エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第4章 夢と希望と現実と絶望と

第85節 大切なものを守るために

 その夜は夕飯を終え、お風呂も終えたリリアリスとアリエーラ、そしてヒュウガの”ネームレス”3人組は話をしていた。
「それにしてもすごいシステムを作りましたね! クラウディアス・フィールド・システムですか!」
 アリエーラは嬉しそうに言うとリリアリスは頷いた。
「クラウディアスの守りをどうしても強化したいからね、 せっかくディスタードっていう技術強国にいるんだからそのぐらいはしないといけないねって思ってさ――」
 それに対してアリエーラは疑問をぶつけた。
「ということはディスタードの技術はもっとすごいんですね―― 例えば今回のフィールド・システムなんかも――」
 リリアリスは首を振った。
「フィールド・システムは私のオリジナル、同じものは2つとないわ。 攻められる側ではなく攻める側のディスタードには必要ないからね、もちろんガレアにもあれは設置してないし。 設計図なんて残してないし、作りもかなり難解なものにしているから同じものを作ろうとするのは困難よ。 もっとも、今回は複製防止のためにそのつもりで作っているからこれで満足よ。」
 それはクラウディアスを守るテクノロジーを漏洩しないため、 そして悪用されないためのリリアリスの考えである。 機械技術のみならず魔法技術も融合して作っている点ではなかなか盗用されにくく、 メカニズムも解明しにくいらしい。
「それにディスタードの特に本土軍は技術最先端国と語っている割にはセキュリティが脆いからな。 というのも、エンブリアには追随があんまりいないから十分だと思っているんだろう、 確かにそれはそうなんだが、そのおかげで俺らは本土軍のデータベースに入り放題だ」
 ヒュウガはそう言った。 アリエーラはディスタード本土軍の情報が何でそんなに簡単に取れたのか気になっていたが、 そう言う背景があったのかと考えるとすぐさま納得した。
「過信は禁物ってやつよね。」
 と、リリアリスは言う、まさにその通りである。

 アリエーラが何やら考えながら口を開けた。
「フィールド……?」
 それにはリリアリスもすぐさま反応した。
「うん、そう。要するにそれよ。 それをヒントにして作ろうと思ったのが今回のクラウディアスのシステムよ。」
 アリエーラは頷き、納得していた。
「あんたらはシンクロしているから意思疎通が取れているかもしんないが、 それでも、俺も言わんとしていることはわかっているつもりだぞ」
 ヒュウガはそう言うとリリアリスは驚いたように言った。
「えっ、やっぱり”フィールド”って言われたら思い当たるものがある?」
「てか、俺も恐らくあんたと一緒で”フィールド”作るんだって言われた時からそれをイメージしてたからな」
 ほう、なるほど――リリアリスは頷くとアリエーラは訊いた。
「では、その”フィールド”が何なのかは――」
 答えを求めていたが、残念ながらヒュウガは答えを持っていなかった。
「そのイメージしたフィールドがなんだったのかまではさっぱりだ。 分かっているのは外界からの影響を一切遮断することや一切干渉しないこと、 このあたりはあんたたちと同じ認識だな」
 確かに――リリアリスとアリエーラの2人はそう言われるとますます心当たりがあり、悩んでいた。
「だけど不思議ですね、こうして”ネームレス”同士で同じイメージを持ち合わせているだなんて、 やっぱり私たち、何かあるんだと思うんです、そうでなければ――」
 アリエーラが言うとリリアリスも言った。
「そうね、やっぱり何かあるのよ私たちって。 私とアリなんて初対面だと思っていたのにずいぶん前から面識があるような感じだしさ、 ヒー様ともなんだか妙な因縁があるようにも感じるし。 つまり、私らって何故か記憶がないだけでどこかで知り合っているのかもしれないわね。」
 ヒュウガは頷いた。
「確かに、そうでないと辻褄が合わない現象が起きているな。 それにフィールド・システムみたいな、 エンブリアには明らかなオーバー・テクノロジーのものが作れている点もかなり気になる―― 俺らとしてはオーバー・テクノロジーとは思ってないんだけどその違和感もな――」
 確かにその通り――リリアリスも考えていた。
「オーバー・テクノロジーか、いいわねソレ。 クラウディアスって言ったら元々魔法技術による強国だそうだから、 この際クラウディアスはテクノロジー先進国にしちゃいましょうよ、ね、いいと思わない?」
 リリアリスが言うとヒュウガは苦言を呈した。
「それはいいんだが、技術の進歩には失うものが付きものなんだぞ、それはいいのか?」
 リリアリスは頷いた。
「もちろん構わないわよ、命が失われるぐらいならね。だから私はフィールドを作ったのよ。 それに、どんなに技術が進歩しても最も大切なものは絶対に失われないしさ、それなら私は十分よ。」
 最も大切なものは絶対に失われない――確かにその通りだった、逆に失うどころか守るための技術なのだから。

 翌朝――クラウディアス・フィールド・システムの動作は良好で、 システムが見せるディスタード軍の状況はなかなかのものだった。
「潜水艦は5隻のうち、2隻が領海侵犯ね。 それ以外は接続水域までに踏みとどまっているけれども、艦の数がだいぶ多くなっているわね。」
 それにはラシルも驚いていた。
「大丈夫なんですかこれ!? 何とかしないと――」
 リリアリスは頷いた。
「今はどの艦も攻撃を仕掛けてくるような感じではなさそうね。 当然、ここまで近づいているんだからこっちが気が付いていることも把握しているでしょうよ。 前回の反省もあるからちょっと距離を置いて警戒しているのかしらね。」
 リリアリスの表情は余裕で得意げだった。 そんな彼女に対してラシルはどこからそんな余裕が出てくるんだと思って悩んでいた。
「さてと、アクアレアに結集している兵隊の準備も整ったことだし、あとはディスタード側からどう出てくるか次第ね。」
 それに対してラシルが訊いた。
「でも、向こうは領海侵犯、こちらから攻められないのでしょうか?」
 リリアリスは頷いた。
「残念ながら今回は無理ね。 説明は後でするけれども、何はともあれ、敵次第でどうするかで考えるしかなさそうね――」
 どういうわけかリリアリスはいつになく悩んでいた。

 そして、戦闘をするメンバーはアクアレアへと一堂に会していた。
「アリはどう? インストール終わった?」
「はい、終わりましたよ! これでクラウディアス・フィールド・システムからの映像が見れるんですよね!?」
 アリエーラはリリアリスに言われた通りスマートフォンにそのアプリを入れていた。他の何名かもその通りにしていた。
「世の中、便利になったもんだな――」
 ティレックスはその様子を見ながら呆気に取られていた。
「そうだね! その分クラウディアスも守りやすくなるね!」
 と、ユーシェリアは元気よく言った。そう、大切なものを守るため―― たとえ便利になったことで失われたものがあったとしても、 大切なものを守るためならそれは仕方のないこと――ティレックスはそう思っていた。
 そう、たとえどんなことがあってもディスタード軍は撃破すべきということである。