいわね! まさに青春よね!
ねえラシル、あんたもエミーリアを嫁にもらう際はあれぐらいできるよう練習しときなさいよ。」
リリアリスはラシルにそう言うと、
「だから! どうしてそうなるんですか!」
当然のリアクションが返ってきた。一方で、距離がそれなりに近いこちらの2人組は――
「わぁー♪ お姫様抱っこいいなー♪
ねえティレックス! ティレックスも今から練習しといたほうがいいよ♪
だから私で練習しようよー♪」
「なんでだよ」
楽しそうにしているユーシェリアを他所にティレックスは頭を抱えていた。
「いいじゃないの、してやんなさいよ。」
「絶対にヤダ」
「私がやり方をちゃんと教えてあげるから。」
「要りません」
「そうだよー♪ 遠慮しないで教えてもらいなよー♪」
「いえ、遠慮しておきます」
「ティレックスのドケチ」
「ドケチで結構」
「なるほど、ヒー様の言う通り、即行で鼻血を吹き出すわけね。」
「そうです、安定のドーテー男です」
ティレックスは完全に開き直っていた。