クラウディアスのお城もいよいよ大詰め、もうそろそろ最後の5階へ行くことになるところまできた。
だが、その前に――
「あれ、誰かいるわね、しかも2人――衛兵じゃないみたいね。」
5階にたどり着くや否や、リリアリスはそのさらに上である屋上に誰かがいる気配を感じた。
「じゃ、先行くか、どうせ5階が終点みたいなもんだからな」
ヒュウガはそう言うとリリアリスは頷き、全員に階段を上るよう促した。
そして、屋上には――
「あら? まさか、ララーナ様ですか!?」
フラウディアがすぐさま反応した。
「あら! みなさん、お久しぶりですね!」
それに対してリリアリスが答えた。
「お母様のほうこそ珍しいんじゃない? ルシルメアからどうやって来たの?」
ララーナは答えた。
「シャディアスさんに頼み、ティルアの皆さんにお願いして連れきてもらったのですよ」
シャディアス――リリアリスは得意げに答えた。
「なーるほど、あいつ、女の子にすこぶる弱いからね!」
「うふふっ、チョロイもんですわ♪」
ララーナも得意げになって答えていた。
そんな中、塔の上にいるもう一人の存在がいた。
「あれ? なんだろ、お客さんかな?」
その男が駆け寄ってくるとティレックスが気が付いた。
「あっ、スレアじゃないか、ここにいたのか」
スレアはそれに反応した。
「ティレックスじゃないか、久しぶりだな。リベルニアの一件以来か?」
多分それぐらいだったハズ、ティレックスはそう思った。スレアはさらに続けた。
「見ない顔がいるようだけど、そちらは?」
それに対して初見3人組は並んでそれぞれあいさつした。すると――
「何っ!? フラウディアだって!?」
スレアは剣を構え、フラウディアに突然切りかかった!
「お前、どういうつもりだ!? お前はディスタード本土軍の回し者だろ!?」
フラウディアはスレアの剣を剣で受けた。
「いいえ! 私は目が覚めたの! もうディスタード本土軍なんかに未練はない!
私は私のままを生きる! もう誰にも縛られない!」
「お前の言葉なんかに騙されるものか! お前は一つの国を! リオメイラを滅ぼした!
夢魔妖女フラウディアと呼ばれた魔性の存在!」
「やめて!」
フラウディアは泣きながら叫んだ。
ひと悶着あったのだが、その後にリリアリスら女性陣に一蹴され、スレアは謝っていた。
「わ、悪かった――」
とにかく彼女はちゃんと改心したことを伝えると、ここでの場は収まった。
しかし――
「フラウディア、大丈夫?」
リリアリスはそう訊くがフラウディアは座り込んだまま、その場で沈んでいた。
「ほ、本当に悪かったよ――」
スレアは必死に謝っていたがリリアリスが言った。
「うるさい、あんたはもう黙ってなさい。」
えっ、そんな――スレアはそう言うが、リリアリスは――
「いいから黙れって言ってるの。
私が剣を抜く前にフラウディアの前からさっさと消えた方が身のためよ。」
言っていることは平静そのものだが、
リリアリスがこれほどまで怒っているのはなかなかない光景だったためスレアはビビっていた。
そして、何かを言おうかと思ったが、その剣幕に押されると何も言えずにその場から去るしかなかった。
「大丈夫? 立てる?」
シェルシェルは彼女に後ろから優しく寄り添っていた。フラウディアは――
「やっぱり私――”夢魔妖女”を名乗っていた頃のレッテルは一生ついて回るのかな――」
それは――今回のスレアのようなことが今後も起こりえるということかもしれない……。
「よっ。」
リリアリスがヒュウガとティレックスの男たちと一緒に階段を4階まで降りると、そこにはスレアがいた。
「すまん、本当に申し訳ない――」
スレアは平謝りだった。
「私に言われても――まあ、過ぎたことはどうにもならないからこれ以上はなんとも言えないけれども――
あんたはもう二度とフラウディアと話をしない方がいいわね――」
そう言われたスレアは落胆していた。
「できればクラウディアス内でこういうことは起こしたくなかったが――自分でやらかしたことだ、
仕方がないと言えば仕方がないか――」
スレアは後悔しながらそう言った。するとティレックスは訊いた。
「そもそもなんであんなことを言ったんだ?
ただの第3者目線の言い様とも思えなかったんだが――」
スレアは答えた。
「実は――」
リオメイラ、実はスレアの父親がそこで働いていたのだという。
「あれ? あんたの親父さんってセラフィック・ランド連合国のお偉いさんって言わなかったっけ?
なんでリオメイラなんかに?」
ヒュウガはそう訊いた。
「そう、セラフィック・ランド連合国の議員をやっていた。
セラフィック・ランド連合国は周辺地域の戦後処理であちこちで回っていてな、
親父はこの国の先代の王の一団と一緒にお袋が失踪して以来、
お袋を探す目的と共に各地で戦後処理を行うための指揮を執り躍起になっていた――」
そこでリオメイラのセラフィック・ランド連合国の大使館に滞在することになったという。
そう言うこともあり、当時のスレアは学校に通うため父親とは長らく離れて暮らしていたため、父親の事情をよく把握していなかったようだ。
だが、そんな折――
「ディスタード本土軍から放たれた刺客である夢魔妖女フラウディアによってリオメイラは滅茶苦茶、
ディスタード軍に支配されると同時に親父は――夢魔妖女フラウディアの毒牙にかかって亡くなったことが分かったんだ――」
なんと、フラウディアはまさかの親の仇だった。
「リオメイラ――そういえばディスタード本土軍がなんかしたって話を聞いたことがあったわね。
それがまさかあの娘が関わっていたことだったなんて――それは確かなの?」
リリアリスはそう言うとスレアは頷いた。
「そいつは間違いない。
ディスタード本土軍が生み出した生物兵器・夢魔妖女フラウディアっていう女でネストレールの側近ともいわれていたやつだ。
まあ、女と言っても――ベイダ直属のネストレールの側近だからアレだけどな。
だが、ゴレイアスにリオメイラへの侵攻と、
ユーラルへの部隊支援としてルシルメアのハンターたちを誘惑して送り込んだっていうことが最近になってわかっている、
アレと言ってもどうやらほとんど本物で、名前の通りの夢魔妖女たらしめる存在のようだ、
そこは流石生物兵器と言うべきところか――」
そしてスレアは改まった。
「ともかく、リオメイラは今ではもぬけの殻、かつての栄光はない。
ディスタードも資源が豊富だと睨んでいたようだが実態は友好国との交易による結果だったらしく、
資源が豊富だなんていう国ではなかった。
だから俺は――親父は何で死んだんだ、どうして死ななければならなかったんだとずっと考えているんだ。
そして仇が目の前にいる――ざわっとしたもんだが、それがまさか――あんたと一緒に居るとはな」
スレアはそう言うとそのまま下の階層へと下って行った。
「マジかよ――親の敵は改心した女って――」
ヒュウガは頭を抱えていた。リリアリスは悩み、ティレックスはそんな彼女を心配していた。
「どうしたんですか、リリアさん?」
リリアリスはいつになくとても悩んでいる様子だった。
「……ごめん、あんたたちはこのまま下に行ってて、私はフラウディアのところに戻るから――」
リリアリスはおもむろに階段から跳び上がり、一気に塔の上まで跳び上がって行った。
「まあいい、とにかく、男は黙っていた方がよさそうな感じだな――」
「……らしいね、女性陣に任せるしかなさそうだ」
2人もまた悩んでいた。