その道中にユーシェリアと出会い、ティレックスは事情を話すと彼女も同行することになった。
そしてクラウディアスの城下より東にあるアクアレアの町へとやってきた。
「なんなのこの町は! これでクラウディアスの町なの!?」
フロレンティーナはその町の光景に驚いていた。
街というよりは農村のような感じで、長閑な街並み以上の少し異様な光景が広がっていた、それは――
「この町のこの辺り――人の手で更地にした後ですね――」
フラウディアはそう言った。
その一角は自然にできるような草原の区画とは違い、あからさまに人の手で更地にした後だった。
それについてはユーシェリアが答えた。
「私はその時のことはよくわからないんだけれども、その時にディスタードの本土軍が侵攻してきて、
アクアレアの町の一部を破壊したみたいなの――」
さらにティレックスはその近くにある家に向かっていた。
「俺もクラウディアスがディスタードとの戦争になった時のことについては知らないんだけれども、
敵はアクアレア・ゲート付近まで来て、クラウディアス側もかなり消耗したらしいぞ」
ティレックスはそう言いながらその家の戸を開けようとすると、戸はボロボロに崩れてしまった。
どうやら火事によって炭化が進んでおり、触れると同時にボロボロになるほど朽ち果てていたようだ。
ティレックスとユーシェリアの話、そしてボロボロになった戸を見ながらフラウディアは「酷い――」とつぶやいた。
「で、戦争の傷跡を癒すためにアクアレアを復興させているんだけれども、
それがどうやら進んでいないみたいなの――」
と、ユーシェリア。
瓦礫の山を除去して更地にすることまではできたものの、
それ以上はとある事情のせいでうまくいっていないという、それは――
「レンドワール――」
フロレンティーナはそう言うとティレックスが言った。
「それはわからないけれども、可能性としてはあるな。
確かにクラウディアスの貴族たちは、俺が感じた中ではアクアレアはどうでもいいという感じだ。
しかも今はディスタードが進軍してくるということから激戦区であるというきらいもある。
それに先日のアクアレア・ゲート戦行法だったかなんだかの件にも見るように、この地を見捨てている感じもする――」
状況は思わしくない方向へと進んでいるように見える。
4人はアクアレアの町をさらに進むとそこにはレンガ造りのログハウス的な塔のような建物があった。
「アクアレア・ゲート監視所だ。つまりこの少し先に行ったところがアクアレア・ゲートだ――」
ティレックスはそう言った、4人はその少し先を見るとなんだかリング状の建造物が置いてあった。
「あれがアクアレア・ゲート――」
と、ティレックスはそう言った、あのリングは見たことがない。
アクアレア・ゲート自体はいかにも厳つい門のような建造物であり、
他のグラエスタやフェラントなどにも似たような建造物があった。
しかし、それに代わっておいてあるリング状のものはどうやらつい最近設置したものらしく、
太陽の光でキラっと光り輝いていた。
「なんでも作るな、あの人――」
ティレックスは続けてそう言った。
作る、あの人――誰が作ったか大体想像がつくだろう、つまりその人お手製のゲートのようだ。
「そういえば似たようなゲートを他の場所にも設置するって言ってたよ?」
ユーシェリアに言われてティレックスは頷いた。
「それだけクラウディアスの防衛を強固なものにしたいってことだろう。
作った人の性格を考えると、まさにこのゲートの機能で確実に食い止めるっていうつもりなんだろうな」
それに対してフラウディアは言った。
「でも、できればここのゲートに頼りたくはないですね。
だって、こんなに美しいクラウディアスですもの、
ディスタードなんかに土足で踏み込まれてしまっては穢れるだけです!
私は絶対にディスタードを許しません!
