エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

エクスフォス・ストーリー 第3部 決着へ 第5章 深みへ

第55節 ダガート島

 話はさらに続いた。問題の焦点は、連中の動きがない所である。
「恐らくだけれども、連中はそう簡単には動く気がない可能性が高いな。 連中がどんな勢力とはいえ、少数で人質もいるぐらいだから、 そう言ったことを考えると、何かをやるんだったら犯行声明とか、 こちらでもわかるぐらいの大きなアクションを起こすのが普通だろうだろう。 でないと、人質を取った意味ってあまりないような気がする。」
 人質というのは、フェリオースとそのお姉さんのことだ。フェリオース自身もある意味人質だと思って考えていいだろう。 確かに、人質がいれば、それを盾にもっと堂々としてきてもいいわけだし、 既にエネアルド政府がやつらの手に落ちていてもおかしくはないことだろう。
 だけど、ルシルメアで宣言した割には、特に動いてくる気配がない。 そもそも人質の話でさえ出てこなかったという。もしかして、宣言なんてものはただのハッタリだろうか?  人質のことさえ言及されないとはもはや意味が分からない、どういうことだろうか?
「いや、アーシェリス君、どうもそれも違うみたいだよ。 実はシャディアス君のこの情報なんだけど、”エクスフォス・ガラディウシス”の活動拠点が判明した少し後に入ってきた情報なんだ。」
 ということはつまり、自分たちの存在が明るみになってしまうことで焦りが生じ、 それで攻めると宣言したと考えるのが有力そうだ。だが――
「うーん、どうだろうか、そういう見方もできるけれども、もっと有力な考え方があってね。」
 なんだその考え方は、アーシェリスはずばり聞いた。
「仮にも”エクスフォス・ガラディウシス”、実力集団だ。 そんな集団の一部であるコルシアスを、こともあろうに、うちのお姉様が亡き者へと誘ったんだ。 つまり、連中は、私らのことを試そうとしている、そのことの現れなんじゃあないかなというのが有力なんだよね。 人質というカードをあえて隠しておく点でも説明が付く、あくまで最後の切り札として残しておいて、 いざというときにカードを切る、ということなんじゃないかな?」
 そうだ、そういえば、殺人鬼コルシアスを倒している方がここに入るんだ――アーシェリスはそう思ったが、 見渡してもその人物が会議室の中には見当たらなかった。
「”エクスフォス・ガラディウシス”の活動拠点、多分”魔王城”と呼んでも差し支えないような感じだと思うけれども、 その魔王城の場所は”ダガート廃城”のある場所だ。多分、”ダガート廃城”が魔王城そのものになっていると思うけれどもね。」
 リファリウスの話では、”エクスフォス・ガラディウシス”の活動拠点である魔王城の所在が判明したことで、 連中は焦って宣言したのではなく、こちらを焦らせるために、そして、こちらを試すためにさっさと来いと言っているのだという。
 それにしても、その魔王城となっている”ダガート廃城”とは? それについてはスレアが答えた。
「ダガートってのはリベルニアよりもさらに北にあった孤島の島国だ。 国の政策が問題で民衆の反感を買い、一夜にして滅んだ国なんだそうだ。」
 城は孤島の中央で、孤島自体が山の中に閉ざされているらしい。 閉ざされているだなんて――魔王城の不気味なイメージにはぴったりだった。

 リベルニアはあの時の混乱に乗じてガレア軍が抑えたという、用意周到だった。 しかし、ガレア軍が一気にリベルニア上陸したのはよかったのだろうか、 エダルニウス軍を警戒しているのではなかったのだろうか。 いや、余計な心配だったのだろうな、もうリベルニアはとうに抑えたし、 エダルニウスも特にこれと言って仕掛けてくる様子もなさそうである。
 それについては、エダルニウスの総指揮をとっているガリアス自身に別の思惑があるようで、 リスティーンはリベルニア内でそれについて何かをつかんでいる様子だった。 それを踏まえてのことだったようで、ガレア軍はあえて強硬策に出たということらしい。 だとするとエダルニウスのガリアスとはなんだか得体のしれないやつのようだ。 だからこそ、リファリウスもとい、アールはガリアスを警戒している。
 そこで、ガレア軍が抑えたリベルニアの話に戻るけれども、どうやら、魔王の島へ乗り込むため、 ガレア軍も協力してくれるようで、とりあえず、リベルニアまで連れて行ってくれるらしい。 そして、今やダガートを支配する勢力は連中以外におらず、 旧リベルニア軍もエダルニウス軍もノーマークらしいので、 リベルニアからそこまで連れて行ってくれるということらしい。

