食べ終わり、少し休んだ後に全員でプレイ・ルーム・ユニットへとやってきていた。
そこは非常に広い空間だった。
「こんなの追加したんだな」
ティレックスがそう言うと、リリアリスが背後からスポンジの棒でティレックスの頭を叩いた。
「てっ! おい、いきなり何するんだっ!」
するとリリアリス、魔法を駆使して全員それぞれの手にスポンジの棒を持たせた。
「ま、そーゆー感じの場所を作りたくてここにそれを導入したのよね。」
そーゆー感じってどーゆー感じだよ、ティレックスはそう思ったが、ユーシェリアは――
「確かに、船の上で何もしないでいるのって退屈だもんね!
ダイエットにはちょうどいいかも!」
確かに――そういうことならなんだかちょうどいい憂さ晴らしになるかもしれない、ティレックスはそう思った。
「ま、そう言うことだから、好きな風に使ってちょうだいな。」
すると、リリアリスはティレックスめがけて再び襲い掛かった!
「どれ、この間からどれだけ強くなったか、師匠に修行の成果を見せてみなさいよ。」
「ま、マジかよ!」
ティレックスはコテンパンに打ちのめされ、プレイ・ルームの端っこで伸びていた。
「まだまだだな――」
ヒュウガは上から見下ろすような感じでティレックスを見つめていた。
「だ、だってあの人、どう考えても絶対に強いしさ――」
「でもよかったな、お前としてはきょぬーでセクシーな美人のおねーさんにコテンパンに打ちのめされたんだから、さぞ満足したことだろう?」
だからなぜそんなこと言うんだ! ティレックスはそう言わずにはいられなかったが――
でも、そういえば前回のことを思い出した、これは宿命なのか?
「それはともかく、でもな、あれでも結構手加減している方なんだぞ?」
「そ、それはわかっているんだけれども、だけど――」
するとヒュウガは――
「見てみろよ、なんだか面白いことになっているぞ?」
プレイ・ルームの真ん中で組み合っている2人の光景をティレックスに見せながらそう言った。
それは、フラウディアがリリアリスに立ち向かっている光景だった。
「やっぱり違うわねぇ、本土軍のエリートとまで呼ばれている人は流石ねぇ――」
リリアリスはスポンジ棒を左手に持って構えていた、
しかもその長さはリリアリスがいつも携えている”兵器”ばりに長いもので、
持ち手の長さも少し余裕があるような形状だった。
「リリア姉様、私は負けませんよ!」
対するフラウディア、スポンジ棒を右手に持ち、リリアリスに向かって果敢に対抗していた。
「はっ! やあ! たあっ!」
調子よく攻撃を繰り返すフラウディアに対し、リリアリスは防戦一方、しかし、何か考えがあるような感じだった。
すると――
「こっち!」
リリアリスはフラウディアの攻撃を交わすと、フラウディアの左側から一撃!
「うっ!」
フラウディアに攻撃がヒットした。
「あなたの強さはまだまだこんなもんじゃないわよね?
手加減しなくていいから、本気でかかってきなさいな。」
リリアリスはおもむろにスポンジ棒をその場で出しつつ、それをフラウディアに渡した。
するとフラウディア、
「流石はお姉様ですね、やっぱりお姉様はすごい人です! それならそうさせていただきますね!」
フラウディアはそのスポンジ棒を渡されると、それを左手に持って構えた。
「二刀流か、確かにフラウディアっ女、双剣を持っていたっけな。
それに、太刀筋から只者じゃないとは思ったけれども相当な腕前だな、
リリアリスが気にしていただけのことはある」
ヒュウガがそう言うと、ティレックスは驚き気味に訊いた。
「リリアさんが?」
「”伝説のプリズム・ロード”……言われてみれば気になる話だな、あれはなんだったか――」
フラウディアは改めて双剣の構えから攻撃を繰り出すと、リリアリスを一方的に攻め立てていた。
「はっ! それっ! やあっ! はぁっ!」
それに対してリリアリス、何とかしてフラウディアの攻撃をかわし、翻弄していた。
「流石ね! やっぱりフラウディア、可愛いだけじゃなくて強さも本物なのね!」
「お褒めいただけるなんて光栄です! だけど、私の腕はまだまだこんなものじゃありません!」
さらにフラウディア、攻撃の手を緩めることなく攻撃を続けた。すると――
「ふふっ、確かに強いわね、だけど、これでどうかしら?」
リリアリスは得意げになって攻撃を受け止め、フラウディアに攻撃を放とうとすると――
「残念でーす! というわけでお姉様、ごめんなさい!」
フラウディアはなんと、リリアリスが構えたタイミングと同時に技を繰り出し、
リリアリスのその構えを貫くと同時に攻撃を的確に命中! さらに追撃でお腹に一撃を浴びせた!