ディスタードなんかにクラウディアスを渡すことはこの私が許しません!」
なかなか激しい調子で言うものだからティレックスとユーシェリアの2人は圧倒されていた。
でも、確かに彼女の言う通りであった。
「そうよ、私もディスタードには酷い目にあった、汚いこともさせられた。
そんなことを平気でするような国には絶対に渡すべきではないわね――」
「ディスタード――アルディアスを侵し、リオメイラを侵し、ユーラルを侵し、今度はクラウディアス――
俺は絶対にディスタードを許さない――」
「私もディスタードには酷いことされたんだからね! ディスタードなんてもうたくさん!」
フロレンティーナは、ティレックス、そしてユーシェリアの3人も続けてそう言った。
アクアレア・ゲート監視所に入り、指令室という場所へ行くと、
そこにはリリアリスとアリエーラ、そしてラミキュリアとヒュウガもそこにいた。
「あら、みなさんいらっしゃったのですね! どうしたのですか、こんなところまで――」
第一声はアリエーラの反応だった。
「どうしたって――みなさんこそ、どうしてここに?」
と、ティレックスが訊くと、リリアリスに「しっ! うるさい!」と言われて注意された。
ティレックスは困惑していた。
「なーんか引っかかるんだよな――」
ヒュウガは何やら機械の”つまみ”をいじっているようだった。
「一体何をしているんです?」
ティレックスは声のボリュームを下げて訊くとアリエーラが答えた。
「それが今、アクアレア・ゲートの調整をしている最中なんだそうですが、様子が変なんです――」
それはどういうことだろうか。ラミキュリアがノート端末を操作しながらヒュウガに何かを促していた。
「ヒュウガさん、インストール完了です」
「よし、じゃあつなげてくれ――」
ラミキュリアはヒュウガがいじっている機械から伸びているコードをノート端末のUSBポートに接続した。
「アプリケーションの初期セットアップは私が後でやっとくから映像だけ出してちょうだい。」
リリアリスがそう言うと、ラミキュリアは「了解」と言って端末を巧みに操作し、何かの映像を表示させていた。
「これは――海?」
ユーシェリアは映像を見ながらそう言った。
「アクアレア東沖の今の映像よ。右奥にうっすらと見える島はガレアで、
その手前にある船舶とかはガレア軍で、
なんかちょっと様子が変だからクラウディアス側のほうに来て確認しに来てもらっているのよ。」
リリアリスが言うと、それに対してフロレンティーナが言った。
「映像!?」
それにティレックスが気が付いた。
「まさか――アクアレア・ゲート!?」
リリアリスは答えた。
「そう、アクアレア・ゲートが傍受した映像よ。ラミキュリア、レーダーを展開してみて――」
ラミキュリアは「承知いたしました」と言いながら端末上のアプリケーションを操作してレーダースイッチをONにした、すると――
「わっ、なんだ!? 海の中になんかいるぞ!?」
ティレックスは驚いた。
海の中には海洋生物のような影もあったが、それにしては明らかにおかしい大きな影があった。
「この影はまさか――ラミキュリア、この影をスキャンして該当しそうなものを割り出してもらえないかしら?」
リリアリスはそう言うと、ラミキュリアは再び「承知いたしました」と言いながら端末を巧みに操作して作業をしていた。
流石はラミキュリア、デキる女秘書という印象だった、彼女としてはかなり意識しているところだが。
「出ました、これです!」
ラミキュリアがそう言うと、リリアリスが端末のモニタを覗き込んでそれを確認していた。
「ディスタード帝国軍所有の巡洋型潜水艦、S-8950ATM――やっぱり本土軍の潜水艦が接近しているってことで間違いなさそうだわ――」
それには何名かが非常に驚いていた。
「距離はゲートから約1,000km、映像からは4ノットの速度でクラウディアス方面に向かっているようです――」
ラミキュリアはその船の情報が出力されているのを見ながらそう言うと、リリアリスは顎に手を当て、
「このままのスピードで向かってくとしたらクラウディアスの領海を侵すことになるのは5日半強……まあ、6日後ってところね。」
と、リリアリスは言った。いや、計算早っ――何名かはそう思って驚いていた。すると――
「見てください! 映像の左のほうから何かが来ているようです!」
と、アリエーラはみんなに注意を促していた。
「これはまさか! 本土軍の最新鋭の戦艦!」
フラウディアは驚きながらそう言った。すると、ラミキュリアはその船の映像に対し、マウスでクリックした。
すると、その船の情報が画面に出力された。
「流石に要領いいわね。」とリリアリスが言うとラミキュリアは嬉しそうに得意げな表情をしていた。
「なるほど――潜水艦と同じぐらいのタイミングで到達するのね、
つまり、ディスタード側としてはこれから本格的にクラウディアスに攻めてくるのかもしれないわね――」