今回は下着の件についてはなかったが、彼女はほぼ唐突同然に例の布切れを取り出した。
「はい、今日は特別にここにいるセーラー服がカワイイ前列の女子4人に配ってあげるわね。」
そう、ミスリル繊維の布切れである。スカーフ代わりにも髪の毛を縛るものとしても使えるおしゃれな刺繍の入った布切れである。
妖魔女子4人組に渡したのみだが、ユーシェリアはやはりすでに持っているようだ。
「それはちょっとやそっとじゃあ破れないから、後で試してみて頂戴ね。
言いたいことはそういうのも防具のワンポイントに忍ばせておくことでも防御力を保てるってことよ。
たとえ軽装だとしてもね。」
たとえ軽装だとしても――と言いながら、当の本人は下着代わりに身体中に着用している件。
そりゃあちょっとやそっとじゃあ攻撃を受け付けないわけである。言ってもあくまで布なので過信は禁物だが。
ともあれ、自作のその品を持ち出すあたり、真に最強を謳うのであれば、
腕前だけでなく何かを作り出す力も必要だということなのかもしれないと、ティレックスは改めて思った。
ミスリル繊維はともかく、最も象徴的と言えるのが、彼女の得物である”兵器”の存在である。
お姉さんは話を進めた。
「うん、なんだか時間が推しているわね。
そもそも本当は高等魔法剣技の講師として招かれていたはずなんだけど、
でもま、質問の内容が内容だし、いつものことよね。
当然、私のせいじゃないんだから仕方がないと思ってね。」
再び会場には笑い声が。
「よく、”エーテル”を純粋に魔法として繰り出す技法と、
魔法”剣”として繰り出す技法の違いについて論争されることがあるんだけど、
確かにまあ、今回の質問でも、いくつか出ているわね――」
お姉さんは、その質問を出した。
「リリアリスさんは魔法剣の繰り出し方について、どのように考えているのか、
リリアリスさんは、魔法剣というものをどのようにとらえているのか、
デモで使用した魔法剣は、むしろ、魔法として繰り出しているように見えますが、どうでしょうかetc, etc...。
……えと、これ、テンプレかしら?」
確かにテンプレのような気がする、真面目に質問しているのだろうか、ちょっと気になる内容である。
だけど、講義を円滑に進めるように質問してくれる人がいるのだから、それはそれで。
むしろ、プライベートに関する質問があるのにマジメな講義としてある程度成立していることのほうに驚きである。
案外、そっちのほうがメインでいいんじゃ――
「まあ、それはともかく、それについては大した問題じゃあなくて、答えは使う人の意思、これに尽きるからね。」
おねーさんは質問に答えていた、これについてはいまいちよくわかっていないティレックスだが、
この際、どうでもいいことにした。
「何故かというと、例えば、こういう魔法剣があるわけよ。」
お姉さんは、その技をやって見せた。おい、その技はまさか――ティレックスは悩んでいた。
「本気出してやると教室がぶっ壊れるからこのぐらいの出力で勘弁ね。」
それは、ティレックスが使う月読式破壊魔剣によく似た能力だった。
ここで注目すべきは他人の技を模倣する能力である。それについてはティレックスも感心するところだが、
なんで俺の技……ティレックスは戸惑っていた。
「技自体はものすごく強力なんだけれども、肝心のこの技の使い手自身は大したことなくってね。
もうちょっと頑張ってくれないと――」
ヒドイいじり方する! ティレックスは肩をがっくりと落としながらそう思っていた……。
一方でそんな様子のティレックスを見ながらニヤニヤしているヒュウガ。
くそっ! いつの日にかっ! ティレックスは密かに闘志を燃やしていた――
あの件のせいで途中の話をまともに聞いていなかったティレックス、
気が付いたら次の話に移行していた。
「まあ、ざっと、こんなもんかな。」
何の話だっけ……ティレックスはそう思いながらおねーさんが持っている得物から湯気みたいなものが出ている――
「要はあれだね、その、幻獣といっても、精神エネルギーの塊みたいな状態で出てくるわけよ。
だから、その状態のまま武器に宿す……というイメージだけの問題なのよね。とまあ、口で説明すればこんな感じ。
召喚魔法の使い手であれば、幻獣呼び出せるからそのイメージ、魔法剣の使い手であれば、魔法剣が使えるわけだからそのイメージ、
ただそれをミックスしただけというイメージなわけよ。」
そうだ、それは召喚魔法剣の件だったことを思い出したティレックス。
確かにリリアリスなりリファリウスなり、そしてアリエーラなり、自分の使用する技にきちんと組み込まれている。
だけどどうだろうか、わざわざ召喚魔法で放つ必要はあるのだろうか、そうは思うのだが、
他者の力を借りている分だけ威力が上乗せされているというらしい……
いや、だからそうじゃなくて、そもそもこの人たちの力からさらに力を上乗せさせる必要はあるのだろうか、
その問いには答えてくれなさそうである。
「ここで本気出して幻獣を呼んでやっちゃったら、この建物ごと吹っ飛んでしまうかもしれないから、
デモンストレーションはこれで勘弁してね。」
下手すると建物どころか学園はおろか島ごと吹き飛ばすんじゃあ?
「デモ不可な代わりに資料映像で。」
忘れてた。そう言えばPVがあったんだっけ、ティレックスは頭を抱えていた。
そしてふと見ると、ヒュウガも同じように頭を抱えていた。