それにしても、どういうことだろうか、先に進むにつれ、あちこちから激しい剣撃音がする。
つまり、アーシェリスら以外にも、何人かがここに駆けつけてきているということになるのだけれども、
一体どうしてだろうか、それに対して、ラスナが答えた。
「アール将軍の差し金よ。
ガレア軍はエダルニウス軍を見張っているけれども、
ここを攻めるために水面下からエネアルド軍に協力を要請してきたのよ」
エネアルド政府には気をつけろ、アールが言っていたことである。
だから、アールとしては別のルートで、信頼できるルートを経由して直接エネアルド政府の軍責任者へと協力を要請してきたらしい。
それがなんと、ラスナを頼るルートだと考えたらしい。
それこそ、ラスナはフェレアの身をいつも案じており、ガレアとも直接情報交換を行っていた、
そのため、アールがラスナを頼るのも必然だったという。
それに、ラスナには政府関係者にも友人がおり、顔が利くという。ラスナは頼る人物としては正解だったようである。
にしても、エネアルド軍が駆けつけてくるとは、アーシェリスらには一切知らされていないことである。
まあ、アールらしいといえばアールらしい、今更なのでもはやどうでもいい。
本当はどうでもよくはないが、もはや怒りを通り越すようなことなので割愛する。
それにしてもラスナを疑うなんて、アーシェリスとしては複雑な心境だった。
しかし、そこはラスナ先生、そんなアーシェリスに対して言った。
「いいって、この状況じゃあ疑われても仕方がない、あのブリンダさえも御覧のあり様さ。
まあ、言われてみれば――不自然な行動もいくつかあった気がするけれども後の祭りさ。
ガラディウシスのやつら、案外手練れをそろえているようで、みんなやられていったよ、
多分、ブリンダが内通していたからだろうね……。あとは恐らく――」
恐らく――最深部で待ち受ける”魔王”というやつが最後ということだろうか。
これだけエクスフォスの軍勢が迫ってきているのに、”魔王”を討つのがアーシェリスらになるのか?
「今までその”エクスフォスの魔王”というのがいたという史実も一切ないのだけれども、
噂では、どうやらそいつはなかなか強力な使い手らしい。
そういうこともあって、エネアルド側もやつについて調査しているのだけれども、
詳しいことは一切分かっていないんだ」
しかし、そいつがここにいるというのか、アーシェリスらは息をのんだ。
「だけど、その”切り札”というのがいるからな、それでなんとかやるしかない――」
と、ラスナは言った、切り札って? アーシェリスはラスナに聞き返した。
「ああ、実は――アール将軍が言うには、ここにいるフェレアがその”切り札”らしい」
どういうことだ? フェリオースはそう言って驚いていた。
何故、彼女が”切り札”なのか、それは彼女が拉致された理由にもつながることらしい。
まず、それを説明するには、その”エクスフォスの魔王”に会う必要があるらしい、そこで特信を得てからだそうだ。
そして、この迷宮の、恐らく最深部にて、”エクスフォスの魔王”と対峙し、話をしているうちに特信を得ていくのである。
それはラスナだけではない、フェレアが拉致された理由を知っているかに関わらず、アーシェリスらも不思議と関係があるように見えてきたのだ。
建物の一番奥の部屋、”魔王”は待ち構えていた。
「ようこそ、忌まわしき者どもよ――」
こいつが”エクスフォスの魔王”なのか?
黒いマントとフードで身を包み込み、そして、なんだか妙に禍々しいオーラをまとっているという、
いかにも邪悪な存在という感じ丸出しで、まさに”魔王”と言わしめるような要素を醸し出しているが、果たして――
こいつがその”エクスフォスの魔王”だとすれば、
こいつこそがすべての元凶、ガラディウシスをまとめる存在ということになる。
「忌まわしき者どもって――あんたに言われたくない!」
ラクシスが柄にもなくそう叫んだ。
「貴様はソウル・ディパーチャーか。
ククッ、いいだろう、ソウル・ディパーチャーという存在に免じて、貴様だけは生かしておいてやろう!
