リリアリスは船を自動操縦に切り替えると、
各ユニットが並んでいるその一角で、ブルーシートで包まれているユニットを解放、
ブルーシートを船の一室に放り込んだ。
そして、ブルーシートに包まれていたものは姿を現した、それは――
「あれ? 電動リール!? 前ついていたやつと違くないか!?」
ティレックスはそう言った、前ついていたのはもうちょっと小さく、
それこそ、今回みたいに大規模にユニット化したものではなかったように思えた。
「前、”ハザード・シーブリーム”狙ってた時に”テンペスト”が引っかかってきてね、
そのテンペストはまた例によって蹴り殺して持ち帰ったんだけど、
機械のほうは完全にイカレちゃってダメ。だから船を新調する時にこいつもユニットとして作ることにしたのよ。」
テンペスト・シーブリームが引っかかるとは運がいいんだか悪いんだか――
ティレックスは驚きながらそう思っていた。
なお、ストーム・シーブリームはセラフィック・ランドとグレート・グランド大陸の間にある”魔の乱域”と呼ばれた海域でよく取れる鯛で、
ストームの名も”魔の乱域”と呼ばれるその場所に由来している。
そう、”魔の乱域”は名前の通り、非常に海が荒れやすく、過去には大きな渦を発生し、多くの船舶をも呑み込んだこともあったほどである。
そして、いつかのドレッドノート・ライトニングと同じく、ハザード・シーブリームはストーム・シーブリームの巨大魚、
テンペスト・シーブリームはさらにとびっきりの大きなサイズの鯛で、
例えば、運がいい方でリリアリスの船の電動リールを破壊する程度のように、
漁船の機能はおろか、漁船そのものをことごとく破壊するほどの深刻な被害をもたらすため、
なんとか駆除しておかなければいけないのである。
「言っても今回はそんな巨大魚を釣り上げるつもりじゃあないから、気軽にやりましょ♪」
リリアリスは釣り針にエダルニア・デビル――イカを取り付けて準備を整えていた、
えっ、ちょっと待った――ティレックスは嫌な予感しかしなかった。
「何よ、どうしたのよ?」
ティレックスの問いかけに対し、リリアリスはそう言うと、さらに続けた。
「だから、誰も巨大魚を釣り上げるつもりじゃあないって言ってるでしょ、安心しなさいよね。
確かに、今回の標的はそのストーム・シーブリームだけどさ。
ちなみに漁業権の問題についてはクリアーにしているから安心なさいよね。」
ティレックスは頭を抱えていた、マジかよっていう気持ちと、
釣りをする準備もすべて整っているのかっていう驚きの両方を味わった。
確かに、今の時期はストーム・シーブリームは海流に沿って移動をしている時期、
アルディアスの南西沖でも割と取れることでも有名で、まさに旬と言われている時期である。
とはいえ、今回は巨大魚の駆除ということではなさそうなので、そこは安心できた。
そしてもちろん、場所柄あの魚も当然のごとく取れる場所でもある、
今日のお昼ご飯も夕ご飯も非常に贅沢になりそうだ、ティレックスはそう予感していた。
「そういえば、セラフ・トラウトもちょうどこのあたりで取れる時期だよな」
と、ヒュウガも釣り針にエダルニア・デビルをつけながらそう言っていた、嘘だろ――ティレックスは頭を抱えていた。
そろそろ頃合いか、リールを垂らしてから数分後、ヒュウガはリールを巻きあげると、
釣り針にはそれぞれ大きな魚が釣られていた。
「マジか……全部魚が付いているじゃないか――」
ティレックスはそう言うと、ヒュウガは呆れながら言った。
「まったくだ、こればかりは俺にもどうしてかがさっぱりだ」
えっ、何か特別なことでもしているんじゃないのか、ティレックスはヒュウガに改めて訊いた。
「特になーんも。環境に配慮したワイヤーだとか針だとか、船の仕様もひっくるめて全部特殊なものだらけだが、
別に魚が引っかかりやすいとか、そう言ったことは一切ない。
現に俺が同じようにやったとしても、これが再現するわけでもないしな。
エサのつけ方も全く一緒だし――」
すると、魚のついていない針が海の中から現れた。
「マジでひでえな、あの針には俺がエサをつけていたハズだ、
別にそういう印があるわけではないんだが間違いないだろう。
まあ、要するにだ、あの女の好きにさせとけば何もかもうまくいくってことだ、
そう思って行動していれば間違いない、覚えておくといいぞ」
ティレックスはヒュウガの言ったことに対して呆気に取られていた。
「な、なあ、そう言えば釣った魚はどうなっているんだ?
ただただリールを巻きとっているだけみたいなんだが――」
ティレックスの疑問にヒュウガは答えた。
「ああ、ユニットの中だ。
こいつはただの釣り用のユニットでなくて”フィッシャリーズ・ユニット”だからな。
今は女性陣がこのユニットの中で魚でも捌いているんじゃないか?」