エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

紡がれし軌跡 第3部 対決!ディスタード 第4章 夢と希望と現実と絶望と

第59節 水産加工ユニット

 ヒュウガの言うフィッシャリーズ・ユニットの中では女性陣5人が入っていた。 いつぞやのバス・ルーム・ユニットと同じように、内部は外観の大きさからは想像もできないほどの広さだった。
「広いですねー! こんな広さを維持するなんて結構な魔力を使うんじゃないですか?」
 フラウディアが嬉しそうにそう言うと、リリアリスは言った。
「もちろん、だいぶ使うわね。 でも、実はエネルギー源となるパワーは海の水などからもとれるから、実質半永久的に維持し続けるってワケよ。 まさにクリーン・エネルギーの象徴といっても過言でもないかもしれないわね、この船は。」
 そう言うと、フラウディアは感動していた。
 すると――
「あっ! 来たよ!」
 ユーシェリアはユニットの外側から魚が飛び込んできたことを確認した。
「なるほど、釣った魚はそのまま”いけす”の中に直接放り込んでしまう設計なのね、よくできているわ、このユニット――」
 フロレンティーナは感心していた。 すると、フラウディアはそのいけすのほうに近づき、中を眺めていた。
「わぁ! 大小いろんなお魚がいますね! これ全部、お姉様が釣った魚ですか?」
 リリアリスはいけすの中からフェラント・サーモンを取り出しながら言った。
「ええ、これは前に釣っといたものね。 サーモンと言えば女子に大人気の魚、せっかくだから、みんなで生の魚を頂きましょうよ。」
 えっ、魚を生で食べる!? フラウディアとフロレンティーナは驚いていた、それもそのハズ――
「ディスタードってそもそも魚を生で食べる習慣がないのよね、私はむしろそれ驚いたぐらい。 だから最初はジェレイナもシェミルもラミキュリアもみんなみんな身構えていたけれども、 私らが平気で食べている様を見てからは、誰でも普通に食べられているわね。」
 と、リリアリス、さらにユーシェリアも言った。
「アルディアスもそうなんだよ。 アルディアスで生魚はドレッドノート・イエローテイルとマーリン・ライオンぐらいしか食べませんが、 ほかの魚も生で食べられるってお姉様に教えられて以来、どの魚も生で食べられるようになりましたね!」
 ディスタードは島国なのだが、元はルシルメアの陸繋島中央部、ちょうどヘルメイズ領のあるところに王国があった。 それゆえか海がやや遠く、魚を生で食べる習慣がないのである。 そして、アルディアスはドレッドノート・イエローテイルが良く取れ、 たまにマーリン・ライオンがよく取れる時期がある程度で、 他の魚は焼くか加工品でしか食べることがないため生で食べるという習慣がないのである。
「うーん、私は――そういうこと考えたことないなぁ……」
 そしてシェルシェル、ラブリズでは魚によるが、アルディアスよりも生魚を食べる習慣があるので、ほとんど抵抗がないようだ。
 そんな話をしている中、リリアリスはフェラント・サーモンを巧みな包丁さばきで開いていた。
「なんだか素敵な技ね。私もちょっとやってみたいかも――」
 フロレンティーナはリリアリスの包丁さばきに魅了されていた。
「はい、これが鮭の大トロの部分。 生で食べるのなら一番おいしいところだからぜひ食べてみて。」
 と、リリアリスは大トロ5切れをお皿に乗せると、ジュレを乗せて5人に差し出した、ソイ・ソースのジュレである。 無論、今の話の通り、生魚については割と賛否のあるところである。 特に、ある程度歳いってからではどうしても受け入れられないこともある、舌がそういう舌になっているからである。
 そんな背景の中、その5人は――
「やっぱりサーモンはおいしいですね!」
「うん! 私、サーモンだーい好き! ヘルシーだし!!」
「溶けるぅ~♪ 口の中で溶けるぅ~♪」
 もはや食べ慣れているラミキュリアとユーシェリア、そしてシェルシェルは何の抵抗もなく口に運んでいた。
 そして、生魚初体験のフラウディアとフロレンティーナは恐る恐る口に運ぶと、意を決してそれを食べた。
「えっ、何これ、おいしい――!」
「こっ、これが生の味なの!?」
 あまりのおいしさに驚いていた。
「そうよ。はい、炙り――」
 リリアリスはさらにサーモン5切れをお皿の上に用意し、 炎魔法で軽く炙ると、そこにジュレを置いた。
 食べ慣れているラミキュリアとユーシェリア、そしてシェルシェルについては言うに及ばずだが、 初体験のフラウディアとフロレンティーナにとっては口の中で革命が起きていた。
 さらにリリアリス、調子に乗ってドレッドノート・イエローテールを”いけす”から出すと、それをさばいていた。
「アルディアスではお馴染みの鰤、私も大好きな魚よ。はい、どうぞ――」
 リリアリスはやはりトロの部分を5切れ用意すると、そこにもジュレを乗せた。
「やっぱり鰤おいしい……」
「ほんと、生で食べるイエローテールがこんなにおいしいものだったなんて――」
「ふわぁ……幸せ……」
 ユーシェリアとラミキュリアとシェルシェルのほっぺたは落っこちていた。 しかし、サーモンとは違った様相のイエローテールに対し、フラウディアとフロレンティーナの2人は少し慎重な姿勢だった。
 そして、意を決して口に運んだ2人は――
「えっ、おいしい――」
「ウソでしょ!? こんなにおいしいの!?」
 そこへリリアリス、鰤と一緒にワサビを細かく刻んだものとすりおろしたものを並べて用意した。
「お刺身の臭みが気になるんだったらこれもつけて食べるといいわね。 つけるものは塩でも醤油でも、お好みで何でもどうぞ♪」
 そう言われた2人はそちらも試してみた。
「おいしいでしょう? お酒にもちょうどいいんですよ♪」
 ラミキュリアが楽しそうに言うと、フロレンティーナが嬉しそうに言った。
「確かに! お刺身ってお酒のアテにもちょうどよさそうね!」
 ラミキュリアの女子会と称した酒のみ友達が現れたようだ。
「なあ、おい、女性陣は早々に始めてしまっているみたいだぞ――」
 ユニットの外からその様を覗いていたティレックスはそう言うと、ヒュウガは答えた。
「いつものことだ、なんか言うと面倒でしかないからな。 どうせ俺らも後で食えるわけだし、ここは好きなようにさせとけ」

 そして、”いけす”にあった数多の魚をさばいたリリアリスはそのまま豪華刺身盛りを完成、 リビング・ルーム・ユニットのテーブルの真ん中へと運んだ。
「まーた真昼間から豪華なもん用意したな」
 ヒュウガは楽しそうにそう言った。
「でしょ。私もこんなの久しぶりだから――ちょっとやりすぎたわね。 でもま、こんだけ人がいるんだから食べきれるでしょ、きっと。」
 リリアリスも楽しそうだった。 さらに炊き立ての白いご飯なども運ばれていく、昼間に食べるにしてはあまりに豪華すぎる御馳走ができあがった。
「こんな時間から流石に酒盛りを始めるわけにはいきませんよね――」
「そうね、それは後に取っとこうかしら――」
 お酒大好きラミキュリアとフロレンティーナの2人は自重していた。
「ま、そゆことでみんなでそろっていただきます。」
 リリアリスの挨拶に続き、主に黄色い声による歓喜で昼食がスタートした。