「うっ、なかなかやるわね、流石というべきか――」
リリアリスはその場で崩れると、お腹を撫でながらそう言った。
「マジか! あの人、すごい強いな! リリアさんが手加減しているとはいえ、あんなに強いのか!」
ティレックスはその光景に驚いていた。
ティレックスはリリアリスと勝負していた時のことを思い出した。
「そんな腕で、愛しのユーシェリアちゃんを嫁にもらいたいだなんて――1,000年早いわね!」
俺はそんなことを言った覚えはない、ティレックスはそう思っていた。
「さーて、今日の課題、残念だけれども、あと30分しかないわよ?」
今日の課題、それは、目の前にいるお姉さん、リリアリスLv.11を斃せという一件意味不明なミッションである。
レベル表記があるのはその分だけ手加減してもらっていることの表れであるが、
とにかく、修行の成果として日没までにリリアリスLv.11を斃さなければいけないのである。
だが、ティレックスは残念ながら、その日のうちにリリアリスLv.11を斃すことはできなかった。
それでも、ティレックスは着実に強くなっていた。
結果、リリアリスLv.11を倒すことができたのは、あの日の勝負から半年後のことだった。
今回のチャンバラで相手をしたのはリリアリスLv.19である――とはいえ、
彼にはそれを乗り越えるのがどうしても敵わない日々が続いていた、また半年かけるのだろうか。
しかし、此度のフラウディアはどうだろうか――
「流石ねフラウディア、どっかのルダトーラの団長とはえらい違いね。」
それを聞いたティレックスは心の中で「おい!」と突っ込まずにはいられなかった。
その光景を見ながらヒュウガは言った。
「あれはリリアリスLv.32といったところだな。
数字が細かい理由は知らんが、要するに、あれを破っている以上はお前よりははるかに強いってことだ。
ちなみにLv.30代だと、基本的にはそこいらの通り名持ちを相手にする場合ぐらいの自分の強さだそうだ。
それ以上ってことは、通り名持ちの中でもかなりの強さだってことは間違いなさそうだな、あの女――」
通り名持ち以上……ティレックスは驚いていた、自分とはそれほどの差があるのか、と。
「まあ、確かに――私たちはある意味戦闘マシーンみたいな育てられ方をされたから、
そういうのがあるかもしれないわね。
だからこそ、私たちはガレア軍に、あなた方に助けられたこと、今でもありがたいと思っているわ――」
フロレンティーナがそう言うと、リリアリスは頷いた。
「本土軍の育成方針の被害者ってことね――」
それに対し、フラウディアがリリアリスに訊いた。
「でも、お姉様は自分の強さをまだ隠しているように思えます。
何故、使わないのですか? それほどの力があるのなら、本土軍なんか――」
そう言われたリリアリス、立ち上がりながら言った。
「いい質問ね、いいわ、リリアリスLv.31を破ったんだから教えてあげる。」
ヒュウガの言ったLv値の予想はいい線いっていたようだ。
「ん? 11、19、31……そうか、なるほど、プライム・ナンバーか」
なんの発見だよ、ティレックスはそのヒュウガの発言に対してそう思わずにはいられなかった。
しかしそれに対し、リリアリスはヒュウガに対してにっこりとして応えていた、こいつらなんなんだよ……
それはそうと、何故力を使わないのかというフラウディアの問いにリリアリスは答えた。
「第一に、そもそもなんで自分がそれほどの力を持っているのかわからないからよ。
力の使い方を誤ると、自分の身を危うくすることにもなる、
だから、自分を守るために、誰か守りたい人を守るために使うのなら全然いとわないけれども、
他人を傷つけるために使うのは、どうしても気が引けてね――」
と、リリアリスは言った。
”フェニックシアの孤児”の例にも見るような”ネームレス”たち、
記憶がないということはどうしてその力を持っているのかもわからないということである。
それ自身が危ないことでもあるけれども、
だからこそ、滅多なことで使いたくないというのは彼らの心理としては当然のことなんだろう、
話を聞いていた何人かはなんとなく納得していた。
「それに、いくら力があると言っても、自分の力は別にそこまであるとも思ってないからな、
だから、わざわざ使おうなどと思っていないだけだ」
と、ヒュウガが言った。どうしてその力を持っているのかもわからないということは、
言い換えればそんなに大した力を持っているわけでもない可能性があるとも考えられる。
目的があっての力だから、その目的のために力を得る手段がわからなければ、
実際に使用した場合の効力なんてたかが知れているのかもしれない、言われてみればそうかもしれない。
「確かに、それもそうよね。
だけど、使わない理由として、もう一つ決定的なものがあるわ。
それが三つ目で、そもそも力の使い方を知らないのよ。」
と、リリアリスが言った。
記憶がないということは、そもそも力の使い方がわからないということでもある。
使えることは知っているが、いつぞやの戦いのときのように、
正しい手順がわからないために力を制限せざるを得ない状況も過去にはあった。
確かに、そう言うことであればどうしようもない気がする。