リリアリスは7人を連れてそのままお城の謁見の間へとたどり着いた。
外観こそメルヘンチックな作りであるが、お城の内部は結構しっかりとした作りとなっているようで、
厳かな作りとなっていた。
しかし、謁見の間には衛兵が数人しかいなかった。
「ん? 国の主要な人物がいないようだが?」
ヒュウガがそういうとリリアリスは答えた。
「今回は別にプライベートのままでいいって言ってあるから誰かがいるとは限らないわね。」
それについてユーシェリアが答えた。
「私の時と同じなんだね。
要するに、クラウディアスの重鎮っていう仰々しいレベルでなくて、
親しい友人レベルで遊びに来てくださいってことだよね!」
リリアリスは頷いた。
「ま、そういうことね。初めての人もいるけれども今回は城内を散歩する気分でくつろいで頂戴な。」
スタート地点は謁見の間にて。
謁見の間なので、当然そこには玉座がある、今はエミーリア=クラウディアス257世がその座についている。
「今のエミーリア女王陛下って初代クラウディアス女王陛下と同じ名前なんですよね!」
フラウディアはそう訊くとリリアリスは頷きながら答えた。
「ええ、先代の王がクラウディアスの繁栄の願いを込めてあえて初代のエミーリアと同じ名前にしたそうよ。
それと、エミーリア女王陛下は即位する前の”姫”の愛称で通っているのよ。」
お姫様! その存在にフラウディアとフロレンティーナの2人はその存在に対して目をキラキラさせていた。
そんな中、フロレンティーナが疑問をぶつけた。
「でも、そういえばなんで257世なのかしら? 前王リアスティンは255世だったハズなのに256世はどうしたのかしら?」
そう言われてみればティレックスもユーシェリアも気になった。
先代の王は255代クラウディアスのリアスティンだが256世を担う者というのがいないような気がする……確かに気になる話である。
それについては流石にリリアリスもきちんと把握していた。
「256世はリアスティンの弟君のレーザストの座として空席になっているのよ、
余命いくばくもなく即位することなくなくなっちゃったからね――」
第1王子であるリアスティンが存命である以上は本来王位継承権のないハズの第2王子のレーザストに王位があるというのは異例のことだった。
リアスティン王と言えば変わり者の王としても有名だが、セラフィック・ランド消滅事件の解明の陣頭指揮をとるために、
その間はレーザストにクラウディアスを任せようとしたのだという。
しかし、セラフィック・ランドへと発つ前にレーザストは死去……結局即位かなわず次のエミーリアへと代を譲る結果となったのである。
その際、リアスティンの意向でエミーリアを256代とせず、
クラウディアス256世の席は亡くなったレーザストのために空席のままとなっているのだという。
「なかなか弟想いの王様だったのね――」
フロレンティーナはそう呟いていた。
実際には弟想いというのとは違い、リアスティンの人柄がなせる業という線のほうが強いらしい。
一行はリリアリスに連れられ、お城の中庭へとやってきた。
そこには庭園があり、色とりどりの花が咲いていた。
「こんなに可愛いお庭もあるんですね!」
フラウディアはやはり興奮していた。
「本当にすごい庭ね――お城というものがなんなのか知ら締めさせられる光景だわ――」
フロレンティーナもその光景にうっとりしていた。それについてはラミキュリアも頷いていた。
「いいですね! こんなところがあるなんて私もクラウディアスが羨ましくなってしまいました!
でも、もしかしてガレアに花を取り入れる発想ってここから……?」
「ふふっ、大正解……って言いたいところだけど私も花が好きだからね――
言ったでしょ、ガレアを帝国らしからぬ景観にしてやるってさ。」
確かに聞いた気が――ティレックスはそう思った。
あれはリファリウスから聞いた話だったけど。
そんな中――
「おや、噂の訪問者さんのお出ましのようだね――」
と、どこからともなく若い騎士がやってきた、そいつは――
「よう王様! 見回りか!?」
と、ヒュウガが意地悪く言うと、若い騎士が慌てて答えた。
「王様じゃないですから! ボクはただの騎士です! 騎士団長です!」
すると、リリアリスも調子に乗って言い始めた。
「”王様”じゃなくって、正しくは”陛下”よ。」
だから違うってば! ラシルはさらに激しく否定していた。
しかし、さらにティレックスも調子に乗って言い始めた。
「そうですよ、王様でも陛下でもないですよ。
だって、結婚前に自分の家となる城を何度も見回っている最中だからな、
それはそれでなんとも頭の上がらない――」
「こらぁ! ティレックスさんまで何を言うんですか!」
それに対して揶揄っていた3人とユーシェリアとシェルシェルは笑っていたが他の3人はキョトンとしていた。
その3人のためにリリアリスは彼のことを紹介した。
「あっははは、冗談もほどほどに。
で、彼はこの国の守り手である騎士の団長をやっているアルニス=トアス=ラシル=レグストよ。
みんなからはラシルって呼ばれてる。
で、今のやりとりの通り、将来はエミーリアと結婚してこの国の国王陛下となる予定の人物なのよ。
ただ、見ての通り団長はおろか、騎士としてもまだまだ頼りないところがあるから温かく見守ってあげてね。」
と、締めにいつものが入るのであった。
「だから! エミーリアとは結婚する予定はないですって!
頼りないところは否めませんがわざわざ言わなくたって!」
すると、当然のようにつっこみが――
「ん? エミーリア?」
「女王陛下を呼び捨て?」
フラウディアとフロレンティーナは疑問をぶつけた、迂闊だったラシル。
つい、いつもの癖でそう言ってしまった――それについてはリリアリスがさらに追い打ちをかける。
「彼を次期国王だなんて揶揄っている人は多いけれども、
実際問題、彼とエミーリアとは幼いころからとても仲が良くってね。
彼女が即位した際にも名前を呼ぶ際には呼び捨てでないと返事しないだなんて言われてしまったんだってさ。」
確かに、今まで親しい仲だったのにいきなり女王陛下だとか様付けなどで呼ばれれば大きな壁ができてしまう気がする。
つまり、エミーリアはそれを嫌ったのだろう。
しかし、そのエピソードには――
「じゃあ、ラシルさんは将来エミーリア姫と結婚するんですね! 素敵!」
と、フラウディアが目をキラキラと輝かせて言った。
さらにリリアリス以外の女性陣全員が目をキラキラと輝かせていた。
そのエピソードは女性陣が食いつきそうな話である。
それに対してラシルは――
「し、仕事に戻りますっ!」
もはや収拾がつかないと判断し、顔を真っ赤にしながらその場から逃げるように去っていった。
「やれやれ、目の前の問題に対して逃亡とは――」
「騎士の名が廃るわね。」
ヒュウガとリリアリスはやれやれといった態度で意地が悪そうにそれぞれそう言った。
「だけど、そんなに仲が良かったら本当に一緒になってしまえばいいのにな――」
フラウディアがそう言うとフロレンティーナは頷いた。
「誰かがキューピットになってあげればいいのよ!」
「いいですね! とにかく、あの2人の恋はみんなで応援しましょう!」
「やろうやろう!」
さらにラミキュリアとシェルシェルがそれぞれ言うと、
女性陣のみならずティレックスとヒュウガまでもが頷いていた、
ラシルにとっては波乱の予感が――。