せいぜいエクスフォスの御霊を忌まわしき存在という呪縛から解放してくれるといい!」
「くっ、こいつ、言わせておけば――」
ラクシスはこの魔王というやつがますます許せなかった。
周囲には犠牲となった同胞たち、さらに怒りがこみあげてくる。
しかし、言い換えればこれだけの人数をしてもこいつには勝てなかった、
つまり、こいつは相当の使い手ということになる、まさに”魔王”である――
「何故私たちを忌むものとして虐げるのだ?」
ラスナは魔王にそう話しかけた。
「私が忌むものとみなしているのはエクスフォスのみ、貴様などどうでもよい。
だがしかし、忌まわしきものを擁護するというのであれば、たとえ何者であろうとも容赦はせん。
すべて忌むものとして私の敵とみなす。
さすればその命、今すぐに差し出すがよい、今すぐ浄化してくれよう――」
あくまでターゲットはエクスフォスのみ、どうしても滅ばなければいけない存在なのか?
「何故、エクスフォスは死ななければいけないの?」
クレンスが訊いた。
「知る必要などない、第一、知ったところでどうにもなるまい!
忌まわしき存在であることに変わりはないのだからな!
それに、どうせ死ぬのだ、今更どうでもよかろう!」
どうでもよくない! 大体、何がエクスフォスの魔王だ!
何故、魔王なんだ! アーシェリスは訴えるように訊いた。
「くどいようだがエクスフォスだからだ! お前らを根絶やしにし、そして私も共に滅ぼう――永遠に!」
エクスフォスの魔王などと名乗り、勝手に俺たちの命を弄びやがって、こいつは何様なんだ!
アーシェリスはそう訴えると、魔王は不気味な笑い声を上げた。
「何だ! 何がおかしい!」
アーシェリスはムキになってそう言い返した。
「何様だか知らん、だと? そうか、これではわからなかったか。
いいだろう、これならわかるはずだ――」
すると、魔王は黒いフードを脱ぎ捨て、素顔を現した。
その顔、右頬にはおびただしい数の切り傷が刻まれているが、アーシェリスはその男の顔に見覚えがあった――
「まっ、まさか――」
アーシェリスのみならず、エクスフォス組はラスナを除いて全員が驚いた。
それに対し、ラスナが言った。
「アール将軍に聞かされた時は驚いたが、まさか本当に、貴様がそうだったのか――」
そう、こいつは――アーシェリスとクレンスの両親の仇、ロバールだった。
エクスフォスの魔王の正体はロバールだった。
ロバールと言えば、アーシェリスとクレンスの両親を殺し、
そして、”魔剣グリフォン・ハート”を奪った張本人である。
「アール将軍が言うには、フェレアは”魔剣グリフォン・ハート”の謎を探るためにいろいろと情報を探っていた。
もちろん、その延長上にはロバールがいる。
つまり、こいつを倒すため、”魔剣グリフォン・ハート”の謎を探ろうとしていたんだな?」
ラスナがそう言うと、フェレアは頷いた。すると、フェリオースが話を続けた。
「ところが、謎を探っている最中にガラディウシスの策略によって捕まっちまった。
姉貴はあちこちから情報を入手している、特に、とある組織――ディスタードのガレア軍から。
ガラディウシスはその組織をあぶり出すためにすぐには殺さず、その組織に対する取引の道具としてわざと生かしておいた。
それが巡りに巡って俺の知るところとなり――そういうことだな」
つまり、フェレアが”魔剣グリフォン・ハート”に対策するための情報集めに失敗したため、
フェリオースまでもがこいつらに捕まってしまった、ということらしい。
「いや、だけど、情報集め自体は成功しているようだ。
だから、アール将軍はフェレアを”切り札”と言っていた」
すると、ラスナはフェレアに何やら耳打ちをしていた。彼女は的を射たのか、臨戦態勢を整えた。
「ほう――この剣を退ける力を得ているとでもいうのか――それは実に面白い!
だがしかし、剣を退けても、この私の力を退けることなどできはしまい!」
ロバールは剣を、”魔剣グリフォン・ハート”を抜きながらそう言った。
こうして、最後の戦いの火ぶたは切って落とされたのである――