エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第4章 夢と希望と現実と絶望と

第83節 技術の粋

 リリアリスが提示した日の2日前――
「来ない!? だって、4日前に――」
 ティレックスはリリアリスに声を荒げていた。 というのも、リリアリスがディスタード本土軍が来るだろうと提示した日に、 リリアリスは今しがた来ないと言ったのである。
 それに対してリリアリスは答えた。
「誰も6日後に襲ってくるなんて言ってないでしょ、 私はただ、”あのままのスピードなら6日後ぐらいにクラウディアスに届く”って言っただけで、 本当にいきなり攻撃だなんてことがあるわけないでしょ。 向こうだって当たり前のように警戒しているわけだから。」
 確かに、いきなり上陸して攻撃を仕掛けるだなんていうのは考えにくい。 前回も割とゆっくり進軍してきたのだが、それもやはり警戒してのことだったようだ。
「相手の様子を探るために潜水艦が接近してきていますからね。 それではアップデートも完了しましたので、そろそろステルス・モードにセットしますね」
 ラミキュリアがそう言うとリリアリスは頷いた。 ステルス・モードとは? 何を隠蔽するのか、ティレックスは訊いた。
「アクアレア・ゲートそのものを隠蔽するのよ。いい、見てて。」
 するとなんと、アクアレア・ゲートは突如として視界から消え去った!
「マジか!? すごいな!」
 ティレックスは感動しているとリリアリスは得意げになっていた。
「単に視認できないだけじゃあないのよ。 敵の物理レーダーに引っかからないのは当然のこと、 基本的な機能しか持ち合わせていない魔法レーダーにもほとんど引っかからないし、 さらなる隠蔽機構として”ダミー・トラップ”を展開することができるからね――」
 ”ダミー・トラップ”?  いつものようにこれでもかというほどの多機能かつ超絶機能を備える彼女の作、 ティレックスは呆れることはなく、むしろウキウキしていた。
 そしてその声に応えるためか、リリアリスはなおも得意げになっていた。
「ゲートの基本機能の一つなんだけれども、そもそも自立して魔法を発動できる機構があるのよ。 当然、防御魔法として展開することもできれば攻撃用に使用することもできる、 いわば、ほとんど兵器みたいなものね――」
 しかし、最後にそう言ったリリアリスの顔はやはり暗い表情だった、 何が言いたいのかはわかる、ティレックスはアール将軍の言葉を思い出した。
 それはともかく、リリアリスは話を続けた。
「で、その”ダミー・トラップ”というのは要するに、ゲートそのものの気配を消すことができる機能ってことよ。 原理はいたって簡単で、ゲートから感じる魔力をぼかして同じような気配をたくさん設置することができる機能なのよ。 だから、高性能な魔法レーダーを持ち込まれても敵はゲートの場所をまったく特定できない状況になるわけよ。」
 気配をまったく消せないのなら逆に気配を増やしてしまえばいい、逆転の発想である。 確かに、目で見えなくても何かがあるのは確か…… ということだったらむしろ余計に増やして余計わかりづらくすればよいというのは理にかなっているといえる。
 すると、ヒュウガとヴァドスが”アクアレア・ゲート”監視所まで来て話をした。
「”グラエスタ・シールド”も設置したぞ」
「”フェラント・ブレード”も設置完了だ」
 彼らはそれぞれそう言った。フェラントとグラエスタにも同じものを設置したらしい。
「他はどんな感じ?」
 リリアリスが訊くとヒュウガが答えた。
「”ガーディアン・ウォール”はシャナンたちが、”アルディアス・ニアリー”はラシルたちが、 ”ウィンゲル・バリケード”はラトラたちが設置している最中だ」
 ”ガーディアン・ウォール”は”幻界碑石”の異名でもあるため天使の森に、 ”アルディアス・ニアリー”は名前の通りアルディアス側に近い場所でクラウディアスの南東部の森に、 そして”ウィンゲル・バリケード”はやはりウィンゲルの町で、北部にある断崖付近にそれぞれ設置しているようだ。 すべてひっくるめて”クラウディアス・フィールド・システム”という名前なのだそうだ。
 となると、それだけ大きなものをどうやって設置しているのかという疑問が当然のように湧いてくる、 しかもこんな短期間に複数をどうやって作ったのだろうか。
 それについてはリリアリスが答えた。
「なーに、そんなに難しい話じゃないわよ。 あれは前々からガレアの工場で地道に作っといて完成品を予め私の船に積んどいたのよ。 あれは組み立て式で、現地でそれを組み立てるだけの話でしかないのよ。」
 やることなすこととにかくスケールの大きすぎるリリアリスだが、 意外と盲点を突いてくる抜け目のなさもあるところが彼女の特徴だった。 そうなるともはや開いた口も塞がらなくなる――
 だが、ヒュウガが両手を組み、なんだか悩んでいるようだ。
「問題は”セレスティアル・クラウン”だな――」
 それにはリリアリスも悩んでいた。
「そうね、あれはちょっとムリね、 クラウディアスに沸き上がるエネルギーを利用すればいいと思ったんだけれども、 それだけだと思いのほか力が足りないみたい、これはちょっと考えないといけないわね――」
 なんだか問題があるようだがどういうことだろうか、ティレックスは訊いた。
「”セレスティアル・クラウン”の名前の通り、クラウディアス上空に設置しようと思ってね。 あれの浮力を安定させるには別にエネルギーが必要になりそうなのよね。」
 なんと、空に!? ティレックスは驚き、さらに期待していた。
「まったく、なんて発想してるんだとは思うが、 国一つ守るためならって考えればこういうのもたまには悪くはないわな」
 と、ヒュウガは――
「何よ、あんただって結構楽しそうに作ってたでしょ。」
 そう、言っている割には楽しそうだった。そんなリリアリスも楽しそうな表情だった。
「まあ、いかにも兵器みたいなものを作るぐらいならこういうものを作っていた方が楽しいのは間違いないしな」
 ヒュウガは呆れつつも、やっぱり楽しそうだった。