8人は船から降り、ドッグから出るとそこには――
「まあ! なんて綺麗な街並みなんでしょう!」
と、フラウディアは感動していた。
ただ、その港町の町並みと言えばガレアとはそこまで大きく変わりなく、
既にガレアで慣れていた3人にとってはそこまで大きな感動があるわけでもなかった、言ってもこのぐらいなのかと。
とはいえ、その港町の活気についてはガレアとはダンチの差である。
そこはやはり港町、帝国の町とは全然違うものがある。
ガレアもその点ではさほど引けを取らないハズなのだが、
それでも、軍事主義の拠点に比べれば差は歴然だった。
「すごく活気があるわね、確かに帝国外の港町とくれば、これぐらいが普通みたいだけど――」
と、フロレンティーナは言った。
「しかも貿易が盛んというだけあっていろんなものがあるからね、お買い物は楽しいでしょうね。」
リリアリスがそう得意げに言うと、フラウディアとフロレンティーナはやっぱり期待を膨らませた。
「それより、早く北に行きましょうよ♪」
ラミキュリアは急かすように楽しそうにそう言った、
そう、ここは目的地ではない、まだ北にあるのだ。
「そうね、これはほんの序の口、ここからが本番だからね。」
リリアリスはまた得意げに言った。
港町の北のほうへと進むと町の中心部を抜け、次第に大きなお屋敷が見えてきた。
そこの前を通過し、さらに北へ北へ進むとそのうち建物の数は少なくなり、
いきなり建物がない、がらんとした場所に出てきた。
周囲は鬱蒼と生い茂った森だけになり、若干不安さえ覚える光景だった。
だが、それでも足元は街道らしく石畳が敷き詰められており、
この場所は普通に人が通れる道なんだと思わせる印象があった。
そしてついに――
森を抜けると、そこには広い大自然の真ん中に様々な建物があり、とにかく開放的な光景だった。
周囲には森が大草原を囲うように存在しており、この地を守っているようにも見えた。
さらに森の前には広い花畑があり、まさしく幼い頃のフラウディアが見た絵本の光景そのものがそこにあった。
そう、この”夢にまで見た桃源郷”とは他でもない――
「これがクラウディアスなんですね!」
フラウディアは目をキラキラと輝かせていた。
自分の名前の元にもなっているクラウディアス、
ついに自分がこの地に訪れることになろうとは――ルーティスでこれからここに行くことを知った時は卒倒ものだった。
当然、フラウディアの興味をそこまでそそるような場所ということではフロレンティーナとしても興味があった。
「なんて素敵な場所なのかしら!」
フロレンティーナもあまりの光景の美しさに感動していた。
「すごいですね! 何度か聞かされてはいましたが、これは聞いていた以上です!」
ラミキュリアも目をキラキラと輝かせ感動していた。
「そういえば久しぶりに来るな。いつ来ても飽きない光景だな――」
こういうことにはそこまで関心のないハズのティレックスでさえもその光景にはくるものがあった。
「ホント、そうだよね! みんなに会えるのが楽しみー!」
ユーシェリアもワクワクしていた。光景もそうだが知り合いに会うことのほうが楽しみだったようだ。
「私のほうが心奪われちゃうなー♪」
シェルシェルも嬉しそうだ。プリズム族らしからぬ、夢見る乙女そのものといった感じである。
「余生をどこで楽しむかと言われたら、俺も間違いなくここを選ぶだろうな」
ヒュウガはそう言った。
彼のように、リタイア後の人生を送るのならという問いでは間違いなくクラウディアスを選ぶ人は多いと思われる。
「ふふっ、気に入ってもらえて何よりよ。
さあさ、おしゃべりはこのぐらいにして、早いところお城に行くわよ。」
リリアリスはそう言うと突然風魔法を発揮した。すると、フェラントの港側から衛兵たちがやってきた。
その中には――
「なんだ、もうすでにここまできていたのか。言ってくれれば迎えに来たのに――」
ヴァドス=ローグネスがいた、彼はクラウディアス王国の臣下の一員で、
フェラントの港で弁護士事務所を構えていた。
先ほどの港町の中心部にあった大きなお屋敷は彼の家であり、事務所もあるが、
