フロレンティーナに変装術を教え始めてから3日後のこと、
リリアリスらは会議室に議員たちを呼び出して会議を始めていた。
「結局、ディスタードに領海まで侵されてしまったではないか!」
と、レンドワールの隣に座っている貴族議員の一人が怒りながらそう叫んでいた。
レンドワールも腕を組みつつ、大きな態度で話を訊いていた。
「そうね、そのほうが効率的でしょ?
なんたって召喚王国なんだからね、海で戦うよりもホームで戦うほうが私らにとって有利、
前回の戦いでもこれまでの歴史でもそれはある程度立証されているようなもんでしょ?」
と、リリアリスは得意げに言い返した。
どこからそんな余裕が――貴族議員だけでなく、何名かが呆れながらリリアリスの話を訊いていた。
とはいえ、確かに彼女の言う通りではある。
「ふん、まあいい――それでも勝算はある、ということだな?
現に我々が立案していたハズのクラウディアス有事法およびアクアレア・ゲートでの有事法についてもことごとく闇に葬ってきているのだ、
つまりはそれでもディスタードには勝てる――そう受け止めてもよいということだな?」
レンドワールは相変わらずデカイ態度をしたままそう訊いた。
すると、リリアリスはここだと考え、話をし始めた。
「ええ、それは期待しといてね。
でも、その中でもちょっとクセモノと言えるやつがいることをつかんだから、そいつらに注意してもらいたいのよね。
一応、こっちで何とかするにはするんだけれども、クセモノだって話だから念のために注意だけはしておいて。」
そう言いつつリリアリスは端末につながっているプロジェクターからその画像を映し出した――
「こっ、これは何なのだ!?」
レンドワールをはじめとする大勢の者がその画像を見て驚いていた、それは――
「これはディスタード軍の生物兵器・エリューネルっていうやつよ。
人体にエンチャント技術を転用することによってこんな異形の魔物をも生み出せるのがディスタード軍の技術力ってところね。
もはや悪魔の所業そのものといっても過言ではないけれども、それだけにほとんどモンスターみたいな敵だから注意してほしいのよね。」
そう言いながらリリアリスはさらにエリューネルの特徴を言い並べていた。
でも待てよ、確か別の話にて、エリューネルってリファリウスが――
「次はこいつね、マジェーラって言うんだけれども――」
と、次の画像を見せたリリアリス。そいつは普通の人間のようだが――
「こう見えても侮っちゃダメ。
こう見えても生物兵器、さっきの異形の魔物のようなものばかりと思ったら大間違いで、
案外こういうのがやばいって可能性もあるから警戒しておくべきね。」
いや、じゃなくて、こいつも死んでるし……詳細はやっぱり別の話にて。
「そして3体目だけど、多分、こいつが一番厄介ね――」
いよいよ例の生物を出して見せた、そいつはおぞましく艶やかな装いの妖獣ラミアの如き魔物だった。
「こいつは”ラミアン・ナーガ”、この3体の生物兵器の中では屈指の実力者と言えるやつね。
この妖獣の手にかかった暁には――想像を絶するわねぇ……」
リリアリスは話を続けた。
「ま、とりあえずはこんなところよ。何か聞きたいことでもあるかしら?
なければ次の話題に進もうと思うんだけれども、次の話はグラエスタ側には関係のない話になるわね。」
聞きたいことは山々だったが誰も聞き返さなかった。
するとレンドワールは立ち上がりながら言った。
「ふん、バカバカしい。
だがまあいい、やれるというのならやれるのだろう、たとえディスタード軍の生物兵器とやらが相手であろうともな。
一応、忠告だけは受け取っておいてやろう。もういい、帰るぞ――」
他の貴族議員たちも次々と立ち上がりながら退席していった。
貴族議員たちがとても偉そうな態度で会議室から出てきていた。
その様子を見ていたラシルは悩んでいた、彼らは今後についてどう判断をするのだろうか、と。
そんな彼の姿を見たレンドワールは皮肉を言った。
「それにしても――まったく、こんな若造にクラウディアスを委ねなければならんとは――
この国もとうとう落ちるところまで落ちたもんだ」
彼がそう言いながら去るとラシルは眉をひそめていた、何かあったのだろうか。
すると、リリアリスとアリエーラが会議室から出てきて言った。
「やれやれ、貴族共って威張り散らしている割に対したこと考えていないからろくなもんじゃないわね。」
「以前に大勢力を誇っていたローファルさんたちが羨ましかった、そういうことではないでしょうか?」
そこへラシルが何かあったのか訊いた。
「別になんでもないわよ、連中は中身がスカスカだからね。」
そ、そう――ラシルは冷や汗をかいていた。リリアリスは続けた。
「次はアクアレアの話だからグラエスタの貴族議員共を帰したのよ、
見ているだけでも腹立つのに、そんな面を見ながら話さなアカンと思うと余計にムカツクしさ。
一方で平民出の議員たちはまだ残しているわね。」
ま、まだ言ってる……気持ちはよくわかるが――ラシルは冷や汗が止まらなかった。
「じゃあ、これから話を?」
「そうよ、ここからが本題だからね――」
2人の話を遠目で見ていたレンドワールは――
「ふん、せいぜいクラウディアスが滅ばぬ程度に頑張ることだ」
他の貴族議員は話をし始めた。
「しかし――やつらに本当にディスタードを退ける力があるというのか?」
「先のアクアレアでの戦い、非常に強大な力で連中を葬り去ったと聞く、まさに恐るべき力よ――」
「しかし、此度はそれ以上の数と聞く、ディスタードの生物兵器とやら投入されるという話だが――
であれば前回のようにいくとは限らぬぞ?」
レンドワールは頷くと話を締めた。
「連中の力は本物だ、恐らく、此度の作戦についても間違いなくやってくれることだろう。
だが、だからこそつけ入る隙もできよう――
ローファル共に苦汁をなめさせられたあの時の屈辱、今度こそ晴らす時が来るというわけだ!
