翌日、お城の横庭にて――
「ディスタードはクラウディアスを本当に攻めてくるのでしょうか――」
エミーリアたちは不安の中過ごしていた。
「でも、見たんだよね、ディスタードの軍艦がクラウディアスに迫ってくる様子を――」
レミーネアは落胆しながらそう言った。2人はさらに続けて話をしていた。
「前回みたいに何とか追い払えるといいけれども――」
「前回よりも規模が大きいみたいね、流石に真正面から戦うんじゃあきついかもしれないわね――」
2人はため息をついた。そして、エミーリアは周りを見ながらレミーネアに訊いた。
「あれ、そういえばお姉様は?」
レミーネアも周囲を見渡しながら言った。
「あれ、確かに――さっきまでそこでアリエーラさんとリリアさんとでお話していたのにどこに行ったんだろ――」
2人は同じ顔をそろえて同じような仕草で首をかしげていた。
フラウディアとフロレンティーナはお城の中庭に行くと、そこにはリリアリスが何やら話をしているようだった。
その表情は何やら険しい感じの表情だったが、その話し相手はどこにも見当たらないようである。
「どうしたのですか、お姉様?」
フラウディアがそう訊くと、リリアリスは後ろを振り向いた。
「あら、2人とも、どうしたの?」
「そんな姉様こそ、どうしたのかしら?」
フロレンティーナが訊くと、リリアリスは自分の耳から何かを取り外した。
それが何なのか、フロレンティーナは言った。
「インカム?」
リリアリスは話をした。
「そう、早い話、ガレア側と連絡していたのよ。本土軍の状況とガレアの状況を聞いててね。
で、もののついでに本土軍が使用しているトークンを利用して、今、本土軍の状況を直接傍受していたところなのよ。」
リリアリスはスマートフォン片手にインカムを操作しているようだった。
「すごいですね! そんなものまで作ったのですね! 流石はお姉様です!
トークンは、やっぱりハッキングですか?」
リリアリスは頷いた。
「本土軍は秘密主義な割にはセキュリティは甘いからね、うちの優秀な機械ヲタク――って言ったら怒られるか、
あいつがいれば本土軍のネットワークにも軽々と侵入できるわけよ。
認証情報もさっき拾ってきたトークンから生成したものだしさ。」
フラウディアはおもむろにリリアリスに訊いた。
「あの、もしよろしければ私にも聞かせてもらえますか?」
リリアリスは頷くとインカムを渡し、スマートフォンの内容を見ながら言った。
「本土軍の輸送船でいい?」
「はい! それでお願いします!」
リリアリスはフラウディアにインカムについているスイッチをONにするように言った。
スイッチはいくつかあるけれども、インカムのON/OFFスイッチとは別にあるものだった。
「じゃあ、目を瞑って――」
リリアリスにそう言われるがままにフラウディアは目を瞑った、すると――
「えっ、これは――まさか!」
フラウディアの周りにはうっすらと輸送船の光景が現れたのだった。
「アクアレア・ゲートとリンクして、ゲートが傍受している情報をもとに像が見えるようにしているのよ。
スマホからでもその映像が見えるようになっているわよ。
トークンを使用している元が特定できればこういうことだってできるのよ。」
なかなか進んだ技術だなぁ――フラウディアとフロレンティーナはそう思いながら舌を巻いていた、
ディスタード本土軍はこんな相手を敵に回しているのか……。
すると、フラウディアは後ろの気配に気が付いた!
「きゃっ!? 誰!?」
リリアリスが言った。
「多分、そいつのトークンを流用しているからじゃあないかしら、あなたがいる座標にね。
でも、意識を集中して――行きたい方向へ念じれば――」
リリアリスに言われた通りに念じていると、フラウディアは動き出した。
「ね、さっきは甲板だったけど、今は船室の中に入って行ったでしょ?