 ところが、ガレア軍の事情が変わってしまったのだ。
「急にどうしたんだ?」
 事情が変わったことについて、アーシェリスらはリファリウスに聞き出した。 その日はすでに帝国にいるはずのリファリウスというか、アールと電話で話をしていた。
「ごめんごめん、実は、強行してリベルニアを抑えたはいいけれども、 ここで下手な行動を起こすとエダルニウスにやられる可能性が出てきたんだよ。 ディスタード内もちょっとごたついている状況だしね――というのも私の手で招いたことではないとも言い切れないことだけど。 だから、少し趣向を変えて、エダルニウス軍を警戒する部隊を送りつつ、 ダガート島へ裏からキミらを送り届けるようにしようかと思ってね。」
 確かに、ガレア軍としては、あまりエダルニウス軍にはスキを見せないほうが賢明だと思われる。
 ただでさえ自国でマウナを、ガレアもマウナを潰すために行動を起こし、 それによってマウナを取り巻いていた環境は穏やかでない状況がしばらく続いている、 国の体勢が変わるというのは何かと大変なことであるのは容易に想像がつく、具体的に何と言われると困るが。
 そして、そのうえでさらにリベルニアを抑えている状況、 兵力的にも余所にかまっているような余裕なんてないのは明白である。
「だから、こちらから出す兵力は限定することにしようかと思ってね――」
 すると、それに対してアーシェリスは言った。
「いや、それならむしろ、出さなくていいんじゃないかな。俺らは俺らで何とかするからさ。 その代わりといったらなんだけど、ダガート島へ向かうための船を貸してくれるとうれしいんだが、 もちろん、ディスタード製以外の船だ。あんたなら、そのぐらい、なんとかチャーターできるんだろ?」
 と、アーシェリスは切り出した。 ダガート島へ向かうのはほとんどエクスフォス自身の個別の事案である。 だから、自分たちの自由だし、他所の勢力にとやかく言われることでもない。 そもそも、他所の勢力がノーマークなら、ガレアの兵がわざわざ出張ってくる必要もないだろう。
 自分たちはとにかく速やかにダガート島へこっそりと侵入する。 それ以上は何があっても自分たちの責任、そういう手はずで行くのはどうだろうか、 アーシェリスはみんなで相談し、アールにそう言った。
「ふふふっ、アーセイス君、ようやく、キミも大人になったんだね。」
 アーシェリスはこいつのこういうところがやっぱり嫌いだった。 言って後悔する内容ではないけれども、言う相手が間違いだったと思った。

 そういうエピソードがあったことはさておき、あれから2週間後、エクスフォス組はダガート島の目前へとやってきていた。 なんていうか、アールの目論見通り、エダルニウス軍などがもっと常駐していてもいい感じがするんだけれども、 そんな状況は一切確認できず、海は穏やかそのものだった。
 さらに加えて言うと、リベルニアから北の海は意外と広く、なかなかの距離だった。 デュロンド国という馴染みのない国の結構スピードの出るボートでそこへ向かっているけれども、 航海にも丸1日かかったようだ。なお、デュロンド国とはいうけれども、ティルア軍が所有しているボートだ。
「そろそろだな、修行の成果、見せてもらう時が来たようだな」
 ティルア軍が所有しているボートというとおり、クラフォードが同行しており、彼が船を操縦していた。 クラフォードにそう言われると、アーシェリスらは少し緊張した。 クラフォードは間違いなくアーシェリスなんかよりも実力は上、あのシェトランド人と違えるぐらいだから間違いない。
「さてと、俺は船番だ、誰かが船を守る必要があるしな。 まあ、”エクスフォス・ガラディウシス”の強者どもを退けて生きて帰ってくれればそれでいいというだけのことだ。 くれぐれも、死ぬんじゃないぞ」
 そうだな、確かに。死んだら元も子もない、みんなで生きて帰るんだ!