そんなことを言っているうちに、恐らく、連中の居城たるその場所の目前へとたどり着いてしまった。
なんだか知らないけれども、やたらと焦げ臭いような気がする。
それもそのはず、お城の中を、一度焼き払ったような感じである。
入り口付近あたりが、明らかに何かを燃やしたような感じで煤けている。
「居城とするために、一旦燃やして内部の害虫を駆除とかでもしたんだろうなー多分」
ユーシェリアはそう言った、なるほど、それは手っ取り早いといえば手っ取り早い。
「敵はこの中にいるのだろうか、とりあえず、中に入って調べてみるほかないな」
ティレックスはあたりを見回し、とりあえず、そう提案した。
しかし、自分たちがここまで来ている状況となると、恐らく、敵もこちらの存在に気が付いているはずだ、気を抜くなよ。
さらに内部へと侵入するわけだけれども、そこで問題が一つ起きることになる。
「要するに上か下、どちらへ行くかということか。魔王的には上にいるものなんだろうか、それとも――」
そう、問題は、階段の上のほうの階層に進むべきか、地下のほうに進むべきか、ということだった。
目の前に、上へ向かう階段と下へ向かう階段の2つが現れたのだった。
しかし、それを悩む必要はすぐになくなってしまった。
そう、目の前に敵が現れたのである。しかし、そいつはほかでもない、フェリオースだった――
「フェリオース!?」
「アーシェリス、俺たち、どうなるんだろうか――」
フェリオースは剣を引きながら、アーシェリスに話しかけてきた。
「わからない。ただ、お前は、お姉さんを何とか助け出したいし、俺だって――」
フェリオースの気持ちもわからなくもない、エクスフォス1人が人質に取られているのだから。
それはアーシェリス自身だって、立場が逆転している可能性さえあった、だったら敵の側につかなければいけない。
いや、フェリオースとお姉さんが取られている以上はアーシェリスらも敵に加担しなければならない状況かもしれない。
しかし、フェリオースのこの行動といい、特に人質宣言があるわけでもないというこの状況、
連中にしてみれば、やはりリファリウスがにらんだ通り、そこまで考えた行動というわけではないのかもしれない。
「フェリオース、俺はどうしたらいい?」
「どうしたらいいなんてわからないな。
ただ、一つ言ってみるとしたら――アーシェリス、恐らくだけど、力を付けたんだろうな、
今のお前は俺を破る気満々な気がする――」
しかし、フェリオースに勝ったからって、何になるのだろうか、そこがよくわからない。
「試してみるか?」
アーシェリスはフェリオースにあえてそう言ってみた、
正直言うと、以前にフェリオースに負けたのが少し悔しかった、ただ負けたんじゃない、完膚なきまでのボロ負けである。
「試したいのか? 望むところだ――」
今度こそは勝つ――いや、実力的には一緒になったのかもしれない、
何とかして、フェリオースを、そしてお姉さんを、助け出す方法を見つけないと――
「アーシェリス君、そして、フェリオース君! 無茶してはいけませんよ!
必ず、必ず、連中の手からお姉さんを助け出して見せますから!」
バディファはそう言うと、他のみんなはそれぞれ手分けして、上と下の階層それぞれへと進んでいった。
アーシェリスとフェリオースはその場で戦っていた。
「くっ、アーシェリス、腕を上げたな――」
スレアから教えてもらった戦技がフェリオースにクリーンヒットした。
もう媒剣術がどうのと言ってられない。あらゆる手段を駆使し、相手を翻弄していくまでだった。
それがたとえ、相手が親友であるはずのフェリオースだろうとも!
アーシェリスがスレアから教わったのは、まず、とにかくパワーを強化するための媒剣術――というか魔法剣を学んで、
相手のパワーを圧倒することだ。
しかし、それだけでは、フェリオースを凌ぐことは叶わない可能性が高い。
言ったように、アーシェリスよりもフェリオースのパワーのほうが強いため、圧倒するなんて言うのは厳しそうである。
そこで、教えてもらったもう一つの方法、スレアには、そちらを教えてもらうように頼んだ、それは――
「フェリオース、まだ勝負はついていないぞ!」
アーシェリスはさらにフェリオースに追い打ちをかけた。
「くっ、何のこれしき! だからそれが甘いんだ、アーシェリス!」
フェリオースはアーシェリスが仕掛けた追い打ちの連撃を簡単に翻し、強撃の構えを放とうとした、しかし――
「遅い!」
アーシェリスはスキを突き、フェリオースの攻撃をかわしながら突きを放った!
「ぐわあっ!」
フェリオースの体勢は、明らかに崩れていた。恐らく、視界も歪んで見えることであろう。
そう、アーシェリスはフェリオースよりもスピードですでに圧倒しているため、
それを生かした戦い方でフェリオースを翻弄する手段をとることにしたのである。
やり方は一撃一撃の威力を重視するようなものではなく手数を重視したスタンスでの猛攻、
数発の軽い連続攻撃で適当にフェイントをかけた後、本命となる一撃の強烈な突きを見舞う技でフェリオースをいなしていた。
「くっ、くそっ……! まだだ、まだまだやれるっ!」
そのまま戦いは、特に決することなく、ただひたすら長引かせることだけを目的に続いた。
もはや、フェリオースがアーシェリスに対して決定打を仕掛けるような力は残っていない。
とにかく、互いに生き残るため、アーシェリスはいたずらに戦闘を引き延ばした、牙を折られたフェリオースを相手に。