認証者の元から大きく離れられることはできないけれど、
それでもこうやって、敵の情報を事前に調べることができるってワケよ。」
フラウディアの場所についてはスマートフォンにも座標が表示されていた、
本人の神経にも作用するとは恐るべき技術だった、今のエンブリアとしてはあからさまにオーバーテクノロジーである。
するとその時、フラウディアは何やらとても驚いていた――
「どうしたの!?」
フロレンティーナが心配そうに聞くと、
「なんですって!?」
フラウディアが言ったことに対してリリアリスも大変驚いていた。
3人は話を続けていた。
「……困ったことになったわね、まさか――」
フロレンティーナは言う。フラウディアは落胆していた。その様を見ながらリリアリスは、
「フラウディア! あなたのせいじゃないから! 大丈夫、何とかするから!」
というが、フラウディアは落ち込んでいた。
「もとはといえば私のせいです、私が、本土軍の職務に忠実だったから――」
それに対してフロレンティーナが言った。
「そんなこと言わないの! あなたはもう本土軍の犬じゃない!
私たちは自由なの! そう、自由なのよ!」
自由――そうだ、自分はもう自由なんだ、
ムチにも本土軍にも縛られない自由となった身なんだ――フラウディアは改めてそう考えた。
「そうよフラウディア、あなたは自由なのよ、
これからの将来のことを考えることだってできるのよ、それを忘れないで――」
リリアリスは念を押すようにそう言った。
フラウディアは意を決したかのように言った。
「ありがとうリリア姉様、ありがとうフローラ姉様。
でも、私は――その過去と決着をつけなければいけません。
ですからお姉様、私にもあいつらを撃退するためのお手伝いをさせてください!」
フラウディアの決意を胸に、3人はさらに話を続けていた。
翌日、レンドワールをはじめとする第2ローファル派閥の貴族議員たちがとても偉そうな態度で会議室から出てきた。
その様子を見ていたラシルは悩んでいた、彼らは今後についてどう判断をするのだろうか、と。
そんな彼の姿を見たレンドワールは皮肉を言った。
「それにしても――まったく、こんな若造にクラウディアスを委ねなければならんとは――
この国もとうとう落ちるところまで落ちたもんだ」
彼がそう言いながら去るとラシルは眉をひそめていた、何かあったのだろうか。
すると、リリアリスとアリエーラが会議室から出てきて言った。
「やれやれ、貴族共って威張り散らしている割に対したこと考えていないからろくなもんじゃないわね。」
「以前に大勢力を誇っていたローファルさんたちが羨ましかった、そういうことではないでしょうか?」
そこへラシルが何かあったのか訊いた。
「別になんでもないわよ、連中は中身がスカスカだからね。」
そ、そう――ラシルは冷や汗をかいていた。リリアリスは続けた。
「次はアクアレアの話だからグラエスタの貴族議員共を帰したのよ、
見ているだけでも腹立つのに、そんな面を見ながら話さなアカンと思うと余計にムカツクしさ。
一方で平民出の議員たちはまだ残しているわね。」
ま、まだ言ってる……気持ちはよくわかるが――ラシルは冷や汗が止まらなかった。
「じゃあ、これから話を?」
「そうよ、ここからが本題だからね――」
2人の話を遠目で見ていたレンドワールは――
「ふん、せいぜいクラウディアスが滅ばぬ程度に頑張ることだ」
他の貴族議員は話をし始めた。
「しかし――やつらに本当にディスタードを退ける力があるというのか?」
「先のアクアレアでの戦い、非常に強大な力で連中を葬り去ったと聞く、まさに恐るべき力よ――」
「しかし、此度はそれ以上の数と聞く、ディスタードの生物兵器とやら投入されるという話だが――
であれば前回のようにいくとは限らぬぞ?」
レンドワールは頷くと話を締めた。
「連中の力は本物だ、恐らく、此度の作戦についても間違いなくやってくれることだろう。
だが、だからこそつけ入る隙もできよう――
ローファル共に苦汁をなめさせられたあの時の屈辱、今度こそ晴らす時が来るというわけだ!
そうとも、やつらもおらぬし、やつらが去った後のクラウディアスを立て直したのは我らだ!
今度こそ邪魔はさせん! ディスタードを排除した暁には我々の時代が待っているのだ!」