時は戻り、敵の輸送船の上で繰り広げられた壮大な茶番劇の後、
予定通りにクラウディアス・フィールド・システムが復旧し、
例のシステム・ルームで元の状態に戻ったことを確認していたアリエーラ、
「手はず通りですね――」
彼女はため息をついていた。それに対してシャナンは言う。
「まあ……それでも今までシステムなしでやってきたわけですから、
システム側に障害があってもなんとかやっていけますよ」
確かに、言われてみればそれもそうだった。
ここは騎士の国でもある……システムに何かあっても人の手で守ることができることも必要である。
「頼もしいですね。では、次の準備に取り掛かりましょうか――」
アリエーラはそう言うと、ヒュウガとラミキュリア、
そしてラトラの3人はフィールド・システムを操作していた。
「座標は艦のいない接続水域にセットしてください!」
アリエーラの言う通りにヒュウガはセットした。
「でも、万が一、敵が動くようなことがあったらその時はゴメンってことで――」
ヒュウガがそう言うとアリエーラは「その場合はやむを得ませんね――」と呟いた。
「出力32%、セット完了です!」
ラトラはそう言ってラミキュリアに対して頷くと、ラミキュリアも頷いた。
「座標セット確認、誤差極小、エネルギー充填……32%、OK、対ショック・対閃光シールド展開、
各種フィールド・システム共にクリア、すべて異常なしです」
それに対してアリエーラが頷いた。
「了解です、あとはリリアさんの合図を待つだけですね――」
そして、リリアリスのほうは――
「今回の作戦も対クラウディアス侵攻参謀エルノウズの作戦よね?」
ネルザールに向かって言った。
「なっ、なんだと、貴様――一体何者だ――」
ネルザールは苦しそうな表情でそう言った。
「ま、んなことどうでもいいか。とにかく、面倒だからさっさと片付けようかしらね。」
リリアリスはヒュウガばりにそう言って合図すると、
背後で控えていたシャナンたちをはじめとするクラウディアス兵たちが一斉にやってきた。
「おじ様、ラシル、それからヴァドス、後はよろしくお願いね。」
それに対してシャナンは「承知いたしました」と言いつつラシルとヴァドスと共同し、
兵隊たちを使って輸送船内のディスタード兵を全員捕えていた。
「とりあえず、これでよしっと――」
リリアリスは何か機械のようなものを輸送船の甲板に設置した。
「リリアさん? それは?」
ティレックスは訊いた。
「あれ? ただのGLRビットよ、God Lightning Rodの略。ん? あれ? Greatのほうだったっけ?」
なんだそれは――訳が分からなかったが、
リリアリスは「とりあえず放っておけばいいよ。」と言う、放っておいていいのか。
そして、ティレックスは改めてリリアリスに訊いた。
「訊くまでもないけれども、今回も茶番だよな?」
「訊くまでもないわね。」
リリアリスは得意げに答えると、ティレックスはさらに話を続けた。
「だけど――ちょっとやりすぎじゃないか? 何というか、雑というか――」
リリアリスは呆れた態度で答えた。
「あーぁ、そんなこと言っていいんだぁー? 私知ーらない♪」
え!? どういうこと!? ティレックスは困惑していると、別の人からの突っ込みが――
「雑で悪かったわね! どーせ私が考える作戦は雑ですよーだ!」
そう言ったのはユーシェリアだった、彼女は不機嫌全開でそう言った。
「え!? そうなのか!? ユーシィが考えたのか!?」
ティレックスは焦っていた。
「雑な作戦ですけどね!」
「わ、悪かったよ――」
「ふーんだ!」
「本当にごめんってば!」
「別にー?」
「悪かったって!」
「怒ってなんかないもーん♪」
もちろん、ユーシェリアは後半、怒っているフリをしてティレックスをブンブン振り回していた。
リリアリスはそのままラシルの元に行って話をしていた。
「全員捕まえた?」
「はい! 終わりました! 今はシャナンさんとヴァドスが対応しているところです!
それにしても、まさかフラウディアさんのアレが芝居だったとは――まったくわかりませんでした」
「私も迫真の演技だったでしょ。」
「確かに――スレア相手にあんな本気のような戦い見せられるとわからないですね――」
「えっ、いや……あれは本気のようなじゃなくて、本当に本気でやっているからね、あれには敵も完全に騙されていたみたいね。
そもそも私にとっては”たかがスレア”だからね、死ぬ気でかかってくるんだったら望むところよ。」
マジか――いや、ラシルは考え直した、
スレアではこのお姉さん相手にどう頑張っても敵わない。
第一、例の万人斬り・万人狩り・鬼人剣の3人が束になっても死なずにボコボコにされた結末を迎えているのに、
そんなの相手に単騎で挑むこと自体がほぼ挑戦という名の自殺行為に等しい――
ゆえに、わざわざ演技である必要がないのである、よくできた話だ。
リリアリスは話を続けた。
「なんとかしてスレアの召喚技を使って敵兵を拘束しようと思ってね、
エステリトスの冷気の技だから拘束力も強いしさ。
ただ、それをするのなら敵の位置を気にしないとダメだから、
スレアの技の有効射程や敵のいる場所とかいろいろと整えたうえで発動させた結果がこれなワケよ。
私の技で拘束するのもいいんだけれども、
敵に絶対に怪しまれないという意味では敵に捕らわれているスレアに華を持たせた方が一番効率がいいと思ってね。」
スレアとの乱闘もすべては計算してのことだった、ただ単にチャンバラを演じていただけではなかったようである。
「あれ? そういえばさっき、グラエスタがやばいと言っていたハズでは!?」
ラシルは気が付いた、でも――
「確かにやばいわね、グラエスタの貴族共が一斉にいなくなってしまったかもしれないわね。
ま、でも、私としてはその方がありがたいし――それはそれで別にいいんじゃないの?」
「だって、フロレンティーナさんが――」
そう言ったラシルは気が付いた……彼は気づくのが遅い。
「まさか、あの時の話ってつまり――」
「ま、でも、勝手にクラウディアスから出ていく分には私も強制しないし。
当然、たとえ戻ってきたとしても、今回逃げたことを激しく追及していくからね。
昔もクラウディアスに危機が迫った時にクラウディアスから逃げた貴族がいたっていう記録が山ほどあるみたいだけど、
そいつらはいずれも反逆者として厳しく罰せられたみたいだから、その判例に従って今回も罰していく方針にするわね。」
この人、怖い――ラシルはそんなリリアリスに対してビビっていた。
「ラシル、女は怖いのよ、ちゃんと覚えておきなさいね♪」
「はい――」
もはやそう返事をするほかない、どう考えてもこのおねーさん、やばすぎるでしょ……。