リリアリスとレンドワールとの話は続いていた。
「対応が遅いのではないでしょうか?
それでは流石に、あなたのようなド素人……いやいや、ともかくあなたを受け入れた方々の資質が問われるというものです、
是非とも別の機会にて、意見を伺いたいものですな――」
リリアリスは得意げに口を開いた。
「ふふっ、それについては心配する必要なくってよ。
あんたみたいな無能……じゃなくて、とにかくあんたが立件したものでもわざわざちゃんと対応してやってんだから、
むしろ安心してもらいたいところね。」
えっ、どういうことだろうか、レンドワールは追い打ちをかけるように言った。
「何を言っているのかわかりかねますが、
対応しているということだけはわかりましたので、つまりは認可ということでよろしいですな?」
しかし、リリアリスは得意げに揚げ足を取ったかのような感じで答えた。
「は? 何を言っているのよ、誰もそんなこと言ってないでしょ?
幻聴? 私はただ”対応している”としか言ってないわよ?」
えっ――レンドワールは耳を疑った。
「いや、あの、そうではなく、対応した結果、どうなるのでしょうかと聞いているのですが?
私の言葉は通じておりますか?」
リリアリス態度を改めて言った。
「はぁ? 何言ってんのよ、認可も不認可もないって最初に言ったでしょ?
それで対応した結果ってどういうことかしら? 言葉通じる?
だいたい、あんたが出している件の内容は何と言ってもクラウディアス全体を巻き込む内容、
インパクトが重たすぎるから、すぐに判を押すことなんてできるわけないでしょ?
まったく、無能もいいところね――おっと、これは失礼。」
「だったら、議論する場を設けるべきなのではと思うのですが、そんな単純なこともお忘れですか?」
「議論? 誰がするの? もちろん、法案の対象となる当事者を含めてのことよね?」
「当事者ですと? ははは、何をおっしゃっているのやら、
そんな非現実的なことを実現できるはずがありますまい。
まったく、これだから――いや失礼、一瞬幻聴かと思ってしまいましたぞ――」
「あら、ただの能無しと思ったのにそこんところはきちんとわかっているみたいで寝耳に水、だったわ。
だったら議論をする場を設けたって仕方がないでしょ? ねえ? だから改めて言う事になるけれども、
その件については議論するかどうか検討することもひっくるめて現時点でも”対応中”よ、それ以上でもそれ以下でもないの。
仕方ないでしょ、何度も言うけどあんたが持ってきた話はとにかく重い内容なのよ、お分かり?
だから誰が何と言おうと話が進められなくたって仕方がないわけよ。
それに、例え遅くなろうとも法律に抵触するわけでもないでしょ?
だったら例え長期保留だとしてももんく言えるわけないわよねえ? それとも王国の決まりに楯突く気かしら?
ほら、それが分かったんならさっさと帰んな、税金の無駄遣いはびた一文でも許さないわよ。」
くっ、そう来たか――レンドワールは渋々帰らざるを得なかった。
傍観室から2人の様子を固唾をのんで見守っていた他の面々はリリアリスの剣幕に圧倒されていた。
「すごいですねリリアさん! あの人をあんなふうに言いくるめるだなんて!」
アリエーラが目をキラキラとさせていうが、リリアリスは呆れていた。
「言いくるめてなんかないよ、それに多分、次の手でも考えてるハズね。
その前にこっちも何か考えないとあいつにあっさりとひっくり返されるわ。」
「でも――あの件を長期保留だなんていいのでしょうか?」
エミーリアは疑問に思っていた、確かに結果が出ているのなら認可不認可決めるべきだろうけれども――
「あいつはグラエスタの貴族、ということは当然後ろ盾もグラエスタの貴族共だからね、
そんな相手から本気出して異議申し立てなんか喰らうとなかなか面倒なことになる……
なら、あの件は現状は飼い殺しにして時間稼ぎするのが精一杯ってところよ。
だからエミーリアはとりあえず簡単な言い分として”体調がすぐれておらず、
そんな大変な決め事は直ぐに決めることができません”って一生言っとけばいいのよ。
それに、話した通りエミーリアが直ぐに決めないといけない法律はないから気にしなくたっていいのよ。
なんなら、忘れた頃に紙屑ごと燃やしてしまっても大丈夫よ。」
あまりにはっきりとした物言いのリリアリス、
それはそれで問題を生みそうだが相手が相手なのでそれはそれで仕方がないだろう。
「でも、相手に断固として”対応中です”って言いきったところはよかったですね!
確かに、そう言われたらどうしようもない気がしますしね――」
と、ラミキュリアは言った。それもそうである。
そんな中、ティレックスがレンドワールの身になって訊いてきた。
「なあ、それもそうなんだけれどもさ、あの人はどうしてそんなに法を通したいんだ?
”アクアレア・ゲート戦行法”って有事の際にはクラウディアス全民を巻き込んでの戦いなんだろ? それってやっぱり――」
対ディスタード法、つまりそういうことである。
「”アクアレア・ゲート戦行法”、すなわちアクアレア・ゲートにおける戦闘行動法案。
全民はクラウディアス全国民が一丸となってクラウディアスを守る――一見するとなんとも聞こえがいい話にしか聞こえないけれども、
その実態はどの書類にもきちんと”グラエスタ民は除く”とちゃんと但し書きある――。
つまり、自分たちは参加したくなくて、それ以外のクラウディアス民がグラエスタの貴族を初めとする権力者たちのために命を捧げろと言っているようなもんよ。
この辺りの実態は今も昔からほとんど変わってない、リアスティンが唯一変えられなかった文化ね――」
それは――流石に誰もが許せなかった。
「ならば、私が変えて見せます! 私はお父様にこの国を託されたのですから、私が変えて見せます!
そのためにはみなさんのお力が必要です! ですから、お願いしてもよろしいですか!?」
エミーリアはそう堂々と言い切ると、全員は口々に賛同した。
そんなある日のこと――
「あれ? リリアさんとアリエーラさんは?」
ティレックスはいつもいるはずのテラスにその2人がおらず、
代わりにその場にいたフラウディアとフロレンティーナに訊いた。
「さっき、アクアレアに行くって言ってましたよ?」
フラウディアがそう言うとティレックスは頷き、去り際に言った。
「アクアレアか――なんだか最近、その話題ばかりな気がするな――」
フラウディアとフロレンティーナはそれを聞いて気になっていた。
「アクアレアって――ディスタード本土軍の進撃を食い止めるための要所?」
フロレンティーナがそう言うとフラウディアは頷いた。
「お姉様、私たちも行ってみましょう!」
2人は急いでティレックスのもとへと駆け寄ってきた。
「ティレックスさん! 私たちもアクアレアへとご一緒させてください!」
えっ――ティレックスとしてはそういうつもりではなく、
単にリリアリスとアリエーラの2人がどこに行ったか聞きたかっただけなのに。
とはいえ、特段クラウディアス城にいたところで何があるわけでもなし、
2人に圧されてアクアレアまで行くことにした。