話をしている間に目的のルダトーラ南西部に到着した一行、
そこにはティレックスにとっては久しぶりに見たことのあるものがあった、
それはリリアリスの船だが、それにしてはなんだか違和感があった。
というのも、以前乗ったことがある船に比べて少し大きく、
搭乗口としていっちょ前にタラップが付いていたからであった。
「その顔はこれからどうするつもりかきちんと把握しているようね、関心関心♪」
リリアリスがティレックスに対してそう言うと、ヒュウガが、
「ま、俺が言ったからな。でなければこいつのことだからな、すぐには思いつかないだろうな~」
と、そこ意地悪く言った。それに対し、ティレックスは「はぁ!?」と言って驚いていた。
すると、リリアリスが、
「確かにそう言われてみればそれもそうね!
ティレックス君がそんな気の利くようなこと考えるなんて言うのも変な話ね!
ごめんねティレックス君、変な誤解しちゃって! 前言撤回するから許して!」
それに対し、ティレックスは再び「はぁ!?」と言って驚いていた。
なんて言い様だ――それはこの人の場合は非常にあり得る反応なのでこの際言うまい。
だが、問題はこの男――
「あんた……案外意地悪なんだな――」
ティレックスは続けてヒュウガをにらめつけながらそう言った。
「ん? 違うのか?」
ヒュウガはそう言って確認したが、違うとは言い切ることはできなかった、
的を射ていたからである……。
「言われちゃったね! ティレックス♪」
ユーシェリアは楽しそうにそう言った。
「なんで楽しそうなんだよ――」
ティレックスはやや呆れ気味にそう言うが、ユーシェリアはそのままニコニコとしていた。
「ま、人には人の役割があるんだから、それはそれでいいんじゃない?」
リリアリスがそう言うと、ティレックスは、
「それはどう考えてもそんな締め方をするようないい話じゃないぞ――」
顔をしかめながらそう言った。リリアリスは舌を出し、「てへぺろ♪」とか言っていた。
そんな話はさておき、まだ輸送車の中で話し合っていた他の女性陣に出るように促すと、
目の前にある船の存在に驚いていた。
「これ、お姉様の船なの!?」
フラウディアは目をキラキラと輝かせながら訊いてきた。
「そう、私の船。その名も”マダム・ダルジャンII”よ。
しかもスクエアの造船所とタッグを組んで作り上げた特別な代物よ。」
リリアリスが言うと、ヒュウガは頭を掻いていた。
その様を見ていたティレックスはこの船に名前があったんだと思ったのと同時に、
そう言えばヒュウガも開発に携わっていたって聞いたことがあったのを思い出していた。
しかも”II”ということは――やっぱり以前の船から変わっているんだなということをすぐに察していた。
「すごいわね! このご時世で個人で所有するこんな船を持っているだなんて、あなた本当に只者じゃあなさそうね!」
フロレンティーナも感動しながらそう言った。
リリアリスの船は少し特殊な船で、ティレックスらも知っての通り、
遠洋にも耐えるような装備が整っている中規模な大きさの船だった。
全長はまさかの32メートル、とても個人で所有しているような大きさの船とは思えなかった。
クルーザーや漁船、そのほかの小型船や中型船ならまだしも、リリアリスの船の存在は珍しかったようだ。
第一、この船は他の船にない大きな特徴があった、それは、この船はユニットというもので構成されていること。
乗せられるユニットはこの船の”接合部”の規格に沿っていればなんでも取り付けられるのが特徴だという。
「オート・バラスト機能がついているから船を安定させるために左右のユニットの重量を考える必要もないしな」
ヒュウガがそう言うと、リリアリスが言う。
「だからってそれに頼るとエネルギーを消耗するからね。エネルギー源は基本的には精神力、要するに魔法の力ね。
場合によっては自分で燃料補給もできるけれども、まあ、乗組員の消耗は少ないに越したことはないからね。」
一度は乗ったことのあるティレックスでも知らないことだらけだった。
「さあさ、能書きはもういいから、さっさと乗りましょ。」
リリアリスは全員にそう言って促すと、男性陣はともかく、女性陣は全員楽しそうに船に乗り込んだ。
そして、船は大海原に向けて出航した。
「はいよー、シルバー。」
リリアリスのそのセリフを聞いたヒュウガが続けざまに言った。
「はいよー、シルバー」
どうしてその掛け声? ティレックスは首をかしげていた。
というか、以前にもそれを聞いたことがあった、その時からずっと気になっていることである。
そんな中、船が動いてやたらと嬉しそうにしているフラウディアとフロレンティーナの姿があった。
「すごーい! すごーい!」
「すごいですね! 海っていいものですね!」
それに対し、ユーシェリアが言った。
「あれ? フラウディアとフローラさん、船は初めてではないですよね?」
どちらも元々本土軍のエリート軍人であり、ユーラル大陸の作戦では船を使っているハズ。
しかも、どちらもルシルメア大陸に渡るうえでは使用しているハズなので、
それでも、ここまで感動するものなのだろうか、ユーシェリアは疑問に思っていた、すると――
「あれは軍艦ですから。
やっぱり個人所有の船でということになると全然違いますよ!
しかもこのスピード感、すごくありません!?」
と、フラウディアは言った。確かにそういうものかもしれない、
武骨な代物で海を感じるよりかははるかに気分もよく、味があるというものである。
「あれ、そう言えばラミキュリアさんはこの船は初めてでした?」
ユーシェリアはそう彼女に訊くと、彼女は嬉しそうな顔をしながら頷いた。
「はい、いつも目の前にして見ていたりしたことはありましたが、実際に乗るのは今回が初めてですね!」
ラミキュリアは海へ少し身を乗り出して潮風を感じていた。
すると、ユーシェリアが聞いて回っているその様子に対してティレックスは訊いてきた。
「あれ、もしかして、ユーシィはこの船初めてじゃないのか?」
すると、ユーシェリアは――
「うん、何度も乗ってるよ、この前の船だけどね」
やっぱり、前の船とは違う船なんだとティレックスは思った。
ユーシェリアはさらに続けた。
「その船でお姉様と一緒にあちこちに行って、いろんなものにであったし、
もちろん、戦いの腕も磨いたんだよ。あの時も楽しかったなぁ――」
ユーシェリアは何やら感傷にふけながらそう言った。
さらに続けざまに話をした。すると何故だろうか、その時の表情は暗かったのである。
「ねえお姉様、ベッド・ルーム・ユニットは……?」
あっ、ベッド・ルーム……ティレックスはその話について思い出した、それって確か――
「ええ、やっぱりどう考えてもスクエアに置いてきたとしか思えないのよ、だからつまり――」
リリアリスも暗い表情でそう言った。
スクエアに置いてきた、以前ティレックスもリリアリスの口からそう聞かされたことがあった。
スクエアはセラフィック・ランド消滅事件の影響で消滅している、
そして、そのベッド・ルーム・ユニットの中には大切なものを忘れてきた――。
ユーシェリアもその大切なものが何なのかは知っているのだろうか、
大切なものと言ってもたかが知れているハズ、ティレックスは今までそう思っていたが、
2人の表情を見るや、余程のものだったに違いないと、この時改めて考えさせられていた。