そうとも、やつらもおらぬし、やつらが去った後のクラウディアスを立て直したのは我らだ!
今度こそ邪魔はさせん! ディスタードを排除した暁には我々の時代が待っているのだ!」
だが、レンドワールのそんな話をよそに、リリアリスは会議の場で今までの話とは別の話をし始めた。
「ったく――本当に腹の立つ連中よね、そう思わない?
言っても、あとちょっとの辛抱なんだけど、そう思うとちょーっとだけ名残惜しいわねぇ――」
リリアリスは悪びれたような様子で話をすると、1人の平民議員がリリアリスに訊いてきた。
「あの、計画はともかく、ディスタード軍には本当に生物兵器なんていうのがいるんですか!?
いえ、いるのはもちろんですが、最初のエリューネルというものはあからさまに――」
あの姿はちょっとショッキングなものだった、
ラミアン・ナーガと比べても明らかに規制の入りそうなおどろおどろしい姿の魔物だったようだ。
それに対してリリアリスは答えた。
「確かよ。もっともエリューネルは既に討伐済、マジェーラも既に死んでいるわね。」
……ああ、やっぱりそうか。なら、なんで紹介を? リリアリスは続けた。
「で、問題のラミアン・ナーガだけど、
こいつは生きているから注意したほうがいいわねぇ、
特にグラエスタの貴族様たちはねぇ♪」
すると、そこへフロレンティーナが前に出ると、その姿へと変貌した! それには周囲の者が非常に驚いていた。
「ウフフっ、それは私のことよぉん♪ ウフフフフ――」
フロレンティーナは得意げに言った、なんと既に変装術をマスターしていたのである。
「ウフフッ、驚いた?」
リリアリスはそう訊いた。会議の場では漏れなく全員が驚き、恐れおののいていた。
「ふふっ、その様子だと、連中に対して使用しても効果がありそうなのは実証されたも同然ってところね。
まあ、そんなわけで――彼女のこれは生物兵器でなくてあくまでただの変身技でしかないから3人目のラミアン・ナーガだけはフェイクね。
ま、そんなわけで、これを使ってあいつらを追い出そうという計画よ。
とにかくラミアン・ナーガは特に危険を念押ししてすり込みには成功したみたいだし、あとは実行に移すだけよ。」
リリアリスも得意げだった、なるほど、すり込み……
つまり、最初にフリである今は亡き生物兵器2体を紹介した後に本命を紹介して――
この女、こんなこと考えるとは相当厄介な女だ。
それに対してフロレンティーナが訊いた。
「でも、こんなんで本当にうまくいくのかしら?」
平民議員たちが口々に話し始めた。
「よくできていますね! 恐れ入りました!」
「流石はリリアリス殿! まさか、このようなことまでできるとは!」
「それならその姿でグラエスタの議員集会場に行ってみてください! 連中はそこにいるハズです!」
なるほど、集会場――フロレンティーナは覚えておくことにした。
「ローファルも大概だったが、レンドワールも対して変わらんしな」
「まあ、連中、態度だけは大きいからなあ、いい薬にはなるんじゃないのか?」
「皮肉にも態度のデカさが仇となったことの顛末だな、いい気味だ」
「ともかく、これでようやくアクアレアにも平和が訪れる……と思ってもいいのだろうか?」
そんな中、唯一の貴族議員たちが言った。
彼らは平民議員寄りの存在で、貴族議員の中でのカーストも底辺である。
いくら貴族議員を追い出すにしても、グラエスタ側の主張を通す存在としては必要枠であるというわけである。
「いずれにせよ、これでリアスティンさんの祈願が達成できるということであれば私共もその案を支持いたします」
「これで忌まわしきローファルのみならず、レンドワールともオサラバだな」
「もし戻ってきたら判例に従って処罰だな。
お誂え向きに判例は山ほどある、さて……連中に相応しい罰はどれか――早速それを吟味するとしよう」
「確かに、リリアリス嬢の言うように目の上のたんこぶがいなくなって清々するが、少々名残惜しくもあるな。
だが、そんな時代も目前に迫っている、クラウディアスの未来は保証されたようなものだ」
レンドワールらは底辺カーストの貴族議員からの恨みのほうが強かったようだ。