大部分がクラウディアスの関係者の滞在場所として利用されている場所でもあった。
その彼がそう言うと、リリアリスが得意げに話した。
「せっかくだから自分のペースでこの感動を味わってもらおうかと思ってね。
そのほうが感動もひとしおじゃないかしら? 演出って大事だと思うんだ。」
演出は大事、確かにその通り――男性陣含めて何人かはそう思った、
そう思った根拠はやはりルーティスで上映した2本のPVの作り――
「……それもそうか。
なら、クラウディアスの外観を楽しんでいただけたところでそろそろ行きますか?」
ヴァドスは反論したら面倒だと判断したため、素直にリリアリスに合わせてそう言った。
そして、衛兵の後ろから馬車が現れた、このご時世で馬車とはなかなか珍しく、知らない女性陣は全員食いついた。
リリアリスやリファリウスがいる場合は恒例行事だけれども、
彼女は御者として馬車を巧みに操っていた、その隣にはフラウディアがやってきた。
ヴァドスを含むほかのメンバーは馬車の中へと入り込み、衛兵たちはフェラントへと戻っていった。
「はいよー、シルバー。」
リリアリスがそういうと馬車は出発した。それに対してティレックスがすかさずヒュウガに訊いた。
「あれ、気に入ってるのか?」
「多分な。とりあえず、言わせておいてやれよ」
リリアリスが知ってか知らずか、実はその馬車馬の中にその名前の馬が含まれているという裏事情があったようである。
それもそうだが、ティレックスとしてはこれについてずっと気にしていることがあった。
「船出での発言が? おかしい? どこが?」
ヒュウガにそう言われたティレックス、おかしいかって言われると――おかしくないのか……ティレックスは自信を喪失していた。
「はいよー、シルバーって何です? 何か特別な意味でもあるのですか?」
「なんでしょう、わかりません――」
「確かにお姉様、いつも言ってたけどどういう意味なんだろ――」
シェルシェルとフラウディアとユーシェリアはそれぞれ首をかしげながらそう話し合っていた。
「……どうやら、それ以前の問題の方がいらしたようですね」
「私も詳しいことまではよくわかんないけれども、一応ネタだけなら知ってる……」
そしてラミキュリアとフロレンティーナは苦笑いをしながらそう話し合っていた。
さらに馬車はそのまま城下へと入ると、その周囲の光景にも圧倒された、それは――
「すごーい! おとぎ話の世界の中に入っていくみたーい!」
フラウディアはとても楽しそうだ。
クラウディアスはレンガや木の家が多く、時折鉄筋コンクリートもあるのだが、
そんなちぐはぐさが余計にメルヘンチックさを引き立たせている。
場所柄、大草原の中にポツンポツンと孤立気味な建物が複数連なっており、その点でもメルヘンチックさを引き立たせていた、
広い土地なだけあってかなり贅沢な土地の使い方をする作りの町である。
城下なのにそもそも城壁がないというのも面白く、
やはり森ないし、召喚王国の名に恥じない召喚獣の力こそが城壁という考え方もできるようなそのたたずまいが猶の事メルヘンチックさを助長させる、
ここまでメルヘンチックさを前面に押し出されると、まさに夢にまで見た桃源郷そのものとしか言えないような感じでもある。
そんなメルヘンチックだらけなクラウディアスだが、極めつけはその町の象徴ともいえるお城の存在、
お城というだけあって女子のあこがれとしては申し分ない存在だが、そのお城の作りがまた可愛いこと可愛いこと。
レンガと鉄筋コンクリート、そして自然の木々によって構成されていて、
これでもかというぐらいメルヘンチックさを引き立たせていた。
「わぁー! お城可愛いー! なんて素敵な国なの! 住んでる人たちが羨ましいな!」
フラウディアをはじめ、フロレンティーナとラミキュリアの心は完全にクラウディアスという王国にわしづかみされていた。
その様を見ているユーシェリア、自分の過去を見ているようだった。
「私も住んでみたいな! ねえティレックス♪」
ユーシェリアはにっこりとした笑顔でそういうと、ティレックスは頷いた。
「そうだな、人もいいしな――」
人――そう、この都の良さは見た目